邪神バスターズ

邪神バスターズ(2010年:アメリカ)
監督:ヘンリー・セイン
脚本:デヴィン・マッギン
出演:カイル・デイヴィス
  :デヴィン・マッギン
  :バラク・ハードリー
  :エドムンド・ルピンスキー
  :グレッグ・ローレンス
  :イーサン・ワイルド
 
クトゥルフ神話の原典を創作したハワード・フィリップス・ラヴクラフトの子孫が、邪神を崇めるカルトどもに邪神クトゥルフ復活に必要なレリック(遺物)を巡って追われるモンスターSFコメディ。短い尺でも視聴者(特にクトゥルフ神話ファン)を飽きさせないための工夫は感じられるが、中途半端になってしまった大変悔やまれる作品。
コールセンターに勤めるルームメイトの二人。一人は漫画家志望のダメ社員、もう一人はマジメな人付き合いが下手な男。自室に帰宅するとある大学教授が押しかけていた。人付き合いが苦手な男は、かのハワード・フィリップス・ラヴクラフトの子孫として、恐ろしい邪神クトゥルフ復活に必要なレリックを託される。二人は怪物クリーチャーから逃亡し、クトゥルフオタクの高校の旧友を仲間に、邪神の手先と戦って生き残ったという船長を探す旅に出る。彼らの運命はいかに。
B級感満載の展開で心が躍る。正直こういうくだらない映画は大好きだ。主人公のラヴクラフトの子孫は何の能力も行動力もない一般人。相棒の漫画家志望はただのクズ(こっちの方を子孫にした方が話は盛り上がったと思う)。クトゥルフオタクの旧友は本当に役立たずで、こいつらに世界が救えるわけがないと思ってしまう。が、悪戦苦闘しながらクリーチャーと対峙して、どうにかこうにか世界を守っていこうとのたうち回る姿は好感が持てる。それでもくだらない連中なんだが。こいつらが緊迫感皆無に追われつつも、伝説の船長を探す旅に出るが、やりとりはまったく面白くない。ちゃちなケンカに急に仲直りを見せられて、何度もハァ?と思わされた。B級は好きなんだけどねぇ…、これはダメだ。
キャスティング・演出・設定の安っぽさを感じるが、展開の安っぽさも眼についた。飽きさせない工夫は分かるが、同時進行のシーン割りを何度も使用して展開があっち飛びこっち飛びして、さっきまでのシーンとのつながりが希薄になる。くだらない小競り合いを見せて展開が停滞してしまうのも今一つ。笑わせる場面のつもりだろうが、そこに時間をとるならもっと血沸き肉躍る演出を差し込んでもらいたい。
全編通じて安っぽいB級感があるのだが、クリーチャーには気合が入っており、クトゥルフ復活を目論む教団のリーダーの座に強引に居座ったクトゥルフの落とし子は堂々とした体躯で割と作り込んだ特殊メイク。衣装がTシャツっていうところにアメリカンテイストを感じる妙なポップさではあるが、センスの良さを感じてしまう。ただ単に予算がなかっただけかもしれんが。その手下の深き者(半魚人)もきっちり全身作り込んでおり、人間や仲間の死体を喰い漁っている画像はグチャグチャのリアルさを表現。落とし子の触手で頭を貫かれた教団リーダーの死体を延々と映したり、半魚人化しつつある男が水が無くなったため口から泡吹いている姿とか割とグロい。でも嫌いじゃない。ちゃんと予算取って、ちゃんとしたプロデューサーがついて、さらにはちゃんとした脚本家がいれば、モンスターSFコメディとしてよかったのにと非常に残念に思えた。
その間に差し込まれたアニメーション部分は非常に分かりやすく、これだけ抜き出して一つの作品にしてもらいたいと思うくらい良質。アメコミ調のクトゥルフが地球に堕とされ、地球に先住していた古の者(人間ではない)と抗争を繰り広げ、そして深海に閉じこもる歴史は、クトゥルフ神話の入門として最良と思う。もう何年も年クトゥルフ神話ファンやってるけど(最近はサボり気味)ここまで分かりやすく説明してくれた媒体は初めて。
怖くもなく、笑えもしない。それでいて謎解きのワクワク感もなく、敵と戦う高揚感もない。何もかも中途半端で散々なB級映画だけど、クトゥルフ神話への愛情を感じたのは同種同属のシンパシーか。あちこちに散りばめた各作品へのオマージュやら剽窃やらリスペクトやらに思わずにやけてしまう。ラストシーンでは南極大陸に出現した聳え立つ狂気山脈を観て心が躍った。不本意ながら続編を期待してしまった。作ってもくだらないんだろうが。

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