2023年に読んでよかった本4選

今年は50冊くらい読んだみたいです。例年は70〜80冊くらいだったので、少なめです。要因は、夏頃からランニングにハマったことや、長女が小学生になって宿題をみたりと、読書の時間が減ったことな気がします。

というわけで、今年読んだ本のなかからよかった本を4つピックアップしました。

(内容や解釈が間違っていたら指摘してください。)

離脱・発言・忠誠

A.O. ハーシュマンら(2005) ※ 原著は1970年著

会社のような集団で活動していれば、納得のいかないこともありますよね?

そのようなときに人は、しばらくは我慢をしたり、上司や経営陣に提言をしますが、いずれ「ちくしょう、転職だ!」となります。

こういった人と組織との関係におけるメカニズムを記したのがこの本です。組織に何らかの不満があれば、まずは「発言(Voice)」をするのですが、どこかで愛想をつかして「離脱(Exit)」となります。その閾値は、「忠誠」(≒ 愛着)によるそうです。離脱は経済的行動であり、発言は政治的行動のようです。

僕ははじめて知りましたが、わりと有名な本・理論のようなのでネットにもたくさん情報が落ちています。興味を持ったら、ぜひぐぐってみてください。

教養のグローバル・ヒストリー

北村 厚 著(2018)

世界の人々は国家などなくとも経済的な貿易によってずっとつながっており、地域間の交流によって、教科書で学んだ歴史のイベントを引き起こしているということがわかりました。

日本史、ヨーロッパ史といった各地の歴史だけを切り取ってみると、昔は地域間の交流が少なく、地域内の影響だけで出来事が起こったかのように思ってしまいますが、実際はそんなことはなく、有史以前から多かれ少なかれ人の交流はあり、地球規模で各地が相互に影響を与え合って歴史がつくられた、という視点が得られました。

旅行の世界史

森貴史(2023)

旅行というものが娯楽になったはごく最近です。はじめは旅を通じて修行をする、あるいは宗教的巡礼が中心でした。その後、商業の発展とともに、貿易のための旅や、新しい道や資源をみつけることを目的とした旅が増えました。

さらに時代を下ると、道や航路の整備と交通手段の発達によって、より旅行が安全なものになりました。そうすると、諸国の王や貴族やその子息が研修旅行的に近くを短期滞在して回るようになりました。その後、一般人向けツアーが提供されるようになり、現代の娯楽的性質の強い旅行が一般的になっていきます。

一応、僕は旅行系サービスに関わっていることや、大学院では旅行×情報領域を対象としていたこともあり、事前知識はある程度あったのですが、有史以来の「旅行」の歴史を、これほどまで網羅的かつ読みやすくまとめられている本はみかけたことがないので、興味がある方にはおすすめです。

旅行メディアを運営している側とすれば「自分の成長を記した記録がまた、読者を旅にいざなっていく」という文章がよかったですね。多くの旅行者の経験を集めて、次の旅行者に役立てられるエコシステムをつくっていきたいです。

能力はどのように遺伝するのか?

安藤寿康(2023)

双子を対象とした研究に基づいて、 能力やパーソナリティなどがどのように遺伝するのかという観点で、明らかになった知見をまとめています。一卵性双子と二卵性双子との差をみることで、遺伝的なものなのか、育てられた環境によるものなのかを統計的に導くという研究領域のようです。

著者は、「遺伝子の支配を超えて、自由意志によっていかようにもなるというのは神話」といっており、人の心や行動には、生まれ持った遺伝の影響があるということ述べています。研究によれば、見た目や体格だけでなく性格や知能(IQ)、精神的な病気の傾向など心の面でも、環境ではなく遺伝による影響があることを説明できつつあるそうです。いくつかの遺伝子をみることで将来の学歴や所得まで説明できるようになっているとか。

こういった事実に対して、「優生思想につながる」として見て見ぬ振りするのではなく、遺伝的な差があることを前提とした公平な社会をつくりあげていくべきだと主張しています。

ぼくも、子どもや子どもの友達をみていると、それぞれの特徴は違うように思います。もしそれが遺伝的要素によるものであると言えるならば、人それぞれにあった教育や環境というものを、遺伝的要素も含めて検討していったほうがよいと考えますね。

著者の安藤氏は、別の本で「個々の遺伝的素質が自然に発揮されて多幸感を得ていることが遺伝学的な視点での理想的な社会」と述べており、そのとおりだなと感じるところです。(橘玲, 安藤寿康, 運は遺伝する, 2023)

加えて、この本のなかでは「遺伝的素質を発揮できる場所に移動しろ」という旨のことを述べています。理想の社会では、引っ越しや転職のような「環境を変える」という機会が十分にあり、そのコストも低いことが大事だと思いますね。

おまけ

本当は、5つにしようと思っていたのですが、力尽きて4つになってしまいました。というのも、もう1つ選ぶのが難しかったのです。せっかくなので最後にノミネートされた作品を列挙します。

経済活動を活発化するために、給与所得者でもフリーランスと同様に青色申告を認めて、子育て費用や家族旅行など多くのものの経費化を認めようという提案はおもしろいなと思いました。

新無神論者と呼ばれる宗教の害悪を主張する人たちは興味深かったです。宗教や信仰は政治に影響を与える(例: 中絶の禁止)ことがあるが、そういったことは科学を中心としたエビデンスベースで決められるべきであり、それを妨げる宗教や信仰をそのものを否定する、という意見は一理あると思います。

国家は、1. 暴力の統制、2. 情報の統制、3. カリスマ性の3つが揃ったときに生まれ、現代でいう「権利」「官僚」「指導者」に当たるそうだ。また 1. 移動する自由、2. 命令に従わない自由、3. 社会的関係(付き合う相手)を再編成する自由、の3つが統制されるまでは、国家の力は弱く、嫌ならばすぐ逃げられたので原始時代に大きな国家は生まれにくかったらしい。また、現代国家では選挙が当たり前に受け入れられているが、くじ引きやローテーションも平等的では?というのを実際にコミュニティの例とともに指摘しているのもおもしろい。

AI ・人工知能、あるいは計算機科学の要素をふんだんに含めたSF小説。普段、小説は読まない(というか途中で飽きて読めない)のですが、身近なネタが多く、おもしろかった。

マウンティング、嫉妬、劣等感、受験戦争などを題材にしたタワマン小説。
普段は小説は読まない(再掲)のですが、人間味溢れる内容でおもしろかった。一見するとうらやましい立場の人でも、それなりの悩みはあるのかなぁと感じてしまう内容でした。

進化論的な発想をもとに「適応度」というものを定義し、適応度が高いかどうかを常に管理して開発を進めていくスタイルが紹介されていた。

情報科学の世界から、政治と経済をよくしようという提案だった。Googleのページランクのようなネットワークに基づいて、一人が複数立候補者に1票を分配するような新しい選挙の在り方を示していた。また、その過程で既存の選挙制度による政治が、利権団体とその調整のための政治になってしまっていることを指摘していたのはわかりやすかった。

名字というものがいつ生まれ、どのようなものが名付けられているのかをまとめた一冊。天皇家と氏族とのパワーバランスを調整するひとつの要素だったというのは初耳。


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