皆殺しの掟

皆殺しの掟(カナダ:2018年)
監督:ジェームズ・マーク
脚本:ジェームズ・マーク、マシュー・ネイマン
出演:ジャン・アイディン
  :フォン・ジャン
  :チャ=リー・ユーン
  :ティナ・ベイラ
  :アリスト・ルイス
 
組織の次期ボスの座を巡って二人の義兄弟が対決する。眼も止まらぬアクションに銃を使った特殊な格闘が売りのアクションムービーのはずだったが、ストーリーは陳腐な上にドラマ性もなく、肝心のアクションは予定調和を感じさせるデキ感が気持ちを萎えさせた残念作。演技が上手いとも言えないが、悪役の迫力だけは及第点はあげたい。
人種の違う義兄弟の二人は、育ての親であるストリートギャングのボスから格闘技を習い、二人とも凄腕のギャングに成長していた。その義兄弟が武器の取引でトラブったことから、警察へ情報を売ったと思われる男を襲撃。アジア系の兄は激高して男を殺してしまう。二人は育ての父であるボスに咎められるが、父は兄より人望があり思慮深い欧米系の弟を自身の後継者にすると宣言。アジア系兄は不服を唱え、欧米系弟は戸惑いを見せる。その関係に取引相手のマフィアや警察、欧米系弟の恋人も巻き込んで、二人の関係が揺さぶられていく。
ストーリー、内容はVシネマ的。要は組織の跡目争いで、先代から後継者に指名されなかったNo,2が下剋上を目論み、それより人望ある格下の主人公が争いに巻き込まれるという、使い古されたプロット。組織の代替わりの時は必ず対立、内紛そして粛清とあるものだが、そこに人間の業を感じさせるドラマがあるから面白いのであって、この作品ではそういった人間臭さを感じさせる底流は感じない。指名されなかった者はギラギラとした欲望を観せつけ、指名された者は苦悩しながら戦うのがセオリーだが、残念この作品には観られない。確かにアジア系兄は腕も立つだろうし、腹も座っているし、野心を感じさせるが、ただただ粗暴なだけで業など全く感じない。バッキバキにキレた筋肉に憤怒の形相で格闘する姿はカッコよかったが、演じる者として重みがないので迫力が今一つ。
その対する欧米系弟はさらに今一つ。センチに海を眺めて無口を貫いたかと思うと、バレエダンサーの彼女をボケっと見つめたりとぼんやりしている姿が印象に残る。いざアクションに臨むと手数足数、銃撃戦と活躍はするのだが、表情に力がないので格闘に説得力がない。そのくせ超人的な身体能力があるのか、腹を撃たれてケガしているのにボディを打たれて苦しまないのは設定がおろそかにされ過ぎ。そもそも部下に裏切られる時点でこの男に人望があるのか。ブレブレの設定に今夜もオレのツッコミが冴える。
肝心のアクションも見せ方にもっと拘ってほしかった。某有名スパイが活躍する映画のアクションチームがアクション演出に関わっているようだが、技のキレや手数の多さ、格闘の派手さなどなど、観るべきものはあるが、どの技も型が決まっているような動きが見られ、決定的なヒットダメージを感じられない。投げられてももっともらしく身体を回転させてかわしたり、至近距離での飛び蹴り、ローリングソバットなどに相手が蹴りを待っているなど、いかにもパターン化したアクション形を感じた。そのくせに物は激しく壊れて、トイレの便器やバレエスタジオの壁など、到底壊れなさそうなものが簡単に破壊されるところにも作為を感じる。そもそもアクション売りの作品で、いわゆる「ガンフー(ガン Gunとカンフーを合わせた造語)」を前面に押し出しているのだが、その迫力を感じさせないほどアクションシーンが弱い。同じアクションでも見せ方一つで全然面白さが変わるといういい証左かもしれない。
先述Vシネマみたいといったが、Vシネマの方が人の心の機微やギラついた業、泥と血にまみれた格闘が見られるので、比べるのが申し訳ないと思うレベル。短い尺の作品ではあったが、同じ尺ならVシネマの方がアイデアと情熱を注ぎこんで血が沸き立つドラマを作ってくれる。これを観ると、日本のアクション作品でも海外に打って出られると感じてしまう。

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