ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀

ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀(ドイツ:2011年)
監督:フィリップ・カデルバッハ
出演:マキシミリアン・ジモニシェック
  :ローレン・リー・スミス
  :グレタ・スカッキ
  :ステイシー・キーチ
  :ヒンネルク・シェーネマン
  :ハンネス・イェーニッケ
 
1937年アメリカに到着した直後、爆発炎上して多数の死傷者を出したヒンデンブルグ号。事故調査委員会により事故原因は発表されているにも関わらず、第二次世界大戦開戦前夜であったためか、未だに陰謀の存在をほのめかされている航空事故。史実・フィクションを絡めた航空陰謀サスペンス・アクションドラマ。
恋愛より空を飛ぶことに情熱を傾けるドイツの飛行船設計技師は、初めて飛んだグライダーで事故り、森の池に墜落。居合わせたアメリカの石油会社の社長令嬢が水に飛び込み彼を救出したことにより二人の間に縁ができる。彼女はドイツへ輸出禁止になっているヘリウムの輸入再開に向けて活動する母に同行して訪独していた。その夜大使館でのパーティーで再開した二人だったが、彼女の父の体調不良のため彼女は飛行船ヒンデンブルグ号でアメリカへ帰国することとなる。その報を受け取った彼女の父、石油会社の社長はすぐに母娘をヒンデンブルグ号から降ろすように連絡するが間に合わず。あることから陰謀を知った設計技師はヒンデンブルグ号に忍び込むが、陰謀は一つだけではなく、様々な立場の人間たちが自らの尊厳をかけて生き残ろうとする舞台でもあった。
B級感漂うタイトルだが、中身はなかなかの力作。複雑な境遇の人間たちが狭い機内に集って不穏な雰囲気がある。ファシズムのドイツから、自由主義のアメリカへ旅立つ船なので乗り合わせる乗客の背景は暗い。アメリカを経由してアルゼンチンへ逃れようとする富豪一家に、規則に縛られた国に嫌気がさしているエンターテイナー、そして何としてもドイツにヘリウムを輸出して会社を立て直したい石油会社の社長夫人など、きらびやかな虚飾の下にもがき苦しむ哀れさがにじむ。富豪一家の長女はなぜアメリカへ旅立つのか理由を聞かされてはおらず、それをエンターテイナーが暴露した時は人の無情さを感じた。
主人公である設計技師はヒンデンブルグ号に関する陰謀を阻止するため、離陸直前に忍び込み、内部で奮闘するが、その姿にパワフルで迫力があっていい。キャスト内でも高身長で、体格もよく、ガチの格闘シーンが映える。ピンチの際には機転を利かせて敵を撃退し、追手に捕らえられて拷問を受けても不屈の眼の光が輝き続けるなど、ストーリーを大いに盛り上げてくれた。世界にはこういうキャラクターを演じられる俳優がまだまだいると楽しく感じた。
もう一方の主役、ヒンデンブルグ号もかなりの迫力。格納庫からその巨体が姿を現した時は胸が躍った。内部もしっかり登場しており、シンプルかつ先端的な客室もさることながら、浮遊の要となる機関部も見せてくれる。鉄骨が高く、複雑に組み上げられて、船体の巨大さを際立たせていた。現代では広告用程度にしか使われない航空機だが、当時は最先端の技術だったんだろう。こういう機械や構造物を見るのは大好きだ。
最初の陰謀はヒンデンブルグ号の爆破。アメリカ到着した後頃合いを見計らって爆破させ、浮遊するために必要なガスを水素から引火の危険性の少ないヘリウムへ転換させるためのパフォーマンスとするつもりであるらしいが、その背後には当時のドイツが置かれた世界情勢がカギとなってくる。しかもただ単に一企業の陰謀ではなく、国家的な陰謀、さらには世界を巻き込む大陰謀の引き金としようと目論んでいる。それはありかもしれないが、観終わって理性的になるとそれはないよなと思うところに、この作品の上手なウソのつき方を感じる。
元の作品を編集して短く尺を納めたためか、説明不足、関連がよく分からないシーンが見られた。エンターテイナーなど、ちらっと表れて隠喩めいたことをほのめかした割りには、やったことは当て推量で秘密を暴露した程度。そのくせ富豪一家の長女を励ましたりするから、余計何がしたいんやと思わされる。
ラストも締めが今一つに感じた。派手にヒンデンブルグ号が爆発炎上し、そこからの脱出で大円団かと思えば、まだ陰謀の決算が残っていた。スッキリと終わらんのは仕方がないが、お話なのでもっときれいにまとめてほしかったなと思う。でも結構楽しめたんでプラマイゼロということで。

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