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LiveRevolt Coda/EP:Z
春、新しい風を運んでくる季節──
それは物語の主人公だけではない。
皆平等に新たな環境、新たなステージ、新たな出会いにめぐり合っている。
そう私にもそういうタイミングってのはあるのだ──
「マリンちゃん、またこんなに部屋散らかして…… 来週にはヨコハマにお引越しなのよ?」
この声の主は私じゃない。
私の同居人、紫咲クリス──
かれこれ5年の付き合いで幼馴染だ。
この春、私、瀬戸マリンもクリスも高校生というわけで、ヨコハマの音楽学校へ進学することとなったのだ。
今はその荷造り期間というわけだ。
「こ、これくらいすぐ片付くわよ!」
私は売り言葉に買い言葉だったが、クリスの言う通りだ。
私の部屋は足の踏み場もないほどにレコードやギター、脱ぎ捨てた着替えで散乱していた。
「全く、作曲は丁寧なのにこう言うところだけズボラというか……私も手伝うからやっつけちゃいましょ」
そう言うとクリスは手当たり次第に物を拾い上げ整理し始めた。
「いいって言ってんのに……」
私は知らぬふりをしつつ今まで手をつけていた作曲作業へと戻った。
「もうマリンちゃん!」
すぐに私の作業は唐突なクリスの叫びで中断された。
「こんなに手紙溜め込んで!一個も開けてないじゃない!」
クリスが抱えていたのは大量のエアメール。
私はそれは“開け忘れていた”わけではなかった。
「あっ──」
「もう、ファンからのメールくらいちゃんと読んで……」
「あれ、これ全部送り主一緒だわ……A.ZETO……ZETO……?」
「……」
黙ってても仕方ないか。
後ろめたい事なんてなんもない。
「……アタシのママよ」
クリスは目を丸くした。
「……お義母様!?」
「おい、今台詞おかしいだろ!」
「マリンちゃんお母さんいたの!?」
「アタシゃアメーバかサイボーグかなんかか!?」
「──でも、ならなおさらなんで開けないのよ」
「……」
クリスは不思議そうな顔をして無言でエアメールの一通を開け始めた。
「ちょちょ!何勝手に開けてんのよ!」
「マリンちゃんが見たくなかったら見なければいいじゃない」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
「──わかったわよ、開ければいいんでしょ」
どうにも折れなさそうだと、私はクリスから手紙を取り上げるとその一通を破き開けた。
すると中からはこのデジタル化された時代に似つかわしくない便箋と、一枚の写真が出てきた。
写真にはママと、小さな女の子たちが写っていた。
「あらかわいい、お母様も若いわね」
「この子達は?」
「妹── 多分」
「妹いたの!?」
「いちゃ悪いか!」
「マリンちゃんのお母様って……」
写真の何かに気づいたのかクリスは写真から私に目を写した。
「そうよ、三年前ワールドボードランクで史上初の全ジャンルランキング一位の──」
「“Z”」
「そんなに凄い人の娘だったのね」
「──凄いか、まぁ、そうね凄いわね」
「メインジャンルのクラシックだけじゃない、それを取り入れたJAZZ、HIPHOP、EDM、POPS……なんでも出来るしね、超人よ超人」
「私も尊敬してるわ、目標でもある、優しいママだったし──」
「仕送りも送ってくれてるしね」
「いいお母様ね」
「そう、ただね──」
軽蔑もしてるわ。
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