ターナー、光に愛を求めて

ターナー、光に愛を求めて(2014年:イギリス・ドイツ・フランス)
監督:マイク・リー
配給:エンターテイメント・ワン
出演:ティモシー・スポール
  :ドロシー・アトキンソン
  :マリオン・ベイリー
  :ポール・ジェッソン
 
イギリスを代表する画家、ジョゼフ・ウィリアム・マロード・ターナーの半生を描いた伝記映画。画家ターナーの生きざまを光と影をテーマに絵が描かれた良作。
庶民の出ではあるがターナーは若くしてその画力を認められ、権威ある英国の画家アカデミーの会員として精力的に創作活動にいそしんでいた。元理容師の父と長年仕えている年増のメイドに支えられ、旅から帰ってはキャンバスに写実的かつダイナミックな絵画を描いていた。女性科学者のプリズムの実験に衝撃を受け、強く信頼していた父の死、旅行先での宿屋の女将と深い仲など、人生と感性に起きる波を乗り越え、次第にその作風が変化していった。それは賛否を巻き起こすものであった。
高名な画家の人生を静かに描く。彼自身秘密主義で、父の献身的な支援でその名を成したと言ってもいい。自宅ではアトリエの隣にギャラリーをしつらえ、顧客に売却している様子が描かれる。その際も父がしっかり管理し、売り込みをかけ、息子の才能を信頼している。息子のターナーも父に全幅の信頼を置いており、画材の購入から調合、キャンバスの作成まで頼っている。しかし、親子の信頼関係は父の死で無になってしまう。父の死後、年増のメイドでは画材の手配に手間取り、ギャラリーは管理が荒れ始める。父の死後のターナーの憔悴ぶり、精彩のなさから、彼がいかに父に依存していたかが読み取れてしまう。
次第に彼の作風はダイナミックさを維持したまま、自然の空間の光や空気を描く作風へと変化していくが、当時の画壇や顧客には先鋭的であり、理解にはまだ時間を必要としていた。お芝居で茶化されて、資産家からは価値があるということだけで購入を申し込まれたりと、彼の作品の真意を誰も読み解いていない。唯一人その絵の素晴らしを理解している貴族らしき批評家が絶賛していたが、過去の作家と比較してターナーを褒め称えているのを、過去のオールドマスターにも敬意のあるターナーが隠喩に似た言い回しで諭すシーンが印象的だった。そして展覧会では自分の絵の隣で、仲間の画家が赤い絵の具で鮮やかに塗っているのを見つけると、自分の淡いグレー中心の海の絵に赤いブイを一点書き足し、嵐の絵には更に沸き立つ乱雲を書き足すなど、旧態としたアカデミーに一石を投じるシーンも印象的であった。
そんな彼を支えた二人の女性も取り上げている。一人はその生涯の最後を支えたマーゲイトの宿の女将。ターナーに創作のインスピレーションを与え、二人で手を携えて暮らす生きる活力を与えていた。お婆ちゃんだが、コロコロと笑う笑顔が愛らしく、明るく楽しい女性。彼女と対になるのは長年仕え続けた年増のメイド。身分をわきまえ決して出しゃばらない性格だが、主人が描く絵には関心はない。献身的に支えていたが、主人からはぞんざいに扱われている。乾癬にかかっており、物語の時間が進むと身体を引きずるように歩いている姿に時間の残酷さと当時の最下層の人間の過酷な環境を痛切に感じさせた。物語のラストで彼女たちの境遇が対照的で光と影を感じさせる。
物語の中で、そのエピソードは必要か?と思われるシーンもたくさんあるが、概ねターナーの生涯をなぞっている。それが自然に演出され長尺の映画ながら観続けることができる。元理容師の父が息子のヒゲを剃っているシーンや船のマストに身体を括り付けて風雪に荒れた海を観察するエピソード、蒸気機関車を見て新しい絵の構想を思いつくなど。一番有名なのは解体に向かって蒸気船に曳航される戦艦テメレールのシーン。新しい英国20ポンド紙幣の絵にも採用された有名な風景画で、蒸気船と帆船、新しいものと古いものの対比が映像で見せられると心に切なさを感じた。
その生涯を通じて創作に意欲を保ち続けたターナーだが、後期の作は当時の画壇からは賛否があった。しかしその技術は、光の一瞬のうつろいを描きだす後の世の印象派につながっている。なお自分はターナーの絵で好きであり、「日の出 ノラム城」「雨 蒸気 スピード ―グレート・ウェスタン鉄道―」の二作が好きである。

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