狂獣 欲望の海域

狂獣 欲望の海域(2017年:香港)
監督:ジョナサン・リ
出演:マックス・チャン
  :ショーン・ユー
  :ウー・ユエ
  :ジャニス・マン
  :ラム・カートン
  :倉田保昭
 
行き過ぎた捜査が問題の猟犬のような刑事と、目的のため非情な手段を選ぶ海上生活犯罪者との激闘を描く。金塊を巡って生身で殴り合うスピーディなアクションが盛り上がる、これぞ香港アクションと血が沸き立つが、やや説明不足、その設定は必要かなと思わされた。
主人公の刑事はその行き過ぎる捜査で犯人を事故死させてしまうほどの問題人物。その反面、死なせてしまった犯人の娘を引き取って監護人になっている。海上生活者の男は沈没船の中から金塊を引き上げるが、自分の境遇に不条理を感じた彼は反旗を翻し、自分を育てたボスとその息子を襲撃。襲撃を逃れたボスは刑事に情報提供し、刑事は相棒とともに市場へ向かう。が、その相棒は海上生活者の男に人質として拉致されてしまう。沈んだ金塊を狙う水上生活者とそれを追撃する刑事の凄まじい格闘が繰り広げられる。
刑事と水上生活者のギラギラとした戦いが見物。香港アクションらしく超人的なジャンプや鉄拳や蹴りを何発喰らっても立ち上がってくる見せ場もあるが、生身でしか成しえない格闘アクションは圧巻。しかも海域とサブタイトルにあるようにずぶ濡れになりながらも殴り合い、何度も大波をかぶる。飛び散る水飛沫が二人の激闘を演出しており、かなりの迫力。他にも酸素ボンベを背負った海中での格闘戦やちょっとしたカーチェイスもあり、作り手側がアイデアをふんだんに出して、観客を楽しませようと努力しているのが観て取れる。
主役のマックス・チャンは以前観た作品の中では悪役だったが、今回は犯人を猟犬のように追いかける問題刑事。とにかく必死でただ自分が信じる正義を追い求めて、群がる敵をボッコボコになぎ倒す姿が痛快を通り越して悲痛。危険の中に身をさらすことが宿命かのよう。金髪に染めた髪とえんじ色の革ジャンに、ヨレヨレのシャツとチンピラのような風体だが、強すぎる正義感と容疑者を死なせてしまった罪悪感が入り混じり、屈折した人間像を感じさせる。その死なせてしまった容疑者の娘を引き取って監護しているが、彼女が18歳になり監護の必要が無くなった時のどことなく寂し気な無表情さがちょっと切なかった。でもその設定は物語に必要はなかったと思う。
敵である海上生活の犯罪者役のショーン・ユーの迫力もなかなか。胸に大きな鷹の刺青を入れ、ボサボサの頭髪に屈強な長い手足。その手足を振り回す格闘アクションも迫力ある。幼少時に海で溺れ死にかけた際に海上から射す光の中に神を感じたことから信心深く、常に海上守護する女神の首飾りを下げている。寡黙で何もしゃべらないが、眼力からは意志の強さを感じる。刑事の追撃を何度も振り払い、時には非情な策を用いてまでも金塊を奪取することに執念を燃やす姿は人の業を感じさせる。
この二人がぶつかり合うのだが、その周りに余分な演出や設定が付きまとうのが残念だった。刑事が監護している少女は刑事の良心を表しているのだろうが、急に現れては刑事のことや自分の境遇に心配するのは付け足しが過ぎる。人質にとられた相棒のこともちょっと忘れてしまった。刑事とその上司は捜査で対立するが、最後には協力してくれるという展開で、最後はいい人っていう演出もいらんかったと思う。まぁ特別出演のラム・カートンだから仕方ないか。海上生活者の方は一緒に暮らす女がいるが、献身的に協力していた割には見せ場に物足りなさを感じる。もっと悲痛な展開を演出してくれたら、より人の業を感じれたんだが。
そして何より残念なのが、日本を代表するアクションスターの重鎮の中、3本の指に入るであろう(個人の感想です)倉田保昭がほぼチョイ役とは。非合法カジノ船のボス役で、海上生活者と取引の交渉をするが、出番は一瞬。アクションはキツいかもしれんが、武道的な身のこなしで翻弄してくれたらよかったのに。
ストーリーのテンポが所々で切れてしまう感はあるが、アクションに疾走感があり、迫力のある格闘が楽しめる。主要キャスト二人が背負うモノや抱える思い、そして戦う意思の強さを感じさせられただけに、もっと内面を描いた人間ドラマも展開すれば作品に重厚感を感じさせてくれたのかも。最近香港ノワール的な作品も、中国当局の規制で厳しくなっていると聞いているので、また盛り上がることを祈っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?