アメリカン・アニマルズ

アメリカン・アニマルズ(2018年:アメリカ)
監督:バート・レイトン
配給:ジ・オーチャード、ムービーパス
出演:エヴァン・ピータース
  :バリー・コーガン
  :ジャレッド・アブラハムソン
  :ブレイク・ジェンナー
  :スペンサー・ラインハード、ウォーレン・リプカ、エリック・ボーサク、チャズ・アレン

さる「マイブーム」という新語を作り出した漫画家は「青春の正体は無責任」と語ったが、その言葉を体現したかのような、責任と無責任の間で揺れた若者たちの青くて痛々しい、大それた強奪事件を描いた作品。作品冒頭で「これは事実である」という字幕が非常に衝撃的。
世にケイパームービー(強盗映画)は数あれど、ここまで痛々しい作品は珍しい。学生生活に憂いている芸術家気質の学生が、大学の図書館で1200万ドルの稀覯本を観たところから物語は始まる。何かを成そうと思っている親友がリーダーとなり強奪計画を立てて、将来FBI志望で秀才肌の気弱な友人と幼いころから事業家として成功している友人を誘って強奪を決行する。
ドキュメンタリー出身の監督ということなのか、合間に実際に強奪事件を起こした本人がインタビューに答えて、事件の動機や顛末を語っている。彼らが語っているということはネタバレに近いのだが、彼らの証言が同じだったり食い違っていたりするので、真実はより複雑化する。登場人物の容姿や行動、時にはストーリーが、異なる証言でまったく変わってしまう描写があり、人間の思い込みや都合の良い記憶のすり替えを見せつけられる。
彼らが参考にしたのは数あるケイパームービー。レザボア・ドッグスやオーシャンズ11などを参考に念密に計画を立てて、必要な人員、必要な道具、必要なタイミングを揃えていく。が、これがなかなか揃わない。イメージでは華麗に、スタイリッシュに強奪するが、実際は困難だらけ。そうそう簡単にいくものではないと思い知らされる。劇中でも指摘されているがレザボア・ドッグは皆殺しなので参考にしてはいけないと思うが、お互いをMr.グリーン、Mr.ブラックなどと呼び合うように仕向けたところにリーダーの自己陶酔を感じた。
強奪に向うときの焦燥感とタイトロープ感は更に痛々しく、悪い意味でハラハラドキドキした。自分が強奪の従犯のような後ろめたい気分になり、かなりの感情移入をしていた。いざ強奪を実行するとこんなはずではなかったということが山のようにあり、実行者互いの不和があったり、下調べが不十分であったりと、映画と現実はまったく違うことを痛感さられる。その後のミスも非常に致命的で、いかに彼らが甘かったかを露呈し、観手のこちらも同じ焦燥と不安に苛まれてしまう。
作中、強奪犯四人にインタビューしているが、彼らは特別な人間ではなく、ごくありふれた青年。本来は分別もあり、家族愛を大切にする若者。しかし無軌道な青春の暴走として片づけられるにはあまりにも大きな代償がついてしまうことを何度も気づきながら引き返せなかったことを彼らは後悔していた。当然彼らは大きな代償を支払ったが、支払いを済ませた後、それぞれの道を歩み始めている。これには賛否があるらしいが。
映画は小品ではあるが、ストーリー展開とそれぞれの個性、境遇が非常によくまとまっており、テンポよく観続けることができた。始めから徐々に盛り上がっていく痛々しさは強奪を決行するシーンでピークになり、痛々しいや辛いを通り越して、自分も強奪に参加しているような感覚になる。
多少BGMの主張が強い気もするが、うまくシーンに応じて選んでおり、ドキュメンタリー出身の監督とは思えないほどのセンスの良さが光る。エルヴィス・プレスリーの「A Little Less Conversation」に乗せて軽快に強奪をイメージしているシーンでは、ひょっとしたらうまくヤレるんじゃないかと思わされた。プレスリーのパンチある歌声は説得力を盛り上げる。
誰しも特別な人間を目指す時期はある。しかし時間の経過とともに自分の力不足や踏み出す勇気を失くして人の波に埋没してしまう人間が大多数。それは恥ずべきことではなく、彼らの無責任さに非常にいら立ってしまう。それでも自分には目を逸らすことができない映画だった。

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