ザ・バンク 堕ちた巨像

ザ・バンク 堕ちた巨像(2009年:アメリカ)
監督:トム・テイクヴァ
配給:コロンビア ピクチャーズ
出演:クライヴ・オーウェン
  :ナオミ・ワッツ
  :ウルリク・トムセン
  :アーミン・ミューラー=スタール
  :ブライアン・F・オバーン
 
学生時代の恩師の言葉「世の中を決めるのは政治家やけど、動かすのは銀行や。」という言葉を思い出す。国際巨大銀行の企みを捨て身の捜査官が追うインターナショナルな金融クライムサスペンス。1991年に経営破綻した巨大銀行の不祥事を元に作られた作品。世界的な陰謀犯罪劇を楽しみたい方には是非視聴を、と勧められる。
ベルリンにて国際的巨大銀行の違法取引を捜査している捜査官の眼前で情報提供者が殺害される。陰謀から捜査官は協力しているアメリカの女性捜査官共々ドイツより退去を命じられてしまうが、別件の殺人で巨大銀行側の証言の矛盾を発見。銀行のあるルクセンブルクへ乗り込むも適当にあしらわれてしまう。更なる捜査で今度はイタリアの軍事会社の社長で大統領候補の証言をとるチャンスを得るが、その大統領候補も過激派に見せかけられた狙撃で暗殺されてしまう。しかし狙撃手の特徴からニューヨークへ飛ぶこととなり、その後捜査官は事件を追ってトルコへと飛ぶ。巨大で非合法手段も厭わない金融組織と孤独な捜査官との戦いが繰り広げられる。
世界を股にかける追走がたまらない。犯罪の臭いをさせながらも足をつかませようとしない銀行の活動が世界的で、それを追う捜査官の存在の小ささが際立つ。その小さな存在が巨大な金融の城を崩さんとするかのように犯罪を暴いていく。最初はベルリンで次はルクセンブルク、イタリア、ニューヨークと世界を股にかけて追いかけていく捜査官の執念が見事。クライヴ・オーウェンの濃いぃ顔面が暑苦しくもあるが、不眠不休で捜査に挑む男の意地を感じられる。その意地の裏付けとなる彼の内面のドラマが描かれないので、一人の捜査官の暴走に見えてしまうのが非常に残念。特に最後には司法を飛び越えて動き始めるので、正義の暴走を見せられた気がする。
その相棒のアメリカの女性捜査官のナオミ・ワッツも活躍を見せ、狙撃の不審点や機密情報を捜査官に見せたり、重要な証人を秘密裏に確保したりと重要な立ち廻りを演じる。いきなり逃走車にはねられた場面ではびっくりした。華があってキラキラするような女優ではないが、知的かつ聡明で勇敢な捜査官を好演していた。決して絶叫するだけの俳優ではない。
目の前で人が暗殺されたり、金融犯罪の取引を描くだけでなく、ハードなアクションを見せるシーンもあり、暗殺者を巻き込んでの銃撃戦はなかなか見ごたえがあった。なんせ舞台はニューヨークの有名なグッゲンハイム美術館。展示に一切注意を払わずバンバン撃ち合うシーンは圧巻。オレが観に行きたい美術館の一つだけにその感動は一入。実際は巨大セットらしいが、二日間だけ実際の建物で撮影を許されたという。
事件は巨大銀行が世界中の政府機関やテロ集団、犯罪組織と複雑な関係を作っていることから非常にややこしい。原作になった実際の事件も巨大銀行がそれらの組織の金融面を担っており、時には怪しい金の洗浄や麻薬取引への介入、第三世界の独立運動や部族間抗争から旨味を吸い上げているという社会の暗部的構図も垣間見せる。恩師が語った言葉の真意はここにあったのだろう。
盛り上がる犯罪劇とアクションだが、後半にかけてはやや盛り下がっていく。重要人物は離脱させられて、今まで苦労してきたのにと残念に思わされる。中盤にグッゲンハイムでの派手な銃撃戦を持ってきてしまったので最終の追走劇や始末のつけ方には「はぁ?」と思わされてしまった。最近の傾向かもしれないが、映画的カタルシスを求めにくいのか。
2020年以降国際社会はさらに混迷を迎えている。銀行だって安泰としてはいられない世の中。こういう非合法な取引は我々の知らないところで活発になっているのかもしれないと思うと、世界の平和を願わずにはいられない作品だった。

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