スケアリーストーリーズ 怖い本

スケアリーストーリーズ 怖い本(2019年:アメリカ・カナダ)
監督:アンドレ・ウーヴレダル
制作:ギレルモ・デル・トロ
配給:ライオンズゲート(アメリカ)、クロックワークス=ギャガ(日本)
出演:ゾーイ・マーガレット・コレッティ
  :マイケル・カーザ
  :ガブリエル・ラッシュ
  :オースティン・ザユル
 
多分世界の映画界で最もヲタク気質が強くて、荒唐無稽かつグロテスクなキャラクターを何が何でも実写化するという情熱にあふれた映画バカ、それがギレルモ・デル・トロ。ホント、この人の頭の中はおかしい(褒め言葉)。監督することも多いが、それ以上に制作(人・金・モノ集めとかの裏方)を務めることが多いという、なんとも変わった情熱の持ち主。そんな愛すべき変人が児童文学のホラーをジュヴナイル物に仕立てた上げた作品。
舞台は60年代後半のアメリカペンシルバニアの小さな町。ハロウィンでにぎわう中、いじめられっ子の少年少女三人がいじめっ子のから逃げているときヒスパニック系青年に助けてもらう。四人でお化け屋敷見物を始めたが、さっきのいじめっ子に少年の姉と一緒に地下室に閉じ込められる。女子高生はかつて地下室に監禁されていた屋敷の娘が書いたと思われる本を持ち帰ってしまい、その夜から全員に怪異が訪れる。
監督はアンドレ・ウーヴレダルだが、随所にギレルモ・デル・トロの影響が見られる。闇の中のキャスト、暗い色調に対して一転光り輝く幻想的な空間。グロいけどもどことなく愛嬌のあるクリーチャーとひ弱な主人公たちの反抗等々。ギレルモ・デル・トロが好む演出が多い。ギレルモ・デル・トロとかなり長い話し合いとコミュニケーションをとったのだと思う。
主人公は作家志望の女子高生。母の失踪を精神的外傷として抱え、父と二人で暮らす。気の弱いナード気質の幼なじみ二人と仲がいいが、三人ともいじめられっ子に散々にやられている。いじめられっ子からの追跡から助けてくれた謎のヒスパニック青年に惹かれており、青年も彼女に好意を抱き始めていた。二人の心の機微がよく作中で表されており、特に女子高生役のゾーイ・マーガレット・コレッティは演技が上手。笑う表情、悲しみに泣く姿、ヒスパニック系青年を想う演技など素晴らしい。これからどんどん活躍してほしい。
率直な感想としては期待したほど怖くはなかった。アルヴィン・シュワルツという児童文学作家の数作を元に長編映画化しているらしいが、元が児童文学なので凄まじい恐怖の描写はなく、じわじわとした恐怖の描写が中心。何でも原作はあまりの怖さにアメリカの学校図書館に置くことに賛否があったらしい。自分が通ってた小学校の図書室にはなぜか日野日出志の漫画が置いてあった記憶があるが、あれにくらべればかわいいもんだろうよ…。
ギレルモ・デル・トロ作品らしく肝心のクリーチャーたちは個性的だが、やっぱりこれもギレルモ・デル・トロ作品らしく愛嬌を感じてしまう。そいつらはゆっくり忍び寄るように現れて、急に襲い掛かってくる。割としっかり全身が写ってくれるのであまり怖くない。でも青白い女がゆっくりゆっくり四方から追い詰めてくるのは怖かった。
時代背景は60年代後半。ニクソンが大統領選で勝利し、ベトナム戦争の徴兵が行われている。強く豊かなアメリカにどんどん陰りがさしていく時代で、小さな町でもその陰がさしつつある。ヒスパニック系青年もそのあおりを受けていて、映画の背景に反戦が感じられる。
気の弱い作家志望(妄想癖のある)の女子高生が仲間と力を合わせて怪異に立ち向かい、恋も叶えていくというジュヴナイル的展開だが、後味は少し苦く感じた。怪異は去ったかもしれないが、犠牲となった人はどうなったかという悲しさもある。続編を作りそうな気配がある。
ホラーに少女はつきものであるが、主役の演技力と魅力で全年齢視聴可能になっているところが好感は持てる。しかし恐怖は物足りなく感じた。やっぱりギレルモ・デル・トロが監督して変態性を前面に押した奇想天外な怪異映画を観たいと願う。

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