ディック・ロングはなぜ死んだのか?

ディック・ロングはなぜ死んだのか?(2020年:アメリカ)
監督:ダニエル・シャイナート
配給:A24
出演:マイケル・アボット・Jr
  :アンドレ・ハイランド
  :バージニア・ニューカム
  :ジャネル・コクラン
  :ジェス・ワイクラー
 
コメディとうたっているが全然コメディではない、クセ球、変化球使いの映画配給会社、A24の犯罪系ブラックコメディ。アメリカの静かな田舎町で起きた死亡事件を巡って、バカな男どものウソやごまかしを描いた問題作。
視聴中とにかく気分が滅入った。主役となる男がとにかく同情できないレベルで哀れ。友人の死と無関係を装うためウソをつき、隠蔽工作を行うがそのすべてが裏目。ウソをついたがために、さらにウソをつかなければならず、そのため事後関係は滅裂になる。隠蔽工作はすべて失敗。証拠がしっかりくっきり残る。一緒にいたもう一人の友人は逃走しようとして当てにできない。観ていて気分が悪くなるのを通り越して怒りさえ湧いてくる。それでも家族を失いたくないという一心で立ち回る姿がさらに哀れで滑稽すぎる。
オープニングはどこにでもあるバカ騒ぎのパーティ。「ピンク・フロイト」などとふざけた名前のバンドの三人が主役宅のガレージで練習後酒を呑み、焚火をしながら射撃を楽しんだりといかにも楽しそうなシーンから始まる。が、次のシーンでは急展開。メンバーの一人が大量出血しながら車で運ばれているシーンに変わる。残る二人は救急病院までメンバーを運ぶが玄関前に放置したままその場から逃げ出す。そして二人はウソや取り繕い、隠ぺい工作と逃亡と揺れ動いていく。
物語の舞台はアメリカの田舎町。のんびりとした自然に気のよさそうな住民たち。保安官が杖をついたお婆ちゃんというところに町の平和さを感じる。ということは主役たちにとっては退屈な町であり、バンドやって酒呑んで、後は適当に娯楽を済ませる程度しかない。しかし三人は更に刺激を求めたのだが、その内容は自分には理解できないし、理解したくもない。アメリカではそれほど身近な存在なんだろう、馬は。
残った二人の行動に周囲の反応は当たり前。自分が住んでいる地域で殺人事件が起きたと聞けば誰しも不安が募って焦り出すだろうし、自家用車が盗まれたと言われればすぐさま警察に被害届を出すのも当たり前。その昔ウチの地元のド田舎でもケンカの末殺人が起きた時は、即日解決したといっても1か月ぐらいは騒然とした。
出演者はみな無名の役者のようだが、それがかえってリアリティを強調しており、特に主役のマイケル・アボット・Jrの焦りよう、戸惑いようは観ていて痛々しい。妻と娘がいる家庭を持ちながら、彼女たちにウソをついてごまかさなければならない悲しさと哀れさが表情・演技から感じ取ることができる。最後のラストだけはちょっと同情する。自業自得だからほんのちょっとだけど。関係ないがシャワーシーンで足が写されたとき、なんで白人は足の親指だけが長いのだろうと脱線して観ていた。本当関係ない。
犯罪系にありがちな、当事者の焦りや不安がクローズアップされるが、一番重要なのは亡くなった本人であり、その家族。彼らを尻目にストーリーが進むのも観ていて気分が悪くなった。亡くなった本人奥さんは浮気を疑っていたが、本人がいなくなり、死んだと聞かされればそりゃ気が気でもないだろう。一番の被害者は奥さんだ。その奥さんも主役の娘が通う学校の教師という社会の狭さ。
それぞれが知り合いや顔なじみという小さなコミュニティの中で、人ひとりの死は隠すことができないというのに、ウソの塗り重ねやその場しのぎの取り繕い、稚拙な隠ぺい工作を見せつけられて、次第に焦っていく自業自得の二人が、巧妙に気分を害してくれるので非常に印象に残ってしまった作品。なんでこういう作品ばかり扱うのかね、A24は。

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