風暴 ファイヤー・ストーム

風暴 ファイヤー・ストーム(2013年:香港中国)
監督:アラン・ユエン
出演:アンディ・ラウ
  :ヤオ・チェン
  :ラム・カートン
  :フー・ジュン
  :レイ・ロイ
 
最近アンディ・ラウを見ると、Wボケの仏教マニア漫才師に見えてくる。香港の街中でガンガン銃撃戦と爆破を繰り広げた、香港ノワール劇屈指のアクションに比重を置いた作品。
二人の男が刑務所を出所。ラム・カートン演じるその一人は恋人が迎えに来ており、カタギの生活を送ろうとしているが、その裏には強盗団とのつながりを隠していた。アンディ・ラウ演じる、規律を重んじる真面目な刑事は強奪団を追っていたが、あと一歩のところで逃してしまう。事故を装って妨害した出所したての男と刑事は幼馴染だった。二人を軸に香港に大きな犯罪計画がうごめいていく。
圧巻なのが後半の香港の市街地を舞台にした壮絶な銃撃戦。強盗団は重火器を使って押し寄せる警官隊に対抗し、バンバン撃ちまくる。銃弾の軌跡まで演出され、時にはグレネードランチャーを取り出して警官隊を吹っ飛ばし、時限爆弾を自動車に取りつけて爆発させて撹乱する。それが人通りの多い街中で繰り広げられる。刑事たちはハチの巣にされて吹き飛ばされ、血や剥き出しの銃創が生々しく演出されている。規制の厳しい中国でよく撮影できたなと感心してしまった。
その中でアンディ・ラウ演じる刑事が幼なじみの男と強盗団を追っていくのだが、離婚直前の刑事やアルコール依存症の刑事なども捜査に関わり、犯罪を追う男たちの無常さを物語る。その刑事たちを率いるアンディ・ラウも捜査のためなら非情になり、違法な行為も辞さない。アンディ・ラウの精悍な佇まいと意志の強そうな瞳が印象的。この人は横顔がカッコいい。さっきは誰かに似てると言って茶化してごめんなさい。
出所したての男は機転が利いて度胸もあり、腕っぷしも頭脳も切れる男だが、恋人からは将来を不安視されている。カタギとして料理人となったが、強盗団に関わり幼なじみの刑事と争う。それが残念なことに何がしたいのかよく分からなかった。女のために生きるつもりなのか、強盗を働いて一獲千金を求めるのか、それに対して葛藤があるのか見えてこない。中盤刑事とビルの谷間に引っかかった金網の上で格闘するのが一番の見せ場。なかなかのスリルを魅せてくれる。後半には一大決心をするのだが、共感することもできなければ、急に小物感を感じてしまい非常に残念だった。最後の銃撃戦にはあまり活躍はなく、確かに自分がその立場ならそうすると思うが、派手な活躍を見たかったと悔やまれる。
香港ノワールに限らず、映画的演出でよくあるが、少数の犯罪者たちが押し寄せる警官隊をバッタバッタ撃ち殺すのにはもう飽きている。防弾装備に身を固めて、訓練を受けて、多数で包囲すれば一瞬で制圧されるのがオチなのでもういい。その中でも新鮮だったのがガス管を爆発させて路面を陥没させる演出。実際はCGとセットの組み合わせだろうが、香港の街中を大胆に破壊するのは斬新だった。ビルが倒壊するのは結構あるが、そのアイデアはなかったと思わされた。
軽く人が殺される演出が出てくるのは好きになれない。序盤に人質にとられた女性は簡単に射殺されたし、潜入捜査に協力した男とその娘もひどい方法で殺される。特に娘は障害を持っている設定だったので非常に演出に嫌悪を感じた。刑事も結構犯罪者たちを殺しており、その中には隠蔽のため見殺し、射殺したりと、かなり悪どい。ちょっと昔なら悪を憎む正義の鉄槌とされただろうが、そういう演出がされていないところには現代のリアリズムを感じた。
最後の銃撃戦に至るまでの展開に大味さがあり、あれだけ強盗団のボスと交戦しているのに起訴できないというのも疑問が湧く。あれだけ自動小銃やグレネードランチャー、挙句の果てには爆弾を揃えて、民間人殺しまくってる連中がバレないのはおかしい。そして警察の前に頻繁に表れるし。これで黒幕がいるってのも何かおかしいし。
最後のシーンでたたずむアンディ・ラウの表情は今までの険しいものでなく静かだった。刑事でなく人としての正義の心をのぞかせた姿が感慨深い。この人の表情は奥深い。

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