デスレース2000年

デスレース2000年(1975年:アメリカ)
配給:ニューワールド・ピクチャーズ
監督:ポール・バーテル
制作:ロジャー・コーマン
出演:デヴィッド・キャラダイン
  :シモーネ・グリフェス
  :シルヴェスター・スタローン

ディストピアと化したアメリカを舞台に殺人レースの火蓋が切り落される。改造カーを爆走させ女子供、そして老人を轢き殺しまくるイカれた奴らが熱いデッドヒートを繰り広げる。鮮血飛び散るバイオレンスにあふれんばかりのエロ。B級映画の帝王ロジャー・コーマンの伝説的カルトムービー。
と、煽ってみたが、特に観るものはない。ストーリーはあるが、意味をなしていない。思いっきりのご都合主義に、設定の無視、ヤマもなければサゲもなく、何のひねりもないストーリー。視聴しながら「ひどい映画だな…」とこぼしてしまった。
ロジャー・コーマンは自作品にはほぼデヴィッド・キャラダインを起用しているらしい。どこかで観たことある俳優だなと思って調べると、キルビルのラスボスだった。
まだ無名のシルヴェスター・スタローンが出演しているのが笑える。それもマフィアの格好をした、恋人にも手をあげるようなゲス。割と似合っているのかもしれない。
ストーリーは第三次世界大戦後、独裁国家となったアメリカ。国民は大統領のもとに食事、睡眠、感情まで管理されている社会。国家は国民のガス抜きのための娯楽として米大陸横断レースを開催。このレースのルールがぶっ飛んでいて、女や赤ん坊、老人を轢き殺してポイントを獲得し、最後のゴールまでに得点が多い者が優勝となる。必然、レーサーどもはイカれた奴らばっかり。暴君ネロとクレオパトラのペア、西部劇の女カウボーイとその相棒のペア、ナチス衣装のペア、そしてスタローン演じるマフィアっぽいペア。主役は全身つぎはぎになり顔から全身ラバースーツを着込んだ怪人と女性エンジニアだが、みんなもう眼がチカチカする。そんな奴らがレースを競り合い、殺し合うからうんざりする。しかもことあるごとにお色気シーンを盛り込んでくるから、更にげんなり。みんな脱ぎっぷりがいいのが余計に萎えるし、女の人が素っ裸でケンカしているのを見るのは気分が悪い。
レース設定がぶっ飛んでいるので、老人を道路に並べて轢き殺してもらおうとする病院の安楽死デーとか、主人公の得点になろうとして自ら轢き殺されに道路に立つファンクラブの女性会長などなど、もうなんだかなぁと苦笑いを抑えきれない。飛び散る血糊は安っぽいし。
自分はレーサーより脇の奴らが気になった。したり顔で評論するコメンテーター、ハイテンションで殺人を喜ぶアナウンサー、友達をやたら強調してくるレポーター。画面に出てくるたびにイラッとする。
チープ感満載で、なるほどカルトムービーだと思える出来栄え。走る道路はすべて田舎道。人出は少ない。最初のサーキットの映像で予算を使いつくしたのか、最後のゴールはあまりにもしょぼい。
一応、独裁者に対する反抗勢力もあり、彼らがレース妨害するのだが、何がしたいのかわからない妨害ばっかりで、無視してもいい存在になっている。
ここまでさんざんこき下ろしてきたが、さらに深堀すると、ロジャー・コーマン流の当時のハリウッド映画やアメリカ社会に対するアンチテーゼになっているらしい。ベン・ハーやクレオパトラの古代ローマ物や西部劇映画、第二次世界大戦を描いた作品、ゴッドファーザーに代表されるマフィア物、そしてホラー映画等々、大金を投じて制作される映画が興行収入で争っている様子をレースに置き換えている。そして大衆が望む暴力とセックスを大量生産してウケる自分の映画を反知能の代表として世に出し、娯楽として楽しむアメリカ社会を痛烈に批判しているという。分かったような分からんような理屈だ。最後にアナウンサーが「競争と殺戮はアメリカの文化でしょう!」と力説したところは妙に納得ができた。
当のロジャー・コーマンはその後もキャリアを積み重ね、錚々たる映画人を世に送り出し、2009年にはアカデミー名誉賞も受賞し、現在95歳で存命。アメリカ版継続は力なりだ。

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