見出し画像

「例の漫画」はものづくりについて考えさせられた

「例の漫画」is 何


「てつなつ」さんが描いた、こちらの漫画がTwitterでバズりました。
https://note.com/tetsunatsu1/n/n54f75ce14195?magazine_key=m749b73586210

「例の漫画」という作品名ではなく「本間と脇坂」が正式タイトルですが、作中のとある登場人物の言動が物議となり、「現実世界にいたら迷惑だ」「自分はこんな人と仕事しない」という実際に依頼を受ける立場の読者からの反応が、Twitter上に多く寄せられました。

今回珍しいことに、作者に反対意見が殺到するなどの炎上ではなく、「もし、リテイク方針を示さずに突き返すような依頼が現実であったら?」という議題で、各々自分の意見を発信する流れが生まれました。

これらの反応は漫画投稿へのリプライではなく、「例の漫画」と暗にこの作品を指して感想ツイートを投稿するユーザが続出して、「例の漫画」でトレンドに載る事態に。

自分の率直な感想

・美大生アルバイトの変化、プロデューサ兼社長の思惑にフォーカスした心情描写が良かったです。反面、社長の人使いにはネガティブな印象を受けました。
・キャラの背景が丁寧に描写されていて、根性論とは違うメッセージが込められていると感じました。続きが読みたい!

Twitterの反応

・投稿のリプライ欄は肯定的な意見が多かったと思います。反対意見もありました。
・「例の漫画」とエゴサ対策っぽい感じで呟かれた感想では、各々の仕事論と対比して、嫌悪感を示す意見が多かった印象です。「例の漫画」で広まったことで、こちらの意見の方が、多くの人の目に留まる結果になりました。
・また、そんな「例の漫画の感想」への応酬のような感想もまた見受けられ、議論が繰り広げられています。
・意見の応酬を見て、自分も意見をまとめて発信したくなったため、今このエントリを書いています。

作品考察

ここからは、この作品について自分の考えを述べていきます。
※以降は、「例の漫画」を読んだ前提で話を進めます。

依頼主のカナメについて

1.「作品をより良いものに出来る」コアメンバーが欲しかった
カナメと同じプロデューサの立場から、メンバーに求める動きを考えてみます。

結末では、満足のいく製作物を納品してくれた美大生チヒロに、更なる追加依頼をするカナメ。彼女の技能的な素質はおそらくSNSで発見した時点で見抜いていたでしょう。

ただし、依頼通りのものを提出するだけでは満足しないカナメは、「全然ダメ」「普通すぎます」とシビアな評価を、さらには「私たちにはできないこと」を求めると言います。カナメの作りたいゲームは、一体どういうものなのでしょうか。

1.1.ゲームの特性
「ソシャゲは、自由にルールを定義して需要を生み出すことのできる市場だ。」と、昔ソシャゲのプロデューサーから伺ったことがあります。これは、ビジネス視点から見たソーシャルゲームの特性ですが、「感動を与えたい」「楽しんで貰いたい」とエモーショナルな体験を自由に作れる媒体であることは、ゲーム全体に当てはまると思います。

カナメたちのゲーム製作もまた、「情景の浮かぶ音楽」「こんなデザイン私たちでは絶対出ませんよ」という台詞から、エモーショナルな体験を構成する要素である「世界観」に拘りが大きいことが読み取れます。

1.2.世界観を突き詰める人材
では、そんなエモーショナルな要素を込めたゲームを作るにはどんな製作体制を取るのが良いのでしょうか。そのためには前提として、誰かがエモーショナルな要素を「定義」し、それを誰かが「製作」する必要があります。

依頼する側は、求める製作物が納品されるために、必要要件を発注先と握っておくのが一般的かと思います。しかし、具体的な指示書を書けるということは、依頼する側の頭の中で独創性が担保されていて、あとは「指示書通りに製作できる技能」を持つ相手に然るべき報酬を払うだけの状態であり、極端な言葉遣いをすると「腕の確かな作業員を探すだけ」の状態です。

今回カナメが拘っているのは「自分たちにない独創性」であり、最後にはチヒロが期待に応える形で幕を閉じました。その要求は依頼書に明示されなかったもので、カナメがエモーショナルな要素の「定義」から依頼内容に含めておけば、チヒロは独創性を活かした仕事が出来たかもしれません。(作中でミノリが評したように、チヒロは元より「独創性」を備えた人物でした。)

1.3.自主性の獲得
さて、ここまで書いてきて、だんだん私はカナメのことが好きになってきました。自分の頭の中で、各メンバーが自主性を持つことがどれだけ創作活動に良い影響を与えるかが整理されてきたからです。

カナメは音楽担当のミノリが自主的に学んだり、行動したりする姿に逐一エールを送っています。「独創性を自ら磨いていく姿勢」も見ていることが分かります。反対に、チヒロは「何でも書ける」と相手の望むものを出せるという自信と裏腹に、「普段は図書室で紙の資料の調べ物をしていなかった」描写にもある通り、世界観に対しての独創性はそこまで突き詰めていなかったことが伺えます。その結果、初稿ではカナメの想定内の作品を出してしまいました。

今回、チヒロに依頼したのはお仕事の外注ですが、カナメは会社のコアメンバー探しをしていました。カナメは「個人で到達できることへの限界」を認識していて、1人が全ての要件定義をしてそれを作るだけでは、より良いゲームを作れないと考えています。

つまり、たとえこれが有能プロデューサーからの依頼であっても、「独創性の追求」のためには各メンバーが自主的に模索・行動すべきとの立場を取っているのです。

1.4.仲間選び
カナメはプロデューサーとして、また社長としての立場から、指示した内容に対して「自分たちが望むよりも、より良いもの」を提示してくれる仲間になり得るかどうか見極めていて、彼女なりの真剣な姿勢で創作活動に向き合っているキャラだと自分は解釈しました。

2.チヒロの扱いには狡猾さがあった

チヒロへの扱いには、狡猾さが見え隠れしました。カナメは、チヒロがシビアな意見に耐えられることを見越して、具体的な指摘を避けて批判をすることで、チヒロの自主性の獲得を促しました。カナメが取ったこのやり方には、以下の意図を感じました。
・チヒロのまだ見えない素質を強引に引き出す
・ムキにさせて本気にさせる
・資金に限りがあるため手っ取り早く見極める

2.1.乱暴な素質の見極め
日当を出すなど必要な待遇は提示していたカナメですが、素質を見極める方法はもう少し段階を経る形が良いと自分は考えてしまいます。相手に故意に不快感を植えつけて、それによって生じる様々な影響への責任は日当だけで伴っていないと感じます。

日雇いアルバイトという雇用形態でコアメンバー選別をしているので、ゴールラインがずれている状況だったとも思います。もし現実世界で雇用する時は、きちんと「自主的な独創性の追求」を求めていることを摺り合わせて、業務してもらうべきだと思います。(とはいえ、創作としては楽しく読ませていただきました)

報酬額は妥当か

他には、学生で無名であることを利用して、依頼料を安く抑えている描写がありました。これに関しては、完成度・知名度の両方が製作物の価値に作用するため、報酬額に反映されているのは妥当だと思いました。でも、いざ仲間に迎え入れる体制に入れば厚遇をして引き込んでいるのは恐ろしかったです。人心掌握!

終わりに

以上が「例の漫画」もとい「本間と脇坂」の第2話を読んだ感想・考察でした。

自分も「例の漫画」のトレンド入りを見てこの漫画に触れた1人ですが、自分と照らし合わせて考えさせられるやり取りが沢山あり、とても面白く読ませていただきました。

続きが見たいので、これから「本間と脇坂」を応援していきたいと思います。

エントリを最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?