ライト/オフ

ライト/オフ(2016年:アメリカ)
監督:デヴィッド・F・サンドバーグ
制作:ジェームズ・ワン
配給:ワーナー・ブラザース
出演:テリーサ・パーマー
  :ガブリエル・ベイトマン
  :アレクサンダー・ディペルシア
  :マリア・ベロ
 
灯りを消すと襲いかかってくる怪異に狙われた家族の物語。人間の根源的な恐怖を大いに揺さぶる怪異の着眼点が斬新。製作は今注目のホラームービークリエイターのジェームズ・ワン。
誰しも夜の闇の中に人影が見えた気がするという経験はしたことがあるだろう。この作品に登場する怪異は闇の中にしか現れない。しかしそいつは凶暴で、情け容赦なく一家に襲いかかってくる。灯りを点けると一瞬消えるが、再び暗闇になると執拗に狙ってくるのが恐ろしい。この怪異の正体は徐々に明らかになるが、なるほどこの設定がかなり斬新。幽霊の一種なのだろうが、なぜ光の中で現れないのか、なぜ一家の母に執着するのかが次第に理解できる。でも最期は何かあっけなく、あれだけ恐怖をまき散らしたのに、一瞬で終わりかと思わされ少々残念。
一家の娘を中心に物語は廻る。彼女はうつ状態がひどい母から逃げるように家を出たが、その背後にも秘密がある。実父が失踪してしまい、そのわだかまりが母との間にできてしまったが、記憶の断片の中に怪異の存在がちらつく。ちょっと不良っぽいが、付き合っているチャラい彼氏を自宅アパートに泊めないという一線は保っている。母は実業家と再婚し、年の離れた弟ができたが、その弟には優しい、いいお姉ちゃんという感じ。その彼女が勇気を振り絞って弟と母を守るため、怪異へ立ち向かっていく。年の離れた弟はなかなか冷静で、今危険な状況であるということを理解して最大限自分ができる防衛手段をとるのが素晴らしい。自分がこの年齢ぐらいなら恐怖で身動きできなくなってしまっただろう。
そしてこの怪異の原因の一つでもある母。彼女はうつを抱えて不安な人生を送ってきた。守ってくれた最初の夫はいなくなってしまい、再婚した実業家の夫は守ってくれていたが、怪異によって消されてしまう。彼女はしきりに家族のきずなを求めており、幼い息子の存在に依存を見せたり、家を出た娘には自分を助けてくれなかったと恨みつらみを訴える。彼女の精神状態の不安定さがこの作品のカギであり、怪異との関係が繋がるものでもある。ただ、普通子供たちは親の庇護を求めてしまうので、依存されると負担を感じてしまうと思う。だから娘は家を出てしまったんだろうし。
なかなか面白いのが、怪異は灯りの中では存在できないが、暗闇の中であれば触れることができる点。それを逆手にとって、ブラックライトの中では消えることができず、捕まえられて強力な光を当てると攻撃できる。その他、母が精神的に強くなれば怪異を超越することができたのだが、怪異は母を迷わせてうつを悪化させようとする。
チャラい彼氏もなかなか頑張ってくれる。彼女と弟と母に助力して怪異に対峙していく。さすがに怪異には歯が立たなかったが、最後まで彼らを支える姿勢に漢気を感じた。娘のアパートに泊まりたいのを拒否されて、せめて着替えを置きたいとお願いしても拒否されて、挙句にはタンスに自分の靴下をこっそり入れたのを窓から投げ返されるのには笑ってしまった。ガンバレ、最後には報われるから。
確かに斬新。そして独創的な恐怖があり、短い尺ながらテンポも良い。登場人物は簡潔だが深い人間関係に考えさせられる。しかし微妙に怪異の説得力が乏しい。確かに幽霊の類と考えれば現れたり消えたりするのは理解できるが、直で危害を加えるのは都合がよすぎる。その正体も都合がよすぎる。もっと怪異として存在が確実なものであったらより恐怖感が増した。斬新であるがゆえに怪異のそのものの存在感が薄い。それでもジェームズ・ワン制作の作品はこれ以後ドンドン公開されており、注目が集まっている。その先駆けになった作品の一つで、斬新さはこの頃からあったんだなと唸らせてくれた。

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