クロッシング

クロッシング(2009年:アメリカ)
監督:アントワーン・フークワ
配給:プレシディオ
出演:リチャード・ギア
  :イーサン・ホーク
  :ドン・チードル
  :ウェズリー・スナイプ

ニューヨークの下町、ブルックリンを舞台に三人の警察官の生きざまを描いた作品。家族思いだが犯罪に手を染めている刑事、定年間際で波風立てずにやってきた巡査、そしてギャングのボスの懐に入っていく潜入捜査官。三人の行動が映画内ですれ違い、最後の結末へと重なっていく。
リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルと実績のある俳優たちが集まれば期待値は高い。それぞれ境遇は違うが同じ警察という枠内で、異なる思いからの不安にさいなまれるのが印象的。目立たず退職後の生活の妄想に逃避する者、金を求めるあまり犯罪に手を染める者、潜入捜査をこなしつつも危険を感じている者。それぞれの苦悩が伝わってくる。そして誰もその欲求を満たすことができず、代償を払わされることになる。
刑事のイーサン・ホークの演技が凄まじい。妻や子供たちのために新居への引っ越しを望み、金を必死でかき集めるあまり、殺人を犯してしまう。敬虔なカトリックなので教会に懺悔しにやってくるが、その告白があまりにも悲痛。ギャングのアジトへ強奪に乗り込む前のエレベーターでの祈りの表情は鬼気迫るものがあり、顔の半分にかかった影がこれから行おうとしている行為の罪深さを物語っている。救いようのない悲しさが伝わってくる。
潜入捜査官のドン・チードルも表情が素晴らしい。ヤリ手のギャングに身をやつしながら着実にギャングのボスの懐に入っていく。ギャングや警察官が殺されたことに敏感になり、別居中の妻には離婚を突き付けられている。上司たちは自分たちの昇進栄達しか考えておらず、駒の一つとしてしか見られていない。その中でもギャングのボスの度量の大きさに感化されつつある複雑な思いが表情に現れ、感情移入してしまった。
定年間際の警察官のリチャード・ギアはどこまで行ってもリチャード・ギアらしい演技で不安なく観られるが、序盤はもっと腰抜け感を出してもよかったのではと思った。物語の後半からは警察官らしい正義感と責任感が復活し、それなり見せ場がある。いい年の初老の男が、若い娼婦のおねぇちゃんに一緒に暮らそうというのはどうかと思うが。こういうヤツ、知り合いで知ってるわ。
ギャングのボス役のウェズリー・スナイプには驚かされた。どうしてもアクション俳優のイメージが強く、いつも寡黙で眼力に凄味のある強面武闘派のイメージがあったが、ファミリーたちのことを案じつつ、潜入捜査官を信頼する度量の大きさを魅せつけていた。ここまで笑っているウェズリー・スナイプを見たことがなかったのでびっくりしたが、取引の際の態度は間違いなくギャングのボスだった。最後も、アクション俳優のイメージを覆してくれた。いろんな作品を見るべきだな、やっぱり。新しい発見がある。
警察官三人の生きざまが交錯「クロッシング」するということだったが、残念なことにすれ違う程度に終始してしまったのが残念。街角でぶつかる、現場ですれ違う程度なので邦題のタイトルほどいい加減なミスリードはないと苦笑する。せっかく名優が揃っているのだから、それぞれが抱えた事件にそれぞれが何かの形で関り、最後の事件に集約されていく展開にしてほしかった。
結局誰一人として自分の欲求を満たすことができない。そこに警察組織に対する監督の不信感があるような気がしてならない。特に新人警察官の不始末をもみ消そうとする展開や、潜入捜査官の上司の横柄な態度、命を懸けて職務に当たっているのに報酬が見合わない等々、割と悪意ある描き方をしているのが気になる。映画的展開なので仕方がないが、あまりにも表現がくどいのでアメリカのVシネマっぽい(それでもVシネマの方がアイデアと技術がいっぱい詰まっているので馬鹿にはできない)。
三人の名優のパートそれぞれに何か一つ欠けた感じがする、どこかスッキリしない作品だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?