アンビュランス

アンビュランス(アメリカ:2022年)
監督:マイケル・ベイ
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
出演:ヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世
  :ジェイク・ギレンホール
  :エイザ・ゴンザレス
  :ジャクソン・ホワイト
  :セドリック・サンダース
 
銀行強盗を犯した二人のきょうだいが逃走のために奪ったのは、自分たちが撃った新米警察官が運ばれている救急車だった。血の繋がらないワルの白人の兄と家族ため金が必要な元兵士の黒人弟、その救急車に乗り組んでいた自棄気味の女性救急救命士の三名が、絆や命、互いの境遇や欲望などをない交ぜにして突っ走るスピードアクション。マイケル・ベイ節ともいうべき意欲的なカメラワークに熱い気持ちを乗せて、息つく暇を与えさせないところが見どころ。
元兵士の黒人弟は妻の高額な治療費を捻出できず、再就職もままならない境遇。仕方なくも、ワルの兄に援助を求めるが、兄は巨額の銀行強盗の手助けを求める。兄なりに弟に大金をつかませてやろうと思う親切だったが、部下たちの不手際や兄を追う警察・FBIの介入があり、あえなく失敗。弟は兄に襲いかかった新米警察官を撃ってしまう。その警察官を乗せた救急車をカージャックした二人は、逃走を図るが、警察の大々的な包囲網に退路を狭められて窮地陥ってしまう。その最中にも新米警察官の容体は悪化し、一刻の猶予も無くなる。日々の職務に嫌気がさしていた女性救急救命士は二人をけしかけて新米警察官の救命措置を始めるが、逃走のさなか困難な処置を求められ、更に窮地は深くなっていく。
始めっからアクションの連続。銀行強盗では殺到する警官たちと激しい銃撃戦になり、逃走を図る時にはドタバタと互いの諍い、新米警察官との格闘、救急車強奪まで一気に駆け抜ける。さらに救急車での逃走は目立つためすぐに捕捉されてしまい、大規模な追跡劇、カーチェイスが繰り広げられる。カメラはダイナミックに多角的に、そして登場人物の表情まで追いかけて否が応でも画面にクギ付けにさせられる。ただ、これが120分続くとかなり集中力も体力もきつい。その中で救急車内では新米警察官の救命措置が取られ続けるから、メチャクチャに心臓にも悪い。腹を切開し臓器の止血を走りまわる救急車の中でやるのはかなり危なっかしく、噴き出す血しぶきに女性救急救命士の焦りはこちらにも伝わってくる。医師からオンラインで指示を受けながら処置を行うのは現代的と感じた。処置中覚醒した新米警察官を殴って気絶させて処置再開したシーンは不覚にも笑ってしまった。実際こういう手もあるらしい。非常手段だけど。
キャストで眼を引くのはワルの白人の兄役のジェイク・ギレンホール。眼をひん剥いて相手を恫喝したかと思えば、血のつながらない黒人の弟と真の絆をもち、彼だけは助けてやろう、家族の下へ返してやろうとどんな手段を使っても凶行に出る狂気はすさまじかった。取引相手が偽りのきょうだいと吐き捨てた時の彼の怒りはまさに本物を感じる。さすがカメレオン俳優といわれるだけある。この人が出る作品はハズレがない。
その兄に振り回されつつも、兄を決して見捨てようとしない黒人の弟役、ヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世(長い上に2世って日本にはないやろな)も最近注目されている俳優。逃走中ビデオ通話で妻と幼い息子と会話している悲痛な顔は切ない。兄の犯罪の片棒を担ぐが、決してワルではない、悲しき男の哀愁をよく演じていた。
そしてもう一人の主役、女性救急救命士役のエイザ・ゴンザレスもなかなかいいキャスティング。毎日救急対応に追われ、自らの生活に乾燥しきった感慨を持ちつつも、職務には忠実かつ的確な人物。同僚にはあくまでも仕事的に対し、自分が搬送した少女のその後になどは気にもならない。そんな彼女が人質として死も間際な新米警察官とともに拉致されてから一転、自分が生き残るため、患者を生かすため強盗のきょうだい二人と関わっていくことで変化するのも面白い。この辺あたりにマイケル・ベイ特有の人間最後は人情だぜっていうメッセージを感じてしまう。
逃走する救急車はノンストップ(途中警察を撒くため止まることはあるが)で駆け抜けて、出てくる登場人物の丁々発止の掛け合いに、凄まじい銃撃戦、爆破、カーチェイスでの大クラッシュとこれでもかと詰め込んで、そこに意欲的で熱いマイケル・ベイ節をブチ込んだかなりの大作ではあるが、やっぱり長い尺の中で観続けるのかなりの労力。最初の銀行強盗の銃撃戦はもう少しコンパクトにまとめて、救急車での逃亡ぎゅっと押し込んで、派手な盛り上がりの最後にしんみりとしたまとめに持って行けばバシッとエンドが決まったんではないかと思われる。見応えがあるだけに自分の気力体力が続かなかったのが悔やしい。

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