エンジニアからみた「僕らはそれに抵抗できない」 その2

この記事は、岩手県立大学 Advent Calendar 2019の21日目の記事です。

2019年に読んだ本をソフトウェアエンジニア目線で語るシリーズ第3段その2です。

引き続き、アダム・オルター,  "僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた"(2019)を読んで気になった部分を引用とコメントとともに紹介します。

その2では、第二部で説明されている6つの中毒をエンジニアにとって身近な例とともに紹介します。

1. 目標

人に行動を促したいなら、太刀打ちできない大きな目標ではなく、具体的でチャレンジしやすい小さな目標を与えるほうが有効なのだ

できそうでできない、そんな状態が一番ハマるということです。

身近な例は、会社ですね。会社ではなにかの目標を課される場合が多いです。社員は目標に向かって日々働きますね。優れた目標設定者は、部下にとって適切な目標を設定することで、業務に対するモチベーションを保ちます。心当たりあるのではないでしょうか。

そういえば、僕がアドベントカレンダーの空きを埋めるのも「目標」の一種なのかもしれませんね。スタンプラリーのようになにか枠組みがあるとすべて達成したくなるので、コンプリート欲求が強いことは薄々自覚しています。。。

2. フィードバック

この本のいう「フィードバック」は、自分のしたことに対する反応がある仕掛けのことです。例えば、SNSの「いいね」ボタンは、タップしたあとにアニメーションとともに色がついたりしますね。このように、自分のしたことに対して何らかの変化があると、人は快感を感じるそうです。

身近なSNSの「いいね」を押してしまうのは投稿がいいという意味以外にも、「いいね」ボタンを押すこと自体にも快感を感じる面があるからのようです。そのほかにも、クッキークリッカーなんかが身近な例ではないでしょうか。

3. 進歩の実感

自分で学んでいるという感覚があることは中毒をもたらすそうです。

例えば、よいゲームは説明書を読まずともはじめの数分でルールや操作方法が直感的にわかるようになっています。これはユーザーは自分で学んでいると感じるが、制作者が検討に検討を重ねて「ユーザーに遊び方を教える」ように制作されています。

もしかすると、学校での優れた教育者というのは、教育される側に「教育してるぞ!」というスタンスではなくて、「自分で学んでいる」という感覚を出せる人が多いのかもしれません。

オークションもシンプルな仕組みで誰でもすぐに参加できます。ここに「損失回避」の心理を加えて悪用したのがペニーオークションであると紹介されています。ペニーオークションは、入札権という権利を先に買い、入札する度に権利を使います。(= 入札にお金がかかる)。

ペニーオークションでは、開始時には商品は極めて安価な状態になっています。例えば、最新パソコンが1円というように。参加者は権利をどんどん行使していき、結局市場価格まであがっていきます。

ペニーオークションが悪と呼ばれる理由はここからです。なんと、市場価格よりも高い入札が発生します。なぜならば、すでに入札権を支払っている参加者は「これまでかけたお金を損したくない」という心理になるためです。

ペニーオークションは違法だが、パチンコや課金ゲームとの境界は極めてあいまいです。提供者の倫理観にかかっているといっても過言でないです。マリオやポケモンを生み出したひとりである任天堂の宮本は次のように述べています。

「売れるもの、人気になるものを作ろうとするのではなく、好きにになるために作るんです。クリエイターである我々自身が愛せるものを作るんです。それがゲーム作りの根幹であるべきだと思っています。」

サービスを作るエンジニアとして、大事な倫理観ですね。

4. 難易度のエスカレート

私たちはある面では楽な人生を探しているはずなのに、おだやかな心地よさが一定時間続くと、それを適量の苦痛で打ち破りたいと考える人が多いのである。

これを体現する一番の例は「テトリス」です。はじめは簡単でうsが、徐々に徐々に難しくなり、気づけば中毒になっています。

ヴィゴツキーの説によると、子どもは、現時点の自分の能力より少しだけ先の素材を学んでいるとき、もっともよく学び、もっとも強いモチベーションを抱く。教室で言うならば、教師が生徒に対して越えるべき明確なハードルを示し、なおかつ、それが既存の能力に対して過酷すぎないようにするのが効果的というわけだ。ヴィゴツキーは、この一番いい状態を「最近接発達領域(ZPD)」と呼び、シンプルな図で解説している。

エンジニアにとっては、「フロー状態」という言葉のほうがよく耳にするかもしれないですね。この本でもフロー状態について扱っていました。ゲーム業界では、「ルディック・ループ」ともいうそうです。

過労死事件の共通点は、犠牲者が過剰に長い時間を労働に捧げてしまっていることだ。たいていは成功したキャリアを築いており、収入も多い。生活費を稼ぐために長時間労働せざるを得ないわけではないのに、様々な理由で働くことをやめられなくなっている。

労働も中毒性があります。その先にあるのは生活の崩壊や過労死です。ワーカホリックという言葉があるように、現代社会を生きるうえで気をつけなければなりません。

5. クリフハンガー

映画やドラマをみていたら、ラストがわからないまま終えてしまうことはあるのではないでしょうか?これをクリフハンガーといいます。(バスが崖[クリフ]に引っかかって落ちる寸前で映画が終わる「ミニミニ大作戦」からとのこと。)

ドラマやネットフリックスのような動画サービスではこの効果を巧みに利用しています。どの物語も結末が中途半端に終わり、次回をみたくなるようになります。あと1話だけ、もう1話だけ、、、とついみてしまうことを「ビンジウォッチング」というようです。

人間は完了した体験よりも、完了していない体験のほうに、強く心を奪われる。これが「ツァイガルニク効果」と呼ばれる現象だ。

この現象からソフトウェアエンジニア目線で思うことがひとつあります。開発issueは1つずつ片付けたほうがよいです。仕掛かりの実装をあちこちやるのは多くのところに心を奪われてしまい、気が休まらないうえに、仕事中毒になりやすいです。昨今普及してきた副業も同じ問題を抱えているのではないでしょうか。

6. ソーシャルインタラクション

誰でも多少は、他人にどう思われているか気にせずにはいられない。しかもフィードバックのタイミングや内容がランダムだと、もう気になって仕方なくなる。インスタグラムは、まさにそうしたランダムなフィードバックの泉だ。

SNSをしたことがあるかたなら誰でもわかることですね。ある投稿は、100いいねを達成したかと思えば、別の投稿は3いいねしかつかない、ということが往々にして起こりますね。もし、あまり評価を得られない投稿があると、もっと評価が欲しくなり投稿をしてしまいます。また投稿後もいいねやコメントなどのソーシャルな要素が気になってしかたがなくなります。

おわりに

いかに自分たちの身の回りにある「ハマる」ものがあるかがわかりますね。

この本では中毒が悪とされる表現が多いですが、より大きい視点でみると、なにかにハマること自体は悪ではないと思います。限られた時間をどこに捧げるかは個々人が自由に決定できるべきです。

しかし、自分が自覚なく「ハマる」という状態はよくないです。ハマっていることを自覚し、自分の求めたことに時間を費やしているかが大事だと思います。この本では、中毒・依存状態に気づくために必要な知識を読者に提供しています。

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