ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館

ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館(2012年:イギリス・カナダ・スウェーデン)
監督:ジェームス・ワトキンス
制作:ハマー・フィルム・プロダクション
配給:CBS・フィルムズ(米)、アライアンス・フィルムズ(加)、モーメンタム・ピクチャーズ(英)
出演:ダニエル・ラドクリフ
  :キアラン・ハインズ
  :ジャネット・マクティア
  :リズ・ハインズ

かの有名魔法使いシリーズで一躍スターダムに駆け上がったダニエル・ラドクリフがシリーズ終了後最初にキャスティングされた作品。イギリス特有の湿度のある雰囲気と恐ろしい亡霊の恐怖を描いたゴシックホラー。原作はイギリスのベストセラー作家、スーザン・ヒルの「黒衣の女 ある亡霊の物語」。
19世紀末のイギリス。ダニエル・ラドクリフ演じる法律事務所勤務のシングルファーザーが他界した未亡人の遺言書を探すために海沼地の小島に建つ古びた館へ向かう。親切な地元紳士の協力も得られるが、近隣住民はその館に近寄らず、現れる黒衣の女の亡霊は子供を呪い殺すことで知られているため非協力的、排他的であった。そんな中、主人公は館に籠って遺言書を探し始める。
ゴシックホラーのエッセンスはすべて満たしている。因縁のある館、害を成す亡霊、周囲と隔絶した環境、暗さを基調とした照明、見え隠れしながらも突然牙を剥く亡霊。必要な因子が詰まっており、まさにゴシックホラーの教科書的作品。ただし言い換えれば展開が古典的で、確かに驚かされるのだが、予想された方法で、静寂からのいきなりの効果で驚く、といった具合。ホラーに新しい恐怖を求める人やスラッシュ系・ゾンビ系等の派手好きな人には物足りないかも。
映像が丁寧に作られており、イギリス特有の重苦しい空の暗さと荒廃した館の重圧を感じる暗さに心細い明かりが際立ち、恐怖が忍び寄ってくる演出が印象的。海沼地の小島に建つ館というロケーションも孤立して助けが期待できない絶望感を煽られる。沼に潜るシーンなどは息が詰まるような感覚を覚えた。
主役のダニエル・ラドクリフは若すぎることもあって苦労するシングルファーザーには感じなかったが、エキセントリックな容姿で作品の雰囲気を盛り上げていた。若さが際立つためか行動に軽率な印象を受けるが、見えない脅威に翻弄される姿は、さすがあの有名シリーズの主役に抜擢された俳優と感心するほどの演技力。これからはちゃんとチェックしようと思わされた。
洋の東西で怪異の見せ方が異なるが、この作品は一時流行した日本的心霊ホラーに近い。しかし当の怪異が割と最初からちらほら出現してくるのに、主人公に害を与えず、地元の子供たちばかり殺すというのは恐怖の感情移入がしづらい。怪異なりにも理由はあるのだが、子供だけを標的にするのは観ていて気分が悪かった。大人も呪い殺せよ、と思わされる。日本の井戸とモニターから現れる亡霊はアグレッシブに呪い殺していたので、それくらい呪いをまき散らしてほしかった。
ラストシーンは賛否ありそう。それでよかったと思うのは救済だろうし、それはだめだと思うのは映画のセオリー通りと思う。自分は、恩を仇で返された気がする。
オープニングのクレジットで、ハマー・フィルムって制作会社、なんか覚えてるなぁと思って調べるとかつてイギリスにあったホラー専門の制作会社だった。そうそう古い作品を観たことあったわ、とよくwikipediaを見ると、70年代以降目立った活動をしておらず、2011年から再度作品を世に出し始めているという。仲間内でレンタル落ち中古ビデオを買って、鍋つつきながらキャーキャ-観てたのを思い出した。こういう老舗の復活はちょっと嬉しい。
自分はよく食事しながら映画を観ていたので、ホラーを選ぶときは心霊モノを選ぶ傾向がある。鮮血が飛び散り、腐乱した屍体がウジャウジャと群がり、血みどろのキャストが絶叫するシーンは、飯食べてて食欲がなくなってしまうから。この作品はそういった演出が少ないので、ご飯のおかずにできる作品だった。

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