ミッシング・ガン

ミッシング・ガン(2002年:中国・アメリカ)
監督:陸川(ルー・チュアン)
配給:ソニー・ピクチャーズ
出演:姜文(チアン・ウェン)
  :伍宇娟(ウー・ユーチアン)
  :寧静(ニン・チン)
  :石涼(シー・リアン)
  :魏暁平(ウェイ・シアオピン)

中国の田舎の真面目な警察官が、妹の披露宴の翌日眼を覚まさすと拳銃を失くしていた。彼は失くした拳銃を探して昨日の来賓者を訪ね歩くが見つからない。自分を家まで送ってくれた友人の自宅を訪ねるとかつて思いを寄せていた女が出戻っていた。その後銃の紛失から警察官は停職処分となるが、彼の銃を使った殺人が起きる。殺されたのは思いを寄せていたあの女だった。
主演は中国を代表する俳優、姜文(チアン・ウェン)。警察官としては真面目で堅実だが、家庭では妻に追い立てられて、子供に振り回される、どこにでもいそうな中年男性。最初はコメディのような滑稽さがあったが、物語が進むとドンドン男の悲哀や焦りが醸し出されていく。ぎょろっとした眼とややだらしない中年体形なのに、何かカッコよく思えてくる。こういうのが演技っていうんだろうな。決意して息子と妻に置き土産を託すときの様々な感情が入り交ざった表情は素晴らしい。同じ中年のシンパシーを感じた。姜文自身も映画を監督しているらしく、検閲の厳しい中国でかなりセンシティブな作品を発表しているらしい。あと、某スペースオペラ映画のサイドストーリーにも出演しているらしい。意外だ。
その妻役もなかなか演技が上手い。最初っからイライラしているが、その理由が警察官の夫への愛情の裏返しだったので、本当に不安だったんだなと共感した。その不安も男からしたらかわいいものなんだが。髪をボサボサにし、瞳の涙をこらえながら、夫を繋ぎ止めるかのように情交を求めてくる姿は哀しさに満ちていた。
警察官が拳銃を紛失して捜索するというのはよくありがちな物語だが、平和な田舎にとっては恐るべきこと(都会でも恐ろしいが)。序盤、警察官は拳銃を探し求めてアチコチ歩き廻る。人間関係を縫うように事態がつなぎ合わされ、隠された事実も見え隠れするところが面白い。出戻りのかつて想っていた女の存在をみんなが知っていても、披露宴の名簿から消していた事実も浮かび上がり、何かの偽証を感じた。が、あまり物語に関係がなかったのが残念。そこはがんばってほしかった。
中国と日本では社会体制も違うし、不祥事に対する感覚も違うのかもしれないが、警官が拳銃を紛失した場合もっと大変な事態になるはず。少なくとも失くした本人は停職処分だけでは済まないだろうし、そんなに自由に捜索に出歩くこともできないだろう。そこに大きな違和を感じた。その銃が殺人に使われた時点でもうアウト。懲戒免職は免れない。映画的なご都合だが、それはないわとツッコミを入る。
その犯人も残念。キャラクターも動機も弱すぎる。物語の中でその影はあるが、脈絡もなく唐突感がある。もっとサスペンスタッチに犯人を追えば、物語の展開が盛り上がったと思うが、最後に向かって警察官の葛藤がクローズアップされていくので、主題がやや置き去りにされていく。最後は身体を張っているのに茶番に思えた。失くした拳銃を追い求めるサスペンス的展開を期待したが、警察官の葛藤や焦りを主軸にした人間ドラマにしてしまったのが非常に残念。監督自身初の作品らしいので、各所にがんばった跡が見られる。粗削りながらこれからの才能を感じる。
中国大陸出身の監督は風景や色を見せるのが非常にうまいと思う。なだらかに広がる緑の棚田や中国南部の古い石造りの家屋、その間をうねるように続く迷路のような小径等々、何かのドキュメンタリーで観るような風景を美しい背景にしていた。それを映し出すカメラワークはアクティブで、友人たちと相談する警察官を周りから廻りながら撮影したり、コマ送りのように移動させたりと色々な撮影を試している。そこにはがんばらなくても良かったような…。

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