ヒヤリハット19 保楠田、土のう袋に足を取られる
こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回は2つのヒヤリハットです。
保楠田、土のう袋に足を取られる
猫井川は、少しばかりの頭痛とともに、出勤しました。
普段は飲みに行くはありません。そして家で晩酌する習慣もありません。
昨晩の飲みなれない酒が、まだ体に残っているようでした。
「若い頃は朝まで飲んでも平気だったのに。
俺も年だな。」
そんな風に思う猫井川27歳なのでした。
「おう、猫井川。おはよう。
昨日は真っ直ぐ帰ったか?
あれから1人で遊びに行ったりしなかっただろうな?」
酒と若さとの関係に思いを馳せていた猫井川に、エスパニョール鼠川が声を掛けました。
「おはようございます。昨日はごちそうさまでした。
ちょっと二日酔いですかね。」
「なんだ、あの程度でか。
生っちょろいな~。
シャキーンとしないと、しっかり仕事ができないぞ。」
「は、はい。
でも、ちょっと音量下げて下さい。」
鼠川の大声が、頭に響くのでした。
「おはよう。猫ちゃんたちは、昨日はどこに飲みに行ったの?」
そう言って入ってきたのは、保楠田でした。
「はい。なんと鼠川さんの奥さんの実家に連れて行ってもらいましたよ。
奥さんとも会いました!」
「へー、そうなんだ。どこのお店?」
「ちょっと離れた場所の、スペイン料理屋です。」
「スペイン料理屋なんだ。
なんとも似つかわしくない2人でいったねー。
鼠川さん、また今度、連れて行ってくださいよ。」
「おお、いいぞ。また今度行こう。
猫井川もいつでも来い。」
「ええ、またご一緒します。」
そんな話をしていると、社員も揃い、現場作業に向かうことになりました。
「犬尾沢、今日も同じ現場か?」
鼠川が犬尾沢に尋ねました。
「はい。昨日コンクリ打ったんで、次の準備です。
それでは、向かいますか。」
犬尾沢チームは、保楠田、猫井川と鼠川の4人で現場に向かうことになりました。
現場に着くと、犬尾沢が全員を集めて、ミーティングを始めました。
「昨日の打ったコンクリートは養生です。
次の部分の鉄筋と型枠を準備していきます。
全員で鉄筋とか運んで行って、俺と保楠田さんで配筋をやります。
鼠川さんと猫井川で型枠の準備を進めて下さい。」
犬尾沢の指示に引続き、KYも行いました。
「では、本日の目標は、配筋作業での転倒防止ヨシです。
配筋作業での転倒防止!ヨシ!」
「「「配筋作業での転倒防止!ヨシ!」」」
犬尾沢の号令の後、全員で唱和しました。
さて、最初の作業は、全員で材料運びです。
「猫井川は、土のう袋を何枚か持ってきて、ゴミをまとめて行ってくれ。」
犬尾沢から指示を受け、猫井川は材料とともに、土のう袋も手に取りました。
「うーん、まだ頭がズキズキする。」
頭がぼんやりとして、普段以上に注意力が散漫な様子でした。
そんな理由もあったのでしょう、猫井川の手から1枚の土のう袋が、するりと抜け落ち、地面に落ちました。
猫井川はそのことに気づきませんでした。
ふと後ろを振り返ると、保楠田の姿が目に入りました。
保楠田は、長さが4メートルの鉄筋をまとめて10本くらい肩に担いでいました。
「保楠田さん、さすがに持ち過ぎじゃないですか?」
少し呆れながら猫井川が、言いました。
「こ、これくらいは、だ、大丈夫。
へ、平気平気。」
全然、平気そうじゃありません。
「足元フラフラしてますよ、もう少し減らさないと危ないですよ。」
「だ、大丈夫。もう少しだから。」
保楠田は持ち運ぶことに、全神経を使っていました。
そのため、足元に転がる白い物に気づかないのでした。
転がる白い物。先ほど猫井川が落とした、土のう袋でした。
土のう袋は、ヨロヨロと歩く保楠田の足に襲いかからんとばかりに、待ち構えていました。
そして保楠田の足元に絡みつくと、元々フラフラしていた足取りを、さらに覚束なくしたのでした。
「お、おぅ」
足を取られた保楠田は、バランスを崩し、体を大きく傾けてしまいました。
その傾きとともに、抱えていた鉄筋も、手を離れていくのでした。
ガラガラガラ!
何本かの鉄筋が、足元に落下しました。
その音に、作業していたみんなが振り返ります。
「やっべー」
保楠田は、間一髪の所で、転倒を免れました。
なんとかKY目標を守りました。
しかしその顔には、焦りの色が浮かんでいました。
「大丈夫ですか?」
猫井川が声をかけます。
「だ、大丈夫。ちょっとバランスを崩しただけ。
でも、何でこんなところに土のう袋があるの?」
「あ、それは。。。」
土のう袋を見て、何かに気づく猫井川。
「猫井川!そこに土のう袋を置いてたのは、お前か?」
猫井川の様子を見た犬尾沢が聞きました。
「たぶん、運んでいた時に落としたのかもしれません。」
猫井川が恐る恐る応えます。
「猫井川ー!」
犬尾沢の雷に、ひぃと肩をすくめる猫井川。
昨日、鼠川と話していたことが、さっそく空回りしたみたいです。
「保楠田さんも、無理して持ち過ぎない!」
犬尾沢の叱責は、保楠田にも飛び火しました。。
「すみません!!」
猫井川、保楠田の仕事のは、犬尾沢の雷から始まったのでした。
ヒヤリハットの解説
作業現場では、様々な材料を使います。
材料は、使用する場所に合わせ、切ったり、削ったりしてゴミがでます。
理想的な作業場は、きちんと整理整頓がされている状況です。
しかし現実として作業時はゴミや工具があちこちに散らかっているということも少なくありません。
ある程度は仕方ない面もあるのですが、これが転倒の原因になることも考えられます。
今回、保楠田が転びそうになったのは、土のう袋に足を取られたことが原因でした。たった1枚の土のう袋が、もしかすると大きな災害を招くこともあるのです。
特に足元まで注意が及ばない時は、些細なものでも危険度が増すのです。
今回の保楠田のように、大量の荷物を運ぶ時は、足元に注意が及ぼない状況の一例ですね。
鉄筋を10本運ぶのは容易い人もいますが、保楠田には難しかったみたいです。
一度運び始めたら、途中で減らしたくない。
このような心情は、共感できます。何か負けたような気がしたりしますふ。
しかし、無理をし過ぎると、大きな事故や、怪我の可能性も忘れてはなりませんね。
保楠田などのように、足元への不注意も事故の原因となります。
一方で、不注意な状態であっても、転倒などのおそれがない作業環境となれば、理想的ですね。
簡単な話ではありません。
しかし、目についたゴミを拾う、作業した後はすぐに片付け、掃除するなどを習慣にすると、転倒などの事故を起こしにくい、環境を作っていけるのではとも思います。
今回のヒヤリハットのまとめ(1つ目)
ヒヤリハットの内容
土のう袋が足に引っかかり、転びそうになった。
対策
1.作業中の整理整頓を行い、通路は開けておく。
2.物が落ちた場合は、すぐに片付ける。
今回のヒヤリハットのまとめ(2つ目)
ヒヤリハットの内容
大量の鉄筋を運んでいたところ、バランスを崩した時に落とした。
対策
1.一度に運ぶ量を減らす。
2.足元に注意して、障害物が無い所を歩く。
私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
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