シー・フィーバー

シー・フィーバー(アイルランド・アメリカ・イギリス・スウェーデン・ベルギー:2021年)
監督:ナッサ・ハーディマン
出演:ハーマイオニー・コーフィールド
  :ダグレイ・スコット
  :コニー・ニールセン
  :ジャック・ヒョッキー
  :アルダラン・エスマーイーリー
  :オルウェン・エレ
 
未知の生物が大好きだ。特に謎の水棲生物にはたまらなく魅力を感じる。コミュ障の女性海洋研究者が遭遇した正体不明の生物が船の乗組員を侵蝕していく様子が不気味な海洋パニックSF。やや消化不良な設定と意外なラストには残念さを感じるが、主人公のコミュ障の女性研究者のがんばる姿に応援したくなる。
研究室でも誰とも慣れない女性海洋研究者は博士号を取得するためフィールドワークへ追われる。イヤイヤながら漁船に同船するが、漁船クルーたちからは赤い髪の人間が乗船するのは縁起が悪いと忌避されてしまう。クルーの一人、若い男だけはフォローしてくれるが、彼以外にはあまり馴染めずにいた。そんな最中、クルーたちはある海域で大漁の兆しであるイルカを発見し喜ぶが、その直後船は何かにからめとられて急停止。女性研究者が潜水してみると青白く発光する触手のようなものが船底に張り付いており動けなくしていた。その謎の生物を取り除くために様々な手段を講じるが、それでも船は動けない。その隙に船内には青い粘液が滲出しており、クルーたちは異変に侵されていくこととなる。
静かに謎の生物が漁船を侵蝕していくさまが不気味。クリーチャーのようなモノは出てこないが、正体不明の青い粘液がジワリジワリと漁船クルーを破滅に追いやっていく過程が生理的嫌悪を掻き立てられて、不安を強く感じる。序盤はその青い粘液がどこからか侵入して、傷口から入り込んで最初の犠牲者は壮絶な死を迎える。眼球が破裂して血を吹き出し、ものの数秒で死を迎えた。この死に方は某地球外生命体の幼生が腹突き破って出てきた時以来の嫌悪感。その直前には妙に気分が高揚して女性研究者を口説き始めたり、いきなり海で泳ごうとしたりと奇妙な行動をとり始めることも不安を感じた。確かカタツムリとかカマキリとかに自殺を促す寄生虫がいたけど、そんな感じかも。
その怪異に立ち向かう女性研究者が精神的に強くなっていくのが好感を持てる。序盤はフィールドワークに出向くのがイヤでイヤでたまらない様子で、船に乗ったら赤い髪は縁起が悪いと嫌がられ、寝床はむさくるしい男たちと交代で共用。レポート作成してたら灯りを点けるなと怒られる始末。哀れさを禁じえないが、謎の生物を発見した後一転し、怪異から助かるために知恵を絞り、ありとあらゆる手段を講じ、時には勝手しがちなクルーたちを思いとどまらせるために、思い切った行動をとるなどかなりの成長を見せる。ハーマイオニー・コーフィールドの端正な顔立ちと赤い髪の毛が人付き合いを嫌う女子の苛立ちを見事に表現しており、オドオドしていた表情が、次第に意志の強そうな顔つきに変化していくのがよい。これからの女優さんのようで今後を期待だ。
その怪異の正体はよく分からない。別に正体を現さなくてもいいのだが、青く発光する触手を伸ばして船を侵蝕し、その幼体は人に侵入し繁殖する様子。深海生物と推測されてはいるため、真水や熱に弱いと思われるも、それらを耐えきって襲ってくるのはあまりにも万能すぎんか。巨大生物がドーンと現れてバーンと人間を捕食するってシーンがないのは、お決まりを打ち破っているので好感は持てるが、やはりある程度正体が知りたいと思う。ここが消化不良。
船という逃げ場のない密室なので、怪異以外にもお互いを疑い合うことも人間の業を感じた。最期を自分で選ぶ者、仲間を襲う者もおり、人間の弱さを垣間見させられたのも少し辛い。結局怪異より人間の方が怖い存在なのかもしれない。
生き残るために女性研究者が知識を絞り出し奮闘する姿はよかったのだが、ラストには不満が残る。カタルシスとかは感じなくてもいいけど、観終わった感慨だけは欲しかったなぁ。

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