商用炉世界で初めてとなるメルトダウン 米スリーマイル島原発事故から45年 事故の概要 「チャイナ・シンドローム」という言葉も流行
商用炉で、世界で初めてとなるメルトダウン(炉心溶融)事故を起こした米スリーマイル島(TMI)原子力発電事故から、45年を迎える。
事故は、1979年3月28日、2号機原子炉で発生。2号機の原子炉内が危機の故障や作業ミスで空き状態となり、核燃料の一部が溶融。微量の放射性物質が外部へと漏れ、周辺住民14万人以上は一時退避した。
住民などへの健康への影響は確認されていない。
事故は、ペンシルベニア州を流れるサスケハナ川に浮かぶ細長い島で発生。島は、長さがおよそ3マイル(約4.8キロメートル)であることから、スリーマイル島と命名されている。
事故を起こした2号機は、もともとの運営会社が買収されるなどの経緯をたどり、20年12月、廃炉ビジネスを手掛ける米エナジーソリューションズ社に売却。一方、事故が起きなかった1号機は、19年まで運転が続けられた。
当時、スリーマイル島原発は、
とまで言われた最新鋭の原発。しかし、それがもろくも崩れ去った。
また当時、「チャイナ・シンドローム」という言葉も流行。
事故発生の12日前に公開されて、原発事故を扱った「チャイナ・シンドローム」は話題となり、同年の米アカデミー賞で主演男優賞、主演女優賞、美術賞、脚本賞などにノミネート。仏カンヌ映画祭のパルムドールにもノミネートされる。
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事故概要
事故は、2次冷却水循環装置の浄化器のフィルターを洗浄する装置が停止したことに端を発す。作業員が手でフィルターのゴミを取り除いたが、その際に浄化器をコントロールする装置に水が入る。
その後、28日の午前4時にコントロールルームの警報が作動し、2次冷却水の流れが止まったことが確認。冷却水の流れが止まると、タービンが停止し、制御棒が降下して原子炉の作動が停止。
これにより、1次冷却水の温度が急激に上昇し、原子炉内の温度が非常に高くなり、炉心が溶ける危険性が高まる。
本来であれば、2次冷却水の流れが止まった場合に備えて、バイパス経路が設けられており、メインの水流が停止すると自動的にバイパスから水が供給されるようになっていた。
しかし、事故時にはバイパスのバルブが閉じられた状態で、誰もそれが閉じているとは思わず、緊急時の警報の中で、作業員はバルブが閉じていることに気付かないまま。
さらに、1次冷却水の温度が急上昇した場合に蒸気を放出する安全装置「逃がし弁」もあった。
圧力が下がれば自動的に閉じることになっていたがこの弁も故障し、開いたままに。そして、高熱により1次冷却水の水位を示すメーターが損傷し、「満水」の表示で固定されてしまう。
「チャイナ・シンドローム」
これを見た作業員は、これ以上冷却水を供給してはまずいと思い、緊急炉心冷却水注入装置を止めてしまう。しかし原子炉内で1次冷却水が漏れ、燃料棒が露出。
その結果、表面温度は2000℃に達し、炉心の52%がメルトダウン。これにより、原子炉棟に満ちた放射能が外にわずかに漏れ出す。
2時間18分後、別の運転員が水位計の誤作動に気づき、1次冷却水の漏れを止める。8時45分、アメリカ原子力規制委員会(NRC)に事故が報告され、ニュースが流れると混乱が広がる。
2日後、NRCの要請で、ペンシルベニア州知事は原発から5マイル以内の妊婦と子どもに避難勧告を出す。しかし住民はパニックに陥り、町はゴーストタウンと化す。
炉心の溶解は途中で止まり、炉の隔壁が破壊されるのを避けられたため、最悪の事態は回避されるも、米史上最悪の原発事故となった。
事故の12日前には、「チャイナ・シンドローム」という映画が公開された。
映画では原発の取材中に事故に遭遇して、それを伝えようとする女性レポーターと命がけで事故を防ごうとする原発管理者、情報をもみ消そうとする原発管理会社等の対立を描いている。
映画のタイトルは、原子炉が溶融貫通を起こした場合、溶けた核燃料が地中深くまで沈み、地表を貫いて米国の反対側の中国に到達するというジョークにちなむ。
現在の状況
事故に見舞われた2号機の核燃料の大部分は回収できたが、依然として強い放射線を発するデブリが残っており、これを安全に取り除くための作業が、ロボットなどを使って進められている。
現地の放射線量は比較的低いという(1)。
2011年3月に福島第一原発で起きた事故と同じく、スリーマイル島原発でも放射性物質を含む大量の水が発生し、その処理が課題に。
福島第一原発では、約130万トンの処理水を海に放出する作業が昨年8月から開始された。
一方、スリーマイル島原発では、水を蒸発させる方法が採用され、1991年から1993年にかけて約8700トンの水が水蒸気として大気中に放出される。
原子炉内の約130トンの核燃料のうち、溶け固まったデブリを含む99%は、掘削機を使用して1990年までに取り出され、アイダホ州の国立研究所に保管されている。
残りの1%のデブリは、原子炉の底部などに残されている。人間が炉内に入ることはできないため、ドローンやロボットを使用してデブリの位置を特定し、遠隔操作で切断や破砕するための機器の準備と訓練が行われている。
スリーマイル島原発は、2037年までに廃炉を完了する予定だ(2)。
(1) 読売新聞オンライン「メルトダウン事故45年、デブリから今なお強い放射線…米スリーマイル島原発に本紙記者が入る」2024年2月13日、https://www.yomiuri.co.jp/science/20240211-OYT1T50008/
(2)読売新聞オンライン、2024年2月13日
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