SHADOW/影武者

SHADOW/影武者(2018年:中国)
監督:チャン・イーモウ
配給:ショウゲート
出演:ダン・チャオ
  :スン・リー
  :チェン・カイ
  :ワン・チエンユエン
  :クアン・シャオトン
 
舞台は国境を隣国の強国に支配された小国。小国の都督(中華王朝では軍事の長)は領土奪還を主張するが、王は強国との同盟の維持を図るため敵軍の将の息子に自身の妹姫を差し出そうとする。都督は敵軍の将と一騎打ちの約束を取り付け、都督に同意した小国の将軍はならず者たちを集めて戦おうとする。しかし都督その人は本物ではなく影武者。影武者は決闘のため利用されていたが、彼には影武者である理由があった。そして決闘の日が訪れる。
白と黒の水墨画のような映像表現。中華の美を表現しており、こういう映像表現ができるのはアジア人ならではと思われる。しかも大胆に表現しているところが大陸的。監督チャン・イーモウらしい映像美を追求した、ため息が出るほどの先鋭的な美しさ。登場人物は白の衣装と黒の衣装で対比されて対立構造が強調される。王と臣下、妻と夫、本物と影。その人物と対になるように白黒が分けられ、よく考えられている。
本物の都督とその影武者は同じダン・チャオが演じているが、二人並んで白黒分かれると同じ俳優に見えないほど対極的。領土奪還と自身の野望をギラギラと輝かせつつも病気の身体で思うように動かせない本物は計略を練りながら屈折した感情がある。貧しい境遇から拾われて、都督の影武者として養育される影武者。彼は自身が利用される身分であることを知りながら、いつか生き別れた母と暮らすことを望んでいる。彼らはまさしく陰陽であるが、どちらかが輝くとその影は深く色濃く強調される。
この作品を大胆に存在させているのが、独特の戦いのシーン。主役の影武者や将軍とならず者たちが使う武器が何と傘!。それも傘の骨が刃になっており、回転させながら切りつけたり、その刃を飛ばしたりメチャクチャ個性的。強大な大刀の斬撃を受け流し、攻撃に転ずるなど画的にも独創的な美しさがある。一番度肝を抜かれたのが、ならず者たちが雨で濡れた石畳の坂道を、その刃付き傘をソリのように滑らせながら敵陣へ突入するシーン。右手に装着した連射弓で攻撃しつつ敵陣を突破していく姿は他に例を見ることはないだろう。
そして計略と戦いに振り回される二人の女性。一人は本物の都督の妻。病身の夫をいたわりながらも、影武者に惹かれていく切なげな表情は美しい。スン・リーの大きな瞳が、もの言わずとも揺れる心を表現して素晴らしい。琴を弾く姿には鬼気迫るものがあり、ただきれいなだけの女優ではないと感じた。
もう一人の女性は王妹の姫。望まない敵将の息子との婚姻を強いられる上に、側室として迎えるという屈辱を味わさせられる。その怒りと反抗から彼女は将軍とならず者たちに紛れ込んで戦いに参加してしまう。その敵将の息子との一騎打ちは、戦いの悲しさを感じた。
そして対立軸の一つ、小国の王と本物の都督の関係。彼らにも因縁があり、この映画の裏ストーリーでもある。強国との戦いが終わってからが本当の戦いであり、結末に向かって二転三転し、結果に驚かされた。驚いたのだが、裏切りがしつこい気がした。もうちょっとシンプルに終わらせた方が余韻が残ったのではないかと思う。
映像美や対立構造、俳優の個性など非常に斬新なモノを感じたが、それだけで引っ張るには奇をてらいすぎて中盤には飽きてくる。そしてクズな王に腹に一物も二物もある本物の都督、自信過剰な敵将とゲスを絵にかいたような大臣等々。割と登場人物の暗躍がありすぎて、人物を整理した方がよかったと思わされた。最後はお互い不意打ちで殺し合いという政治的殺人なのがスッキリしない。
陰陽際立つ美しい映像と独創的な傘のアクション、そしてそれらに負けないキャスティングとなかなかの良作かと思ったが、最後はカオスな展開になったのが残念。ラストシーンのスン・リーが大きな瞳を更に見開いた横顔は何を意味するのか。それも不明なのでスッキリしなかった。

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