さすらいの診療放射線技師 3
こんにちは、少し久しぶりになりました。
3回目の投稿です。
今回はちょっと診療放射線技師らしい機器のお話。
相当いにしえの話になりますので、まぁ、びっくりして下さい(笑)。
題して「TCT-60A」。何だそりゃ…(笑)。
あなたはCT検査を受けたことがありますか?
私は現在CTではなく、MRIを持っているクリニックに勤務しているので、自身はCT検査をしていないのですが、MRIを撮像しているため、患者さんに話を聞くと、CTとMRIの区別がついていない方がかなりいらっしゃいます。
ええとですね、どっちも身体の断面を撮像する検査なので、画像を見る限り、どっちがどっちか区別がつくのは、医療関係者の中でもちょっと限られるかなと思います。
検査を受ける側としては、あんまりうるさくないのがCT、すっごくうるさいのがMRIです(笑)。おお、わかりやすい!
これを書くと、診療放射線技師の方なら、私の実年齢がかなり正確にわかると思います(笑)。まぁ、いいか。いまさらだ。
私が学生の頃、実習に行っていた大学病院では、まだ「頭部専門」のCTが現役で動いていました。頭しか撮れない。頭が入る分の穴しかない。第2世代ってやつだと思います。さすがに第1世代ではないだろう…。ちなみに今のマルチスライスCTは第4世代になるのかな?
現在主流…ってか、それしかないんですが、ホールボディという全身が撮れるCTが普及し始めた頃でした。
そして、初めて就職した病院で、私は「TCT-60A」と出会いました。
「TCT-60A」は、X線CT装置の型式です。
今はなき(現在はキヤノンに売却になっています)東芝メディカル社製のホールボディCTで、第3世代の代表的な装置です。ノーマルで1スキャン9秒。2.7秒のモードもありましたが、これを使うとすぐにX線管が熱くなってしまい、次のスキャンまでに冷却のためのウエイトタイムが入るため、連続スキャンができなくなってしまいますし、何より画質が落ちる。
若い技師さんたちには信じられないと思います。1枚スキャンするために9秒かかるんです。今はもっと短い時間で全身撮れちゃいますから。
以前、医学雑誌「Rad Fan」に寄稿させていただいた時、「意思の見える撮影をしてください」と言ったのは、こういった経験をしているからです。1スキャンの大切さ、価値というものを、ババァ(笑)技師は痛いほどに知っています。身体構造を知り尽くし、身体のどの位置をどのくらいの厚さで、どのくらいの間隔で切っていけば、目的の臓器に当たるか…それをしっかり想定してから検査に当たらないと、患者さんに無駄に長時間の検査を強いることになってしまうのです。当時は「膵臓ターゲット」とか、中には「副腎ターゲット」というとんでもないオーダーもありました。もちろんスクリーニングもやっていましたが、それも目的の臓器をスキャンし終わったら、プランをクリアして、検査を終えていました。
無駄に時間を使わない。無駄に被爆させない。
当時、私の勤務先には造影剤のインジェクターがなかったので、造影はすべて点滴。ボーラス・インジェクションと呼ぶ、急速注入の造影検査は土曜日にまとめて、ドクターがついてくれて、やっていました。
そのうち、ここでも書こうと思いますが、私はこの病院に勤務していた2年間、当時の上司から指導を受けることができなかったため、一般撮影以外の造影検査は、すべてドクターから教えてもらいました。私にCTの基礎を教えてくれたのも、この時の造影をやってくれていたT先生でした。T先生はおっとり穏やかな消化器内科医で、スタッフからの人気が絶大。バレンタインになると、医局のメールボックスが壊れるくらいのチョコレートをかき集め、ホワイトデーには段ボール箱でお返しを配って歩くという方でした。しかし、このT先生、おっとりしすぎているというか…なかなかのクラッシャーでした(笑)。とにかくいろいろなものをぶっ壊す方で(笑)、実はCTのウォーミングアップに使う水ファントームもぶっ壊されました。
「落としちゃった…テヘペロ」
とても優しい人格者なので、誰も怒れない…(笑)。のどかな時代でした。
さて「TCT-60A」の話に戻りましょう。
ちょっと年配の診療放射線技師なら「日立派」「東芝派」って、何となくわかってくださるかしら?
X線機器というと、この2社が最大手で(今はどちらも存在していません。東芝メディカルはキヤノンに、日立メディコは富士フイルムに売却されました)、日立の機械が好きな技師と東芝の機械が好きな技師がいたんですね。私の印象ですが、日立の機械は癖があまりなく、東芝の機械は一癖あるという感じ。以前、検診会社にいた時は日立と東芝の機械では、透視装置のフットスイッチの位置が左右逆なので、普段日立の機械が積んであるバスに乗っている技師は東芝の機械のバスに乗るのを嫌がる傾向がありました。…私は自分の担当バスを持たないフリーだったので、どっちも乗っていましたが(笑)。同じ日に日立のバスで検診した後、東芝のバスに乗り換えたこともありました(笑)。
また話がどこかに行きました。
東芝の「TCT-60A」は、間違いなく名機だったと思います。確かに今のマルチスライスに比べれば、スキャン時間はやたら長いし、ウォーミングアップにも時間がかかるし…。でも、シンプルな操作性や9秒スキャンでの画像のきれいさ、何より頑丈で故障知らずのとても優秀な機械でした。
私の個人的な印象として、東芝のX線管はとても優秀だと思います。機械の当たり外れはあるかと思いますが、初期不良がとても少ない感じがします。
デザイン性、使い勝手の良さは日立に軍配が上がるかな。
私は「TCT-60A」に、技師として育ててもらったと思っています。
初めて技師としてCTを撮ったのも、死亡診断のためのCTを撮ったのも、すべて「TCT-60A」でした。
装置の型式など覚えない私なのですが、この番号だけはたぶん一生忘れません。
私の最初の相棒でした。