ミリオンダラー・スティーラー

ミリオンダラー・スティーラー(アルゼンチン:2020年)
監督:アリエル・ウィノグラード
脚本:アレックス・ジト、フェルナンド・アラウオ
出演:ギレルモ・フランセーヤ
  :ディエゴ・ペレッティ
  :ルイス・ルケ
  :パブロ・ラゴ
  :ラファエル・フェロ
 
あんまり褒められる好みじゃないが、泥棒の大作戦映画が好きである。それが派手なアクションを使わず、知恵と度胸とハッタリで大金をせしめるモノならなおさら。緻密な計画と大胆な実行がスリリングな展開で繰り広げられるのを観るのが大好きだ。21世紀に入ってアルゼンチンのアーティストが起こした銀行強盗の実話を映画化したケイパーストーリー。
日々の生活に鬱屈している画家が、雨のある日銀行の前でタバコを投げ捨てた所から物語が動き始める。そのタバコは下水を通って川に流れ込んでいた。その下水の上には銀行の貸金庫がある。その貸金庫の中の富裕層の財産を狙って、画家は仲間を募って、更には腕利きの泥棒を誘い、五人の中年たちが集まる。それぞれ知恵を絞って、資材を集め、お互いを試し合い、五人は銀行強盗を決行。当然警察に包囲されるが、それも計画の内。彼らの銀行強盗は成功するのだろうか。事実は小説より奇なりを地で行く物語が展開される。
物語と計画は画家を中心に描かれる。計画を立てるとき、集中力が上がるからといって大麻を吸うような人物だが、銀行強盗という、セキュリティが高度化している現代では成り立ちそうにない犯罪にチャレンジする姿勢が痛快。あれこれ強奪の手段を考えて頭脳派の存在感がなかなか印象的。
もう一人クローズアップされるのが、画家にスカウトされた泥棒。ちょっと年を喰っているが、経験と機転を利かせて立ち廻り、どことなく素人感が拭えないメンバーたちに悪態をつきつつも。いざ行動すると銀行を鮮やかに占拠して、警察の交渉人を振り廻して見事に逃亡を図るというかなりのデキる人物。着こなしや佇まいが大人の男というカッコよさもある。泣きどころは自身の身勝手さに辟易している美容師の娘に甘く、彼女の気を惹こうとやっきになってしまうところ。一番人間臭さを感じさせられる人物でどこか憎めない。
彼ら二人を中心にいい年した中年の男どもが強盗の計画を練り上げるのだが、犯罪の匂いを感じさせず、遅れてきた夏休みの大冒険を計画しているような、明るく楽しいものを感じた。割とオープンに犯罪の計画を立てており、バーに揃ってピザを食べつつ一杯やりながら強盗計画を相談していて、その計画が次第に練り上げられていく過程が観ていて楽しい。
一方、強盗が始まるとスリリングな展開が始まる。派手に銀行に押し入って、瞬く間に占拠。誰一人傷つけることなく、計画通り警察が駆けつけると、計画通りに人質を取って籠城。警察の交渉人との駆け引きがリアルで面白い。ここで泥棒が活躍して、交渉人をけむに巻くのがさらに面白い。相手の交渉人も割とキャラクターも立っており、この物語での影の中心人物かもしれない。
オープニングからテンポよく進み、メンバーのキャラクターが際立って物語に集中できるが、自分が苦手な過去の挿入が時々あり、話が引き返すので自分にとっては不満な点。事実に即しているのだろうが、駆け引きや盛り上がりが少なく、ストーリーのピークがあっという間に終わってしまうのも難点。せっかく考えに考えつくされた計画と実行だっただけに、それぞれのメンバーのキャラクターを取り上げても良かったんじゃないだろうか。ほとんど画家と泥棒しか立ち廻りがないので、残り三人の個性が弱い。
よく考えられた話だなと感じて観ていると、脚本には実際犯行を首謀した画家の名前が。彼が脚本を書いたので、物語にリアリティがある。そう言えば実際の詐欺師が制作に関わった映画作品もあるらしいので、そういった作品は説得力が出てくる気がする。
ということは、最後の最後の結末は予想されるものだが、彼らが犯行に使った物の正体が実はってところが司法の隙を突いたものになっているのもなかなか面白い。そうそう、こういう頭脳プレーがケイパームービーの醍醐味なんだよ。ラストシーンはこれから何か愉快なことができそうな終わり方なのがいい。
でも、タイトルに「ミリオンダラー」ってついてるけど、アルゼンチンの通貨はペソだから、タイトルに偽り有。正しくは「ミリオンペソ」だよなぁって心の中でツッコんでた。

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