闇を剥がす
「いてらさんの文章、こわいです。」
そう、言われたことがある。似たようなことはいくつも言われてきたが、しっくり来たのはこの一言だった。「怖い」のか「恐い」のか「怕い」のか、それは分からなかったけど、ああなるほどと腑に落ちて、なんだかとても安心したのを憶えている。
隠しても覆ってもその腹の底からにおい立って来るような、人間の本性を書きたいと思っている。倫理と本性の狭間で弱々しくもがいたり、激しく揺れ動いたりするのが、私たち人間だと思うからだ。そこに、真実があると思うからだ。
それでも書こうと思って書く手を止めたことが幾度もある。受け入れてもらえないかも、閉まっておくべきなのかも、反感を買うかも、そんな不安がこの指先に絡みついて自由を奪ってゆく。その度に、私はゆっくりと忘れようとしてきた。けれどもその『書こうとした事柄』は、私の足下にごろごろと転がって、じっとただ、待っているのだ。私が書き始めるのを。じっと、声を押し殺して、私を見上げて。
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以前より、フォローさせていただいている深澤佑介さんが、興味深い企画をされると知ったのは去年のこと。知るや否や、すぐに挙手した。
これからも変わりなくこれからも愛し続けるであろうMr.Childrenの曲を自身のnote1周年のタイミングでフォロワーさんにピッタリの曲を選び捧げますと言うのが今回の企画。
私は想像した。深澤さんの思う、私のイメージ。それはきっと、私自身が持っている私自身のイメージにそっくり近くても遠くかけ離れていても、きっと楽しい。
そしてとうとう、私の番が来た。
『瞬間的にいてらさんにはこれだって曲が浮かびました。これ、他の方のときにはなかったインスピレーションでしたね』と仰る選曲がこちら。
聴いた瞬間、衝撃が走った。私が、文章を書く時にいつも佇むその場所が画面の向こうに広がっていたから。見慣れたその景色は、暗闇の中に濃紺の海が揺らめき、頼りにできるのは微かな月の光くらい。深澤さんと私のイメージはぴったりと重なっていた。
響く重低音に、この体の水分が、夜の海の水面が震える。月夜が、その切なく歪んだ輪郭をなぞる。
”自分に潜んでた狂気が首をもたげて 牙を剥き出し遠吠えをあげる
もう手懐けられはしないだろう”
歌声に叫びが混じる。その叫び声が、祈りのような叫び声が、真直ぐに闇の中を突き抜けていく。何度も何度も、手を伸ばすように突き抜けていく。突き抜けて、突き刺して、切り裂いていく。闇を。頼むから、もっと。もっと切り裂いて欲しい、その叫び声で。
そう強く願ってしまう私もきっと、この暗い海の淵で叫び続けている一人なんだろう。じっと転がる足下の塊を拾い上げて筆をとろうとする一人なんだろう。
切り刻まれ続けた闇はいつしかカーテンのように空から剥がれ去り、朝陽が広がる。
”いつか新しい自分にまた出会えるまで
そうさ終わらぬ夢のその先に 僕は手を伸ばす”
私もいつか闇を剥がし落として、あんな朝陽を浴びれるだろうか。白く柔らかな光の中に草木が霞む様を目にすることが出来るだろうか。そんなことを願いつつ、叫んでも叫んでも分厚い闇空に吸い込まれていくだけの虚しい夜は、この言葉を思い出すだろう。
催眠から覚醒へ。
もっとこれからの湖嶋いてらさんを見ていたいなって思っています。
深澤さんは、きっと知らない。
これまで闇の中でもう何度、私を照らしてくれたか。何度、その温かい言葉で私をすくい上げてくれたか。
きっとこれからも、あなたの言葉たちが冷え切ったこの体を包んでくれることがあるでしょう。
感謝を込めて。
深澤さん、note1周年、おめでとうございます。
ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!