トランス・ワールド

トランス・ワールド(2011年:アメリカ)
監督:ジャック・ヘラー
配給:ライオンズゲート
出演:スコット・イーストウッド
  :サラ・パクストン
  :キャサリン・ウォーターストーン
  :ショーン・サイポス
 
本当に自分は密室劇が好きだなと思う。何度逃げても、どうやっても古びた小屋に戻ってしまうという森の中に閉じ込められた、それぞれ境遇も身なりも、そして生きている時代も違う男と二人の女たちが脱出を目指すSFサスペンス。面白いのが主要キャスト三人がそれぞれ有名俳優の身内であること。
一人の女性が森の中で小屋を見つける。昨夜夫とはぐれた彼女は空腹に耐えかねて小屋の食料を盗み食いしてしまう。そこに男が現れ彼女は逃走するが男に見つかり、彼もこの森から出ることができないと告白する。二人で極寒の一夜を乗り越えるが、翌朝小屋の軒先にもう一人の女が倒れていた。三人は反目し合いながら森から脱出を試みるが、何度やっても小屋の前に戻ってしまう。そんな彼らには共通する秘密があった。
最初に迷い込むトレンチコートの女性にはキャサリン・ウォーターストーン。名優、サム・ウォーターストーンの実娘。そういや目が似てるわと、と納得。長身のスラっとした気品のある佇まいで見惚れてしまう。彼女は夫の家族へ結婚の許可をもらいに行く途中だったが、自動車がガス欠で夫とはぐれてしまう。妊娠しているのにタバコを吸うというありえない行動もあるが、オドオドした表情を見せ、将来のことや現実の異変に不安が隠せない。
その彼女を助けた青年がスコット・イーストウッド。これまた実父、クリント・イーストウッドの駆け出しのころを思い出させる精悍さがカッコいい。あぁ、親父がマグナムぶっ放してた頃はこんな感じだったなと思い出した。違うところは父親より普遍的な優しさを感じさせるところ。親父のは男の優しさ。脱出では彼が先頭に立つが、その実彼は女性陣に影響を受ける存在だった。
その小屋の前に倒れていたのが、序盤に恋人と商店強盗を働いた犯罪女、サラ・パクストン。彼女は亡くなって久しいビル・パクストンの遠縁にあたる。初っ端に強盗を働き、おそらく店主を撃って逃亡してる様子。作中では恋人もケンカの末射殺してしまったことも語られる。どうしようもないアバズレで跳ねっ返りの女だが、勝気そうな瞳に際立つアイラインを入れてクシャクシャになったショートカットの金髪が非常にセクシー。古臭いと指摘されたターコイズカラーのダウンベストも似合っている。うん、こういう女性キャラ好きなんですね、オレ。
彼ら三人、お互いの境遇を話す内容が食い違っているのがこの作品の要点。自分たちがいると思い込んでいる場所が異なり、強盗してきた紙幣や着ているものの年代が違ったり、トレンチコートの女が知らない未来の話を跳ねっ返り女がしたりと、どうやら三人とも違う場所や年代からこの森の中に閉じ込められたと示唆される。そしてその森の中で発見された地下室の存在。そこにあった缶詰には鷲と鍵十字がついていた。
ここまで観ると、もしかしてタイムスリップ物とか陰謀物とか思い浮かぶが、そこには言及はなく、彼ら三人に共通する事実が最後に浮かび上がってくる。作中時々聞こえる銃声がそのカギであり、時折彼らが見る白昼夢のようなフラッシュバックもそのカギとなる。彼らの未来を変えるためにこの森に集められたと感じるが、それには触れないのも謎めいている。
激しい爆発とそれぞれの混乱でラストに向かっていくが、そのラストシーンで彼女たち二人が登場してストーリーがつながる。青年は出てこないがおそらく…と想像させられるので観終わった後はスッキリした。
低予算の映画で、有名俳優の二世と親戚ということであまり期待していなかったが結構楽しませてくれた作品。世界も広がらず、派手なアクションもロマンスもないが、B級映画独特の独りよがり感はなく、逃れられない森の中を脱出しようともがき、お互いの境遇をぶつけあう姿が非常に面白い。最初と最後に出てくる商店店主の言葉が、もしかしたらこの話の始まりなのかもしれないと感じた。

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