ブラックホーク・ダウン

ブラックホーク・ダウン(2001年:アメリカ)
監督:リドリー・スコット
制作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ジョシュ・ハートネット
  :ユアン・マクレガー
  :トム・サイズモア
  :エリック・バナ
  :オーランド・ブルーム

内戦続くソマリアの紛争解決のためアメリカ軍が、和平反対派の幹部を拘束するため強襲作戦を敢行。当初は30分で終わると思われた作戦は汎用ヘリコプター、ブラックホーク2機が撃墜されたことで泥沼化していく。
最早登場人物のキャラクターが、と説明している場合ではない作品。出撃前の前半は各個人のパーソナリティが映し出されるが、出撃してから物語は一変する。激しい戦闘で耳をつんざく爆音、飛び交う銃弾にロケット弾、米兵の断末魔と飛び散る血しぶき、損害を恐れず突撃を繰り返す民兵。戦場のカオスが繰り広げられ、行きつく間もなく状況が次第に悪化していく。そして映画のタイトルである汎用ヘリ、ブラックホークの撃墜。ありとあらゆるものがリアルに近く、ドキュメンタリー映画と錯覚させられる。
作品を通じて感じるのは、たとえ最強の武装と最高の練度を米兵が誇っても、全体の緩みは戦局に影響してしまうということ。民兵側の人海戦術と携帯電話による哨戒網や重武装と、戦闘員としての質に対して指揮官から一兵士まで軽視していたのが印象的。それに加えて装備の甘さと楽観的優位性を思い込んでいた。いつの時代の戦争も弛緩した軍隊は敗北する。
有名な俳優が多数出演しているが、それらが吹っ飛んでしまうくらい激戦が描かれる。一応ヘルメットに役名が書かれているのは監督の親切で実際の軍隊にはない表現。銃撃が入り乱れると、この人誰だったっけ?、とかシーンカットが変わるとさっきまでいた役者が違うので混乱する。ジョシュ・ハートネットとユアン・マクレガーは何とか目で追えたが、後の俳優は状況を理解するのに精一杯で、誰が誰でどの役割でとまったく分からない。オーランド・ブルームが新兵役で登場したが、早々の退場でびっくりした。それだけに戦場の混乱が観ている側にもヒシヒシと伝わってくる。
今までの戦争映画と違うと感じた点は、それまでの映画での戦場はジャングルや平原、海洋であったりしたのが、この作品では市街地を舞台に描いているというところ。互いの姿が視認できるほど近く、一般市民も混在しており、より混乱している状況を描き出している点は、かつての作品と大きく違うと思われる。
カッコいいアクションも涙を誘う人間ドラマもない。極限状態に置かれた兵士たちが陥った危機にどう対処して生き残り、そして死んでいったかを、冷徹なリアリズム視点で描いている。交戦してバタバタと倒れていく米兵と民兵、血飛沫を受けながらの応急処置、暴徒と化した現地住民から受ける暴行等々。眼をそむけたくなる描写が続き、きれいごとではない戦場のリアルをまざまざと見せつけている。その中で街をうろつくノラ犬や猫、アラベスク調の透かし彫りがついた家、出撃前の美しい海岸など、監督リドリー・スコットが考えつくしたであろう映像美が所々にあり、なおさらこの悲惨な戦いを際立たせていた。
ストーリーとしては大きく膨らむ話ではなく、小局的な戦闘が泥沼化して、双方の損耗被害が大きかったという話。しかしその後のアメリカの方針を変えたターニングポイントとなった戦いなので意義は大きい。戦争反対のを声を上げることも大事だが、現実起きたこと知る必要は必ずある。紛争を社会の疾病と捉えるなら、疾病の原因と症状知らなければ、疾病を予防することはできないと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?