Mr.& Ms.スティーラー

Mr.& Ms.スティーラー(2019年:アメリカ)
監督:マット・アセルトン
配給:ヴァーティカル・エンターテイメント
出演:テオ・ジェームズ
:エミリー・ラタウコスキー
:フレッド・メラメッド
:エボン・モス・=バクラック
:イザイア・ウィットロック
 
美術品専門の凄腕の泥棒と類まれな美貌を持つ訳アリ女詐欺師が手を組んで、盗品ブローカーのボスへの一発逆転を狙うケイパームービー。個性的な登場人物たちが活躍するが、主役二人の存在感が前面に出てくる。
まず一人目の主役、テオ・ジェームズ演じる美術品専門の泥棒の手口が観ていて面白い。一つ目のウサギのオブジェは風船のダミーを用意して、本物は充填剤を詰めてゴミ袋に入れて持ち去る。その際に子供に見つかるが、機転も利きうまくすり抜ける。それでFBIに眼をつけられるが。二つ目の絵はビリヤードにかこつけてセキュリティを無効化にして、額装から絵を取り出し着ていたタキシードの中に隠し込む。手口が鮮やかでこういうプロフェッショナルの技を観るのは楽しい。やってることは犯罪だけど。彼には亡くなった父が残した借金をカタに盗品ブローカーのボスに仕事を命じられているが、そろそろ足を洗いたいところだが、なかなか抜けさせてくれない。陽気だが精神障害を患った兄もおり、送る生活は楽ではなさそう。テオ・ジェームズの男っぷりがいいので、盗みの仕事に説得力がある。
そして二人目の主役が女優になり損ねた美貌の女詐欺師役、エミリー・ラタウコスキー。もう説明不要の美人のテンプレート。見た目の雰囲気がガラッと変わるウィッグと魅力を引き立てる色鮮やかなドレスを身にまとった姿はため息が出るほど美しい。立ち姿とプロポーションには華があり、バックショットだがきわどくもヌードもある。後ろからでもスタイルのよさが際立つ。下着姿には思わず、ありがとうございますと感謝してしまった。でも、これだけきれいな人なのにやってることはカジノでチップをちょろまかす程度の詐欺で、美貌を活かして男を手玉に取り、大金を巻き上げて颯爽と逃走するくらいのことはしてほしかった。美しい詐欺師が危険な綱渡りをする姿は映画の華だと思う。美人なだけでは映画の楽しさ、面白さにはつながらない。
美形二人が映えるので、軽妙でスタイリッシュなケイパームービーを期待したのだが、ストーリーは一直線で特に山も谷もなかったのが非常に残念。泥棒の手口が鮮やかすぎるので、犯罪のハラハラ感がなく、すんなり成功するので仕事の後のカタルシスもない。その影で女詐欺師が大金をせしめて消えるような展開があれば山になったのではないかと思わされた。
盗品ブローカーのボスも今一つ。でっぷり肥えた脂ぎった頭髪の淋しいオッサンだが、俗物感がありすぎる。自分は手を下さず部下に失敗した者を始末させるようだが、非情さを出しても迫力が薄い。反面女詐欺師の色仕掛けに乗ってくるときは、いかにもなエロ親父が出てきて笑えるのだが、それも企みに乗っかったものなのでチグハグに感じた。これがもっとキレ者感を出すイケてるおじさんだったら落差が面白いのだが。最期の扱いも残念。退場よりきちんと捕まった方が演出的によかった。これがこの作品最大の欠点だと思う。
泥棒に眼をつけていた黒人FBI捜査官の間抜けさも際立ってしまい、ストーリーがダメになっている。大物の盗品ブローカーのボスを捕まえるために実行犯の泥棒は見逃して取引を持ち掛けるが、あまりにも泥棒に計画を任せすぎている。組織内で出世が望めない黒人の天井という、悲しい実情を抱えているのに、リスクを冒さずして利得を得ようとは虫が良すぎる。だから最後に泣きを見させられるんだ。
もっと頭脳戦、男女の駆け引き、そしてスリリングな盗みのシーン、そして逃走のアクションを期待していたが、どれも盛り上がりに欠ける。精神障害を患った兄もいいキャラクターなのに活躍と出番が少ない。ああすればよかったのでは、ここでこういう演出をすればヤマになったのではと感じさせられる作品。ただ、美男美女の登場で眼の正月になっただけなのが残念。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?