破門 ふたりのヤクビョーガミ

破門 ふたりのヤクビョーガミ(2017年:日本)
監督:小松聖太郎
配給:松竹
出演:佐々木蔵之介
  :横山裕
  :北川景子
  :橋爪功
  :国村隼
 
建設コンサルタントの男はある日、腐れ縁のヤクザから映画製作に協力しろと強引に連れ出される。しかしヤクザの組から映画製作の出資金を引き出したプロデューサーは愛人と共に失踪。二人を追う建設コンサルタントの男とヤクザは隣県の組と諍いを起こしてしまい、その手打ちのため映画製作費の手形決済を要求される。プロデューサーと愛人を追って建設コンサル男とヤクザはマカオへと乗り込んでいくが、実は裏には企みがあった。
まず訂正。カタギの主人公は建設コンサルタントと名乗っているが、建設コンサルタントという職種はこんなのではない。指摘するなら建設交渉人とか建設手配士というべき。ちょっと気になると頭に入っていかない。原作もそう書かれていたが。配役の横山裕は関西弁のネイティブスピーカーなので聴いていても癇に障ることはないが、表情が乏しく、笑っても、怒っても、困っても、悩んでも同じ表情なので心情に訴えかけるものが少ない。年齢も33歳の設定のためか姿格好が割と今時ラフな衣装のため、物々しい衣装の他キャストから浮いてしまっている。大人を感じるのは喫煙のシーンだけで、場違いな印象を受けた。
対してそのカタギの主人公につきまとうヤクザは佐々木蔵之介。この人には文句のつけようがない。完璧な関西弁のイントネーションに、極道的ないかついファッション。しかもそのすべてが似合っており割とカッコよさを感じる。対した敵にすごむ言葉の重さからの表情には迫力があり、ケンカのシーンは長い手足をブンブン振り回して勢いがある。演技が上手な役者はどんな役でもできると再確認させてくれた。そのヤクザがカタギの主人公と反目しながら切り取り(債権回収)を協力し合うのはちょっと痛快。反社なので気に入らないシーンもあるが、反社には反社なりの序列やルール、やり方があるので納得はできる。クスっと笑ってしまったのがカタギの主人公に対して「ワシのこと嫌いになったんか」と聞くシーン。カタギとヤクザの相容れない関係なのに、二人の間に流れる妙に親密な空気が面白い。切っても切れない腐れ縁っていうのはこんなのを言うんだろうな。
原作は黒川博行の疫病神シリーズ。社会の暗部や隙間にうごめく暗い利権を、先述の二人が凌ぎながら切り取りする様を描く人気作。自分も関西に住んでいた時に、住んでいた町が登場したこともあり、親近感のあるシリーズ。ハードな社会問題を扱っているが、軽妙でドタバタした二人の掛け合いが笑えつつも痛快な展開内容。残念なことにこの映画では二人の掛け合いがあまり噛み合っておらず、ヤクザ役の佐々木蔵之介の活躍が目立ってしまう。カタギの主人公は情けなくても、あがく必死さが伝わってくるのに、映画では表現されていないのが非常に残念。
Vシネマ的な内容なのでもっとハードに描く方がよかったと感じさせられる。一応ジャンル分けではコメディになっていたが、笑えるシーンは少なく、中途半端な暴力シーンが散発にあり、物足りなさ感を抱く。カタギの主人公役が某事務所所属なんで殴られたり、血まみれになるのは厳禁だったのかなと勘ぐってしまう。もっと汚泥にまみれてもよかったと思う。同時に喰えない映画プロデューサーの橋爪功の老獪な演技はいいが、何度も何度も逃走するのがちょっとくどく感じてしまった。 
配役が一部を除いて関西出身の役者が中心だったのは好感がある。特に神戸出身の北川景子の関西弁は地上波のドラマではもう聞けないだろう。カタギの主人公の事務所のアルバイト役で出演していたが、気が強く、世話焼きで、行動力もある魅力的なキャラクターだった。大声張り上げてヤクザに文句をぶつける姿はなかなか好演。もっと画面に映ってくれたらよかったのに。その他橋爪功、国村隼、木下ほうか(いい役者なのに残念)、キムラ緑子、佐藤蛾次郎、月亭可朝(亡くなって久しい)等々。ネイティブの関西弁が嫌味なく聞こえたのはよし。
カタギの主人公をもう少し年上にして、情けない表情が映える役者であればもっと映画の魅力が上がったと思わされる。

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