スパロークリーク 野良犬たちの長い夜

スパロークリーク 野良犬たちの長い夜(2018年:アメリカ)
監督:ヘンリー・ダナム
配給:RLJ エンターテイメント
出演:ジェームズ・バッジ・デール
  :ブライアン・ジェラティ
  :クリス・マルケイ
  :ハッピー・アンダーソン
  :ロバート・アラマヨ
 
警察官の葬儀で銃乱射事件が発生。その夜、民兵組織の倉庫に集まったメンバーたちは自分たちの倉庫から自動小銃が一丁無くなっていることに気づく。男たちはお互いを疑い合い、そしてその背後の経歴や組織に入った動機、そこから紡ぎ出されるウソと真実が入り乱れる、骨太のクライムサスペンス。派手さや色気もないが、しっかりと練られたストーリーとラストは見ごたえがあった。
まずよく分からないのがアメリカにおける「民兵」の存在。国家や州に属する正規の軍隊と対照されて、自発生した民間の武装組織らしい。その中には公的機関の指揮下に入ったり連携をとる組織もあれば、対立する危険な極右組織も存在するらしい。銃器の所持・使用が認められたアメリカ故の組織だが、こんなおっかない連中がウロウロしてるってことを考えたら、アメリカって怖えぇ。作中の組織は後者のようである。
彼らの倉庫から自動小銃が一丁無くなっており、銃乱射事件はその銃を使って引き起こされたようだが、いったい誰が事件を起こしたのか。メンバーの一人、元警察官の男が一人一人尋問する。元白人至上主義者組織に属していた者、言葉をしゃべらない青年、元建設作業員で五人殺害したことのある初老の男、頑迷なリーダーに無線技士。そして一人遅れて到着した男。皆がそれぞれ何かの過去を抱え、その理由で民兵組織に入隊し、そして乱射事件を起こす可能性を持っていた。主役である元警察官は二人に絞ったが、リーダーは遅れて到着した男を犯人と決めつける。それぞれに尋問すると自分がやったと自白するが、その証言は事件の内容と食い違い、何が真実で何がウソなのか人の業による緊張感が漂う。その尋問の中で元警察官自身の重い過去も明らかになり、悲しさと孤独を抱えた男と判明。疑われている一人は彼に誇りを取り戻してほしかったと言うが。
全編暗く、音楽も少なく、ほぼほぼ会話でストーリーが進むので、セリフをきちんと覚えていなければ次の展開についていけなくなる。特に、自供の内容と事件の事実が異なるシーンでは何が違うんだっけ?、と自供のシーンまで戻る必要があり、何度もストップと早戻し、再度再生と行ったり来たりしてしまった。しかも彼らの背後から事件を起こした因果関係に結びつけるセリフがちょっと回りくどいので、そんな理由で事件起こすの?、と思わされてしまう。それでもアメリカじゃどうしようもない理由で銃乱射事件起こすヤツらがいるので救いようがない。最近日本もよく似てきているが。
キーマンになるのが倉庫に遅れて到着した男。彼の背景は最初のうちに明かされるが、元警察官がそれを知っているのは自然ではあるが、二人の関係が語られるのは後半に至ってから。秘密なんだからそう簡単にバラすより、後半になってバラした方が謎が深まってよかったのではと思った。途中まで忘れていた存在だったが、最後の存在感は印象に残った。ラストの、どんなに親しくても信用しない非情さが重い。
この作品、あのアゴの長い早口出たがり監督の出世作と比較されている。なるほど男たちが密室で裏切り者をあぶり出そうとする展開はよく似ている。向こうの方がアクションと裏切りに振っている分だけ、面白さが上のように感じるが、この作品は元警察官の尋問と探り合いに振っている分だけストーリーに深さは感じた。観ているとそこまで悪い作品でもなく、もっと掘り下げられるのではないかと監督の力量に余白を感じた作品。これから伸びてくれそうな気がするので、この名前は覚えておこうと思う。
しかし何度でも言うが、こんな連中が紛れ込んでいるアメリカ社会の銃依存はもはや症候群通り越して病気だと思う。オレたちのご先祖は約100年前刀を捨てたんだから、お前らも銃を手放せよと言ってやりたい。

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