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ドッグ、あるいは人間トレーニング(3)

ベイリーは、フィールドでは夫が1番、トレーナーが2番、3、4がなくて5にJunko と思っている、と思っていた。一緒にトレーニングをした時間の順だ。先月、夫とトレーナーは1週間、狩りの旅に行ってきた。その前にベイリーは膝を痛めて2週間リーシュウォーキングのみというドクターストップがかかり、先日1ヶ月ぶりにトレーニングに行った。「感覚が鈍った気がする」と心配する私をよそに、ベイリーはブランクを全く感じさせない素晴らしいパフォーマンスを見せた。トレーナーのところに着き、クレイトから出すときに、私を見つめて、私と走るモードに切り替わるのを見た。犬は場所と状況をくっつけて考える。トレーニングを始めた当初、ベイリーは混乱しているようだった。そこは夫、またはトレーナーと走る場所だったので、私に鳥を持って来させるのに一苦労だった。私に鳥を持ってこなければいけないのはわかってる。でも自分の好きなように鳥を探したい、でも私の指示に従って私を喜ばせたい、その葛藤を見た。トレーニングを重ねると、私の指示に従うと、ちゃんと鳥が見つけられると学習と経験を重ね、お互いの信頼を積み重ねる。そのお互いの成長、学びの度合いを見るのが毎度楽しく、感動する。 

今のトレーニングでもっぱらの課題は、ベイリーに「このゲームを仕切ってるのは、この私よ(ちょっと高飛車調に)」とわからせること。鳥の探しもれがないように、くまなく走らせること。

4. 犬を読む
犬は少し前方を左右に走って鳥を探す。ハンドラーのコマンドは笛とハンドジェスチャーと声の3種類あり、笛とジェスチャーのコンビネーションを使うことが多い。笛の方が遠くまで聞こえる。コマンドは、はじめ、ターン、止まれ、戻れ、鳥拾ってこいその1(鳥がどこに落ちたか見ていたとき)、鳥拾ってこいその2(鳥が落ちたのを見ていないとき)もうちょっとこっち行け、などである。 

犬の動きと自分の歩く(小走りの)タイミングが合っていないといけない。私が遅いと犬も止まってしまう。ベイリーは弾丸のように走る。速く走っても鳥を見逃しては元も子もない。失格になる。

犬は鳥の匂いを見つけると、動きが変わる。夫はその時点で犬の表情が変わるというが、私はそれがわかるまで到達していない。明らかにそこに鳥がいるとわかったら、なるべく近づいて鳥が飛び立つのを待つ。

鳥が飛び立つと、犬は鳥を取ってこいと命じられるまではじっとしていないといけない。安全のためもある。笛を吹いて念を押す。優秀な犬はここで非常に冷静に待つ。ジンジャーはこれに非常に苦労した。ベイリーは今のところ、幼少教育がうまくいって、冷静にやってくれる。

鳥の回収に送ったら、果報は寝て待て、ではなく、ハンドラーはじっと待つ。私はつい気になって見に行こうとして、いつもトレーナーに首根っこをつかまれる(うそ)。「自分の犬を信じて」と言われる。トレーニングを重ねるに連れて、ベイリーはちゃんと見つけるとわかり、最近は遠くに行っても信頼して待てるようになってきた。毎回ドキドキするけれど。

犬によって、探し方もいろいろあるのだと他の犬と一緒にトレーニングをして学んだ。ベイリーはたいてい風下に大きく回ってから詰めて行く。ジンジャーは鼻がいいので、わりとストレートに探しに行っていた。 

5. コマンドは意図とともに
コマンドを言うときは、迷わず。例えば犬がマーキングしていない鳥を探しに行かせるとき、「ホンマに探してこれるんかいな」と思っていては、犬は行ってくれない。半信半疑でコマンドを言うと、たーりらーりらーんという不真面目な走りをされたこともある。犬は(少なくともベイリーは)コマンドの中にあるエネルギーを読んでいるのだと思う。私自身がちゃんと意図して「バック!」とハラから声を出し、腕をまっすぐ上げたとき、ベイリーもまっすぐ向かっていったのは驚いた。エネルギーは意図する方向に向かう、ということを身をもって体験した。

6. 犬を信じる、そして自分も
ベイリーが走り始めたら、ちゃんと鳥を探して持って帰ると信じる。見つけられるのか、探してこられるのか、と疑うのは犬に対して非常に失礼。犬を信じ、自分を信じる。実績を積む。そこに信頼関係が生まれる。犬の生まれ持った性質(鳥に興味を示す、鳥のにおいを嗅ぎ分ける、など)はとても重要だけれど、パーフェクトな人間がいないのと同様、犬にだって得意、不得意もある。そこはお互いさま。足りないものはトレーニングで強化し、犬にも能力とパフォーマンスに自信をもたせ、ハンドラー自身も安心し、信頼し、不得意はカバーし、お互いの絆を深めていく、んじゃないかと私は思う。

7. 間違いは早めに正す
間違いは未然に防げたら一番。「あ、暴走しそう」と思ったら、早めに笛を吹いて向きを変える。この一瞬の迷いのうちに、戻ってこれないところまで行ってしまう可能性がある。戻れる、戻れないの境界があるのか、一旦行ってしまったら、戻ってこさせるのは難しい。そして一回やっちまうと、習慣化する可能性がある。悪い習慣の芽は早めに摘みとる。

潔いハンドラーは、失格にならずとも、犬がコマンドに従わないなど、不本意な行動をした時点で自主的に撤退する人もいる。私は参加費やこれまでのトレーニング、それでも合格できたかもしれないことが「もったいない」と思ってしまう。彼らにすると、このまま先に進むと、犬が自分に従わなくてもOKと思う。それを後で修正する方が高くつく、らしい。もっともだ。

先週末、ベイリーとハントテストに参加した。今回は土曜日は私がハンドルし、日曜は夫がハンドルして両方合格できた。後1回合格したらシニアハンターの称号がもらえるが、残念ながらシーズン終了になり、来年まで持ち越しになった。

それでも、雪が降ってどうにもならなくなるまで、トレーニングは続くよいつまでも。




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