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【論点整理】検察庁法改正案の何が問題なのか

Twitterにおいて、ハッシュタグ #検察庁法改正法案に抗議します が話題になっていました。
この問題点については、別の弁護士による次のブログが最も詳しいため、この記事では、簡潔に問題点を指摘します。

詳しく調べたわけではなく、備忘録的なものですので、誤りがありましたら、Twitterなどにてお知らせいただけますと幸いです。
なお、本記事は、問題点を整理する趣旨であり、私が検察庁法改正案に対して賛成・反対の意見表明をするものではありません。

現行の検察庁法のルールとこれまでの慣例

現行法①
・検察官の定年は63歳まで(22条)

現行法②
・内閣が任命する検事総長のみ定年は65歳まで(22条)

慣例③
・内閣による検事総長等の任命は、検事総長が認め、法務大臣、首相と閣議申請される慣例であった
(森功「安倍首相VS検事総長の信念」文藝春秋2020年5月号272頁以下、279頁参照)

検察庁法改正案と現在の運用

改正法案①
・すべての検察官の定年は65歳まで(22条1項)
・検事正(9条2項)、上席検察官(10条2項)、次長検事・検事長(20条2項)は63歳までとする役職定年制を導入

改正法案②
・法務大臣は検事・副検事(22条3項、国公法81条の7)、内閣は検事総長・次長検事・検事長(22条2項、国公法81条の7)につき、それぞれ定年延長ができる(通算3年以内)
・法務大臣は検事正(9条3項、4項)・上席検察官(10条2項、9条3項、4項)、内閣は次長検事・検事長(22条5項、6項)の役職定年の延長ができる

現在の運用③
内閣人事局が法務省の検察人事案を差し戻す運用がなされるように
(前掲・森276~277頁参照)

問題点の整理

・現行法①を改正法案①とすること自体に大きな問題はない。ただし、役職定年制の導入については、議論の余地がある(法案要綱の附則「四 検討」第1項参照)

・現行法②は、検事総長のみ定年が65歳であるため、実質的には定年延長されることになっていたが、慣例③により、検察庁内の人事権の独立性が確保されていたため、政治的中立性が保たれていた

・ところが、慣例③が現在の運用③になり、内閣が、内閣人事局を通じて、検察幹部の人事権を行使するようになった(慣例変更の問題点)

・このような状況下で、現行法②を改正法案②のように、すべての検事に定年延長の対象を拡大し、役職定年の延長も許されることとなると、検察組織全体が内閣や法務大臣を忖度し、検察庁の独立が失われるとの疑念が生じる(改正法の問題点)

慣例変更の問題点

問題ない説
・単なる法律上の権限行使にすぎないため許される
・憲法には、検察権に対する内閣の介入を禁止する直接の規定はない
・慣例③は、検察が仲間内で人事を決めて回すというものであり、運用③により、検察組織に対して民主的コントロールを及ぼすべきである

問題ある説
・慣例③は、検察の独立を確保するために必要であるから、尊重されるべきである

検察の独立の問題点

問題ない説
・内閣人事局を通じて、検察人事に民主的コントロールが強く及ぶようになり、検察の暴走を防ぐことができる
・内閣は「内閣が定める」事項に、法務大臣は「法務大臣が定める準則」に基づき人事権を行使するため、要件となる事由が事前に明確化されるから(22条2項、3項)、恣意的に行使されることはない

問題ある説
・司法権のうち刑事裁判権は、行政機関たる検察官が起訴しなければ発動しないため、検察の人事に内閣が過度に介入すれば、政治家の訴追が困難となり、憲法が予定する権力分立が崩れる
・慣例③なき今、検察の独立性が脅かされ、政権与党に対する捜査の手を緩めるようになる
・検察に対して民主的コントロールを及ぼす必要があるとしても、内閣により、定年延長や役職定年の延長といった権限行使により行われる必然性はない(指名委員会制などもあり得る)

【参考資料1】現行の検察庁法(抜粋)

第15条 検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。
2 (略)
第22条 検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官年齢が63年に達した時退官する。

【参考資料2】検察庁法改正案(抜粋)

条文はこちらに掲載されています。検察庁法は93頁以下です。

1.定年制の導入とその延長

第22条 検察官は、年齢が65年に達した時に退官する。
2 〔※筆者註:国公法81条の7の読み替え。条文は後掲〕
3 〔※筆者註:国公法81条の7の読み替え。条文は後掲〕
4 法務大臣は、次長検事及び検事長が年齢63年に達したときは、年齢が63年に達した日の翌日に検事に任命するものとする。
5 内閣は、前項の規定にかかわらず、年齢が63年に達した次長検事又は検事長について、当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事又は検事長に、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる
6 内閣は、前項の期限又はこの項の規定により延長した期限が到来する場合において、前項の事由が引き続きあると認めるときは、内閣の定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内(その範囲内に定年に達する日がある次長検事又は検事長にあつては、延長した期限の翌日から当該定年に達する日までの範囲内で期限を延長することができる
7 法務大臣は、前2項の規定により次長検事又は検事長の官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした次長検事又は検事長については、当該期限の翌日に検事に任命するものとする。ただし、第2項の規定により読み替えて適用する国家公務員法第81条の7第1項の規定により当該次長検事又は検事長を定年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。
8 第4項及び前項に定めるもののほか、これらの規定により検事に任命するに当たつて法務大臣が遵守すべき基準に関する事項その他の検事に任命することに関し必要な事項は法務大臣が定める準則で、第5項及び第6項に定めるもののほか、これらの規定による年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定及び延長に関し必要な事項は内閣が、それぞれ定める。
○検察庁法22条2項による読み替え後の国公法81条の7
第81条の7 任命権者は、定年に達した職員〔※筆者註:検事総長、次席検事又は検事長〕が前条第1項の規定〔※筆者註:定年による退職〕により退職すべきこととなる場合において、次に掲げる事由があると認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該職員〔が定年に達した日〕の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、当該職員〔を当該職員が定年に達した日〕において従事している職務に従事させるため、引き続き勤務させることができる。ただし、〔検察庁法第22条第5項又は第6項の規定により次長検事又は検事長の官及び職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした職員であつて、定年に達した日において当該次長検事又は検事長の官及び職を占める職員については、引き続き勤務させることについて内閣の定める場合に限るものとする〕。
一 前条第1項の規定により退職すべきこととなる職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる認められる事由として〔内閣が〕定める事由
二 〔適用しない〕
2 任命権者は、〔前項本文の〕期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、〔前項第1号〕に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、〔内閣の定めるところにより〕、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、当該期限は、当該職員〔が定年に達した日(同項ただし書に規定する職員にあつては、年齢が63年に達した日)〕の翌日から起算して3年を超えることができない
3 前2項に定めるもののほか、これらの規定による勤務に関し必要な事項は、〔内閣が〕定める。
○検察庁法22条3項による読み替え後の国公法81条の7
第81条の7 任命権者は、定年に達した職員〔※筆者註:検事又は副検事〕が前条第1項の規定〔※筆者註:定年による退職〕により退職すべきこととなる場合において、次に掲げる事由があると認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該職員〔が定年に達した日〕の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、当該職員〔を当該職員が定年に達した日〕において従事している職務に従事させるため、引き続き勤務させることができる。ただし、〔検察庁法第9条第3項又は第4項(これらの規定を同法第10条第2項において準用する場合を含む。)の規定により検事正又は上席検察官の職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした職員であつて、定年に達した日において当該検事正又は上席検察官の職を占める職員については、引き続き勤務させることについて法務大臣が定める準則(以下単に「準則」という。)で定める場合に限るものとする〕。
一 前条第1項の規定により退職すべきこととなる職員の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる認められる事由として〔準則〕で定める事由
二 〔適用しない〕
2 任命権者は、〔前項本文の〕期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、〔前項第1号〕に掲げる事由が引き続きあると認めるときは、〔準則で定めるところにより〕、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、当該期限は、当該職員〔が定年に達した日(同項ただし書に規定する職員にあつては、年齢が63年に達した日)〕の翌日から起算して3年を超えることができない
3 前2項に定めるもののほか、これらの規定による勤務に関し必要な事項は、〔準則〕で定める。

2.役職定年制の導入とその延長

第9条 (略)
2 法務大臣は、検事正の職を占める検事が年齢63年に達したときは、年齢が63年に達した日の翌日に他の職に補するものとする。
3 法務大臣は、前項の規定にかかわらず、年齢が63年に達した検事正の職を占める検事について、当該検事の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該検事を他の職に補することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として法務大臣が定める準則(以下この条において単に「準則」という。)で定める事由があると認めるときは、当該検事が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該検事に、当該検事が年齢63年に達した日において占めていた職を占めたまま勤務をさせることができる。
4 法務大臣は、前項の期限又はこの項の規定により延長した期限が到来する場合において、前項の事由が引き続きあると認めるときは、準則で定めるところにより、これらの期限の翌日から起算して1年を超えない範囲内(その範囲内に定年に達する日がある検事にあつては、延長した期限の翌日から当該定年に達する日までの範囲内)で期限を延長することができる。
5 法務大臣は、前2項の規定により検事正の職を占めたまま勤務をさせる期限の設定又は延長をした検事については、当該期限の翌日に他の職に補するものとする。ただし、第22条第3項の規定により読み替えて適用する国家公務員法(昭和22年法律第120号)第81条の7第1項の規定により当該検事を定年に達した日において占めていた職を占めたまま引き続き勤務させることとした場合は、この限りでない。
6 第2項から前項までに定めるもののほか、第2項及び前項の規定により他の職に補するに当たつて法務大臣が遵守すべき基準に関する事項その他の他の職に補することに関し必要な事項並びに第3項及び第4項の規定による年齢63年に達した日において占めていた職を占めたまま勤務をさせる期限の設定及び延長に関し必要な事項は、準則で定める。
7 法務大臣は、年齢が63年に達した検事を検事正の職に補することができない。
8 (略)
第10条 (略)
2 前条第2項から第7項までの規定は、上席検察官について準用する。
第20条 (略)
2 前項の規定により検察官に任命することができない者のほか、年齢が63年に達した者は、次長検事又は検事長に任命することができない

【参考資料3】国会提出資料

内閣官房から国会に提出した資料はこちら

国家公務員法等の一部を改正する法律案の概要

国家公務員法等の一部を改正する法律案要綱(抜粋)

四 検討
1 政府は、国家公務員の年齢別構成及び人事管理の状況、民間における高年齢者の雇用の状況その他の事情並びに人事院における検討の状況に鑑み、必要があると認めるときは、新国家公務員法若しくは第八による改正後の自衛隊法に規定する管理監督職勤務上限年齢による降任等若しくは定年前再任用短時間勤務職員若しくは定年前再任用短時間勤務隊員に関連する制度又は第四による改正後の検察庁法に規定する年齢が63年に達した検察官の任用に関連する制度〔※筆者註:役職定年制のこと〕について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。

国家公務員法等の一部を改正する法律案・理由(抜粋)



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