マローボーン家の掟

マロ―ボーン家の掟(2017年:アメリカ・スペイン)
監督:セルヒオ・G・サンチェス
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
出演:ジョージ・マッケイ
  :チャーリー・ヒート
  :ミア・ゴス
  :マシュー・スタッグ
  :アニャ・テイラー=ジョイ
 
アメリカの片田舎で世間から隠れるように暮らす四人のきょうだいたちが遭遇した恐怖の物語。きょうだいたちが力を合わせて苦難を乗り越えようとする姿と瑞々しい長兄と隣家(と言ってもアメリカなので結構遠い)の娘との恋愛劇も印象的。
アメリカが豊かだった頃、イギリスから母と四人の子供たちが海辺の片田舎へ移り住んでくる。家族は人目を忍ぶように暮らし始めるが、体調を崩した母は帰らぬ人に。きょうだいたちは母の死を秘密にして、長兄が21歳になり弟たち、妹を養育できる年齢になるまでひっそり暮らすように遺言される。弁護士からは家の権利購入のために金を督促されるが、手元には支払いができるの大金はない。四人は苦肉の策でいわくのある金で支払いするが、屋敷に何者かの気配がするようになる。きょうだいたちの父の秘密、長兄の秘密、長兄と恋仲の隣家の娘への弁護士の横恋慕等々、時間をかけて物語が進んでいく。
主役ともいえる長兄は弟たちや妹を引っ張って、高慢な弁護士との交渉に立つ。苦しみながら難しい選択をし、若いながらもたくましく生きていこうとする姿勢には応援したくなる。しかし、彼の心には大きな闇があり、序盤中盤では不可解な行動や言動が見られ、伏線やミスディレクションを誘う存在となっている。
そんな彼を支えるきょうだいたちの姿もいじらしい。お定まりだが、次男はちょっとケンカっ早くてお調子者だが行動的。長女は亡くなった母替わりでみんなを支え、特に幼い末弟を大事に思っている。そして幼い末の弟はきょうだいのムードメーカーとして愛嬌を振りまいていた。彼らには世間からひっそりと暮らさなければならない理由があり、その理由は現実の恐怖となって襲い掛かってくる。そして彼らの正体はひどく悲しい。
きょうだいたちと関わりがあるのが、隣家の優しい娘。彼女は長兄と恋人となり、ラブストーリーかなと思わせてくれるほど瑞々しい関係を見せてくれる。しかも長兄だけでなく弟たちや妹にも優しく接し、この作品の善き隣人でもあった。最後には危機に対して気丈に振る舞い、決して屈しない気高さも見せてくれた。
しかし、その長兄と彼女の間を割って入ろうとするのが高慢な弁護士。身形整え紳士然とした人物であるが、きょうだいたちの境遇を知っていながら高飛車に接し、あの手この手で近所の娘の気を引こうとする。求愛を断られると、きょうだいの身の上を暴露。自分の栄達のために長兄を恐喝して、人としての矮小さをクローズアップしている。ただ、こういう人間は世の中多いんだよな。
物語の序盤はきょうだいたちが力を合わせて暮らす情景と長兄と近所の娘とのラブストーリーがゆっくり進む。が、その中で不可解な展開の寸断や大量のポンド紙幣、大きな鏡にかけられた幕、天井のシミ、長兄の額の傷、会話の端々にでてくる「あいつ」の存在等々が散りばめられて、終盤には一気に物語が動き出す。彼らがなぜイギリスから逃げるようにアメリカに移り住んだかの理由も明らかにされるが、展開が凄まじく入り乱れるので伏線をしっかり覚えていないと「???」という状態になる。心霊ホラーと思って視聴してたが、実はサイコサスペンスだったという、こういう期待はしていなかったという間違えた気分にさせてくれたのが残念なところ。こういうサイコ的映画は好きなんだが、この日はホラー映画を見たかったんだが…。
ラストはハッピーエンドだろうと思う。近所の娘が選んだ道は人として尊敬ができる。愛した人に寄り添うときのほほ笑みは自分の心を打った。
展開がゆっくりとして一つ一つの展開や伏線を大事に作られた作品ではあるが、そこまで伸ばす必要があるのかと思うほど長い。それだけラストが印象深くなる効果はあるが、終盤までジャンルを間違えたなと思わされてしまうほど、ヒューマンドラマのように長兄の心情に重きが置かれている。スパッとスカッとホラーを楽しみたい人には向かない一本だった。嫌いじゃないけど。

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