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さすらいの診療放射線技師 4

久しぶりの更新になりました。
今回は「私が忘れられない三つの言葉」のお話。
この仕事をやっていて聞いた「忘れられない衝撃の一言」です。
不謹慎な話もあったりするのですが、すべてノンフィクションです。
では、どうぞ

『大丈夫。死んでるから』
これは私が最初に勤務した病院での出来事。
お花見日和の日曜日、私はポケベルで呼び出されて、病院に到着しました。
「頭のCTだから」
そう言われ、CT室に入った私は、すでに寝台に患者さんが乗せられていることに驚きます。
「いや、これからウォーミングアップしないと…」
CTの電源を入れてから、機器のウォーミングアップのためにX線を出す必要があり、そこに患者さんがいては無駄な被爆をしてしまいます。そう言った私に担当医が言ったセリフが冒頭のもの。
いやいやいやいやっ! 何を言っているんだ、君はっ! 全然大丈夫じゃないっ!
…これが私が経験した最初のAI(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)でした。
患者さんは六十代の女性で、お花見中に突然昏倒し、救急搬入時にはすでに心肺停止、瞳孔散大。ほぼ即死に近い状態で、死因不明のため、CT検査を行うことになり、私が呼び出されたのでした。
こうした突然死の場合、まずは脳、次に心臓の異常を疑います(この順は逆かもしれません)。
この患者さんは、頭部CTを撮った所、くも膜下出血と診断されました。大きな動脈瘤があり、その破裂によって、急死されたものと思われます。
この後、何度かこうした現場に立ち会いましたが、やはり、冒頭のセリフの衝撃は一生ものであり、また、二度と聞きたくないセリフでもあります。

『息止めてあるから、ゆっくりやっていいよー』
これは、私が小説の仕事の上で、常にモデルにしているある麻酔科医のセリフです。
私が当時勤務していた病院には、常勤の麻酔科医がいなかったため、大きな手術の時には、大学から麻酔の先生に来てもらっていました。その日の手術は胆嚢摘出術で、術中胆道造影の予定が入っていました。手術室での仕事が多かった私は、ポータブルを押して入室し、カセッテをセッティングして、撮影のタイミングを待っていました。その私に向かって、冒頭のセリフをクールに淡々と言ったのが、その日の麻酔科医。
レントゲンを撮る=息を止める は、まぁ、当たり前の知識としてありますよね。デジタルになってからは、撮影時間が劇的に短くなっているので、必ずしも呼吸停止をしない場合もありますが、まぁ「息を止めてー」はレントゲンの不動のイメージでしょう。
さて、麻酔の先生には2タイプあって、術野をのぞいたりして、アクティヴに動くタイプと患者の頭の方に座って、淡々とモニターと患者の様子を観察し、コントロールするタイプがあるように思います。この時の先生は後者のタイプで、ジョークなど言いそうにないクールな印象の先生だったので、このセリフにはかなり驚き(一応言っときますが、これはジョークでございます(笑))、以後、麻酔科医を小説で書く時には、この先生のイメージが常にあります。

『ヘリを待たせていますので』
これは、今勤務しているクリニックに患者を搬送していらしたフライトドクターのセリフです。
このエピソードは、文庫のあとがきにも書いているので、知っている方もいると思います。
ドクターヘリが呼ばれても、必ずしも患者を乗せるわけではありません。ドクターヘリは病院からかなり離れた所まで飛ぶので、場合によっては、患者の自宅などから遠い所に搬送することになってしまい、入院にならなかった場合など、帰宅するのに大変な思いをしてしまうことにもなりかねません。ですので、フライトドクターの判断で、近隣の医療機関に救急車で搬送する場合があります。この時は、サイドブレーキが甘かったために、坂道で動き出してしまったトラックとブロック塀の間に挟まれてしまった女性の患者が、当院に搬送され、フライトドクターが救急車に同乗されてきました。幸いなことに患者は大きなけがもなかったため、一応、レントゲンを撮って骨折の有無を確認して、自宅での安静、療養となりました。患者の状態を申し送り、無事を確認してから、「それでは」と言ったフライトドクター(この時初めて、間近でフライトスーツを見ました(笑))に思わず「どうやってお帰りになるのですか?」と聞いてしまいました。救急車はまだいたのですが(場合によっては、もう一度ヘリに乗せて搬送する可能性もあったため)、フライトドクターが所属する大学病院までは、車で1時間はかかります。そこまで救急車で送ることはあり得ないしなーと、興味で聞いてみた所、三十代とおぼしき若きフライトドクターから爽やかに返ってきた答えが冒頭のもの。これほどかっこいいセリフは小説でも書けません(笑)。いつか、書いてみたいですね。

さて、私が聞いてきた衝撃的な三つのセリフ。いかがでしたでしょうか?
このセリフを聞いた場所がすべて違うあたりが『さすらいの診療放射線技師』の面目躍如たるところです(笑)。
他にも、いろいろと「嘘だろ…」というエピソードがてんこ盛りにありますので、それは追々に。
それでは、今回はこの辺で。