デッド・ドント・ダイ

デッド・ドント・ダイ(アメリカ:2019年)
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ビル・マーレイ
  :アダム・ドライバー
  :ティルダ・スウィントン
  :クロエ・セヴィニー
  :トム・ウェイツ
  :セレーナ・ゴメス
 
平和な町に起きるゾンビパニック。だが、雰囲気はユルくて恐怖は感じない。名優が主演を張り、豪華なシンガーがチョイ役で出演するが、最後まで「???」の展開で理解に苦しんだホラーコメディ(なのか?)。
地球のどこかで行われている工事の影響で、アメリカのある平和な小さな町では奇妙な出来事が起き始めていた。家畜が失踪し、森で暮らしている変人の男が疑われる。彼を知る小さな町の老警察署長は彼の犯行ではないと主張する。その同じ頃、警察署にはかつて町一番の美人だったアル中中年女性の遺体が安置されており、奇妙な外国人女が跡を継いだ葬儀屋にはゴルフ中に落雷で命を落とした夫婦の亡骸が安置されていた。そして明るい夜と明けない夜に覆われた町のダイナーでは経営者と客の女性たちが惨殺される。彼女たちを襲ったのは墓場から蘇ったゾンビたち。老署長と若手警察官と女性警察は住民にゾンビへの警戒を促すが、ゾンビどもが蘇り、大挙して町を襲い始める。彼ら三人と謎の葬儀屋女、そして少年院の三人は怪異から逃れることができるのか。
様々な作品で取り上げられるゾンビムービーと同じく、死んだ人間が蘇り、人を喰い襲い、生存者は生き延びようと抗っていく。ゾンビどもはっきりと映り生存者を襲うが、動きがゆっくりとしているのも他の作品と同じ。ただ、生前の仕事や好み、愛着や考えにその行動を左右され、その対象に執着するのはちょっと斬新。酒をねだったり、お菓子や飲み物を欲しがったりする中に、WifiやBluetooth、某AIの名前を叫びながら徘徊するゾンビどももおり、現代社会への皮肉も感じる。作り手からの先端技術に依存する現代人も何らゾンビと変わらないという痛打と感じた。人を襲わず「ファッション」と呟いてポーズを決めるゾンビもおり、美意識の高さに感嘆しながらも苦笑を禁じえなかった。ありがちなのは頭を破壊すれば撃退できるということで、山刀や枝切ばさみで首を撥ねたり、ショットガンでヘッドショットかましたりと、戦いが一辺倒でステレオタイプ。相手がノロノロと動くクリーチャーだから通用するが、戦闘の爽快感はない。
その中で光るのが、ティルダ・スウィンストンが演じる謎の葬儀屋の女性。日本刀を振り廻し、鮮やかにゾンビの首を切り落とし、スラっとした長身のたたずまいは画面に映える。腰の位置がメチャクチャ高いので、胴着の帯の位置がバランス悪く感じるが、長いプラチナブロンドの髪をなびかせながら涼やかに立ち廻るのがカッコいい。刀の拵と握り(いわゆる手の内)が変な感じがしても、いるだけでミステリアスな雰囲気が充満するので、個人的にはこの人を観るだけで十分な気がした。我ら映画好きという人種にとって、こういう女優からしか摂取できない栄養素が存在するので仕方ない。でも最後はトンデモ展開で「???」を禁じえないんだが。
出演するキャストは豪華。老署長のビル・マーレイは長いキャリアで苦悩したが、住人を守ろうと冷静に行動する。壮年の落ち着きがいい雰囲気に感じさせてくれる。若手警察官は多少反抗的ではあるが、老署長と力を合わせて事態に対処しようとする。意外ともやしのようなアダム・サドラーが山刀をフルスイングして、ゾンビどもを撃退する画には力強さを感じた。
しかし、その他のキャストを活かすことができておらず、森の変人役トム・ウェイツは事態を傍観して哲学的な言葉を吐くだけ。初っ端のゾンビのイギー・ポップのキャスティングは面白いが、ゾンビのチョイ役なので魅力がない。旅する三人の若者の紅一点、セリーナ・ゴメスは健康的なお色気を振りまいてくれたが、扱いがぞんざい。まぁこの人の生首なんかヨソで観ることもできんのだろうが。
そしてラストには決定的に作品の評価が下がってしまうセリフがあり、ここまで観てきたのはなんやったんやと思わず声に出てツッコんだ。夢オチと並んで自分の嫌いな展開だったので今までの時間を返せって思ってしまう。少年院の三人は必要やったんやろうかとも感じさせえてくれる。葬儀屋の女も最後を観たら必要性を全く感じない。せっかくいい俳優が出演して、クスっと笑える演出もあるのに、すべてをひっくり返す展開で残念無念な作品。
もしオレがこのお話の中でゾンビになったら、レンタル店のカタログ棚をウロウロしているかもしれない。

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