移動都市/モータル・エンジン

移動都市/モータル・エンジン(2018年:ニュージーランド・アメリカ)
監督:クリスチャン・リヴァース
制作:ピーター・ジャクソン
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
出演:ヘラ・ヒルマー
  :ロバート・シーハン
  :ヒューゴ・ウィーヴィング
  :ジヘ
  :スティーヴン・ラング

フィリップ・リーヴの原作「移動都市」シリーズをピーター・ジャクソンが制作を務め、その愛弟子のクリスチャン・リヴァースが監督したポストアポカリプス(文明崩壊後)かつスチームパンク色強いSF作。文明が滅び荒廃した未来に移動する都市が、他の移動都市を「捕食」することで人と資源とテクノロジーを搾取する世界を舞台に、復讐にかられた少女と巻き込まれた青年の冒険を描く。
圧巻なのが移動都市となったロンドンが大地を無限軌道で踏みしめながら進む姿。序盤でいきなり他の移動都市を捕獲するが、その全体はあまりにも巨大。なにしろ欧州随一の大都会、ロンドンだ。そこに暮らす人々は万を超すのだろう。きちんと行政があり、警察もあり、地下鉄も走っている。現代と変わらない生活を送ることができるのだろうが、そこはポストアポカリプス。人々の間には厳格な階級があり、捕食された都市の住民は奴隷として搾取される。
その捕食された住民の中には復讐に燃える顔に傷を持つ少女が潜入しており、彼女はある因縁からヒューゴ・ウィーヴィング演じる移動都市ロンドンの史学ギルドの長を狙っている。その暗殺を失われたテクノロジーを集めている冴えない史学者見習いの青年に妨害されるが、その青年も少女と一緒に移動都市ロンドンの外へ放り出され、二人の冒険が始まる。しかし、史学ギルドの長は何かを計画しているようだが…。というお定まりのストーリープロット。
設定はかなり盛りだくさん。都市が移動するという設定に、移動を是とする思想と否とする思想の対立がある。失われた過去のテクノロジーを集め解析するため史学者の地位が高いが、それゆえに都市を維持するロンドン市長との対立もある。その過去のテクノロジーの一つに復活者と呼ばれるサイボーグの存在。劇中内用語が頻出して自分の情報処理が追い付かず、中盤では聞き流す程度に留めてしまった。
ふんだんにVFXを駆使して大地を席巻する大移動都市ロンドンの威勢や空を飛び交う飛空艇、得体のしれない不気味さのある復活者等々、目で楽しむには十分の効果だが、盛り上がりは前半に偏り、後半過ぎるとお定まりのストーリーなので、映画に慣れた人であれば予想がついてしまう。主人公たちが奴隷商人にセリにかけられて、ここにホワイトナイトが登場して、実はホワイトナイトは少女の母の友人で、二人を反対勢力のアジトに案内して…と、頭の中に思い描いたとおりになった。そして少女を追跡する復活者もインパクトはあるが、最期はそしたらなぜ少女を追いかけたとツッコんでしまうほどの存在に成り下がってしまったのが残念だ。
そもそも、なぜ都市が移動しなければならないのかということには触れられていないので、移動に反対している組織との対立構造がよく分からない。資源や奴隷を搾取するために移動するらしいが、あまりにも非効率な気がする。まぁSFだから仕方ない。せっかくのヒューゴ・ウィーヴィングの悪辣ぶりが楽しめるので、もっとそこら辺を掘り下げてほしかった。反移動組織を攻撃するセリフの中で「次の狩場」というセリフがあったので、搾取する都市が減ってしまったんだなとは分かる。なら拠点を定めて生産にシフトしろよとまたツッコんだ。
定型のストーリーや理解しにくい設定はともかく、ツッコミを抜きにすると十分に楽しめる作品。迫力のVFX映像や顔傷少女と冴えない青年の冒険劇に目を見張るアクションと盛りだくさん。キャラクターはきちんと個性と主張があり、混乱することもない。可もなく不可もない無印良品的なSF映画だった。
過去に生きる我々にとっては遺物も見慣れた物があり、古代アメリカの神像として、ゴーグルつけた黄色い身体にオーバーオールを着た生物の像が出てくるのはユニバーサル配給のためだろう。

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