ダークシティ

ダークシティ(1998:アメリカ)
配給:ニューラインシネマ
監督:アレックス・プロヤス
出演:ルーファス・シーウェル
  :ジェニファー・コネリー
  :キーファー・サザーランド
  :ウィリアム・ハート

なぜか縁のある映画というものがある。自分にとってはこの作品。初めて見たのが年末年始の深夜映画劇場だったが、それ以降2回ぐらい他所や違う媒体で観ることがあった。
ストーリーは50~60年代ぐらいのアメリカのどこかの街のような都市が舞台。誰もが朝を迎えたことがなく、誰の記憶にも太陽はない。そして時計の針が深夜0時を指すとき、街は一斉に止まり、人々は深い眠りについてしまう。そんな中、一人の男がホテルのバスタブで目を覚ますが…。
セット・美術はとても豪華。影を強調した街並みや、そこを走るクラシカルな自動車や鉄道。異邦人と呼ばれる敵の衣装やキャラクター、そのアジトの巨大なセット。CGでは表現しづらい物質の存在感がそこにはある。調べるとドイツ表現主義というのが根底にあるらしく、意図的に不安定を作って、精神的に圧迫感を生み出す効果があるらしい、知らんけど。
多少の用語は出てくるが、ストーリーが進むにつれ紐解かれていくので難解でもなく、小難しいSFサスペンスではない。テンポもいいので時間も気にならない。深堀りすると色々突っ込みたくはなるが、作品の雰囲気を感じれば気持ちよく視聴できる。
この夜しかない街の大きな謎の原因となっているのが、人が持つ記憶。記憶をめぐって追われるものと追うものの戦いが描かれる。
キャストは演技派ぞろいの面々で、誰もが何かの演技賞を受賞したことがある俳優ばかり。出演者は少ないながら人間関係やキャラクターを非常にわかりやすく、そして奥深く構築している。影を強調した画面のため表情を読み取るのは難しいが、それを補う演技なので観ていても分かりやすい。
主役の記憶をなくした男にはルーファス・シーウェルを配役。いきなり目の前に現れた理解できない現実に戸惑う表情、敵に対しての怒りの表情、妻に対しての優しい表情。名優というのは顔で魅せることができるんだと実感する。
キーパーソンの医者はキーファー・サザーランドが出演。「24」のような身体を張ったアクションはなく、身体が不自由で行動の怪しい人物として、主人公と敵を繋ぐ重要な役を演じる。
その中でも惹かれたのはジェニファー・コネリー。健気な容姿で主人公を信じる妻を好演している。華々しいデビューから長い低迷期を経て、演技を確かなモノしつつある過程で、この作品以後は多数の賞を獲得している。偽りの記憶かもしれないが、主人公のために流す涙の美しさは、自分がかつて見た作品の中で随一だった。
この作品は映画通からは「マトリックス」に酷似していると指摘を受ける。それもそのはず、両作品とも同じスタジオで撮影されており、この「ダークシティ」のセットの一部が「マトリックス」にも流用されているらしい。プロデューサーや一部スタッフも「マトリックス」にも関わっていたようである。ウォシャウスキー兄弟は「影響は受けていない」と否定しているが、その当時の同じ場所にいた空気感もあるだろう。個人的には「ダークシティ」の方が作品としての完成度は高いと思う。
決して派手さはないが、しっかりとした作り込みと確かな出演者で、この作品は名作の一つだと思う。評価され何かしらの賞を受賞して記録される作品ではないが、観たものの記憶に残ることができる作品。記録に残る作品より、記憶に残る作品の方がより鮮明で豊かだと思う。

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