マーケティング初心者向け・おすすめ書籍案内 第7弾 「ジョブ理論 クレイトン・M・クリステンセン 他著」


世界的な大ヒットとなったビジネス書「イノベーションのジレンマ」で「破壊的イノベーション」という言葉を世に送り出した本書の著者は、ビジネス研究の世界のスーパースターだった。惜しくも2020年1月23日に亡くなられている。私も「イノベーションのジレンマ」を読んだことがあるが、今回紹介する「ジョブ理論」の方が、ビジネスをする人間にとっては役立つ内容だった。より具体的に言えば、「イノベーションのジレンマ」は大企業向け、「ジョブ理論」は大企業だけでなくスタートアップ企業、自営業など、あらゆるビジネスに適用できる。それほど根本的な内容だった。

本の内容を説明する上では、私がどのように本の内容を自分のビジネスに置き換えて読んでいったかを追っていく。私のビジネスは簡単に言えば、「自分史作成サービス」だ。顧客となるのは75歳以上の高齢者。彼らに2時間ほどのインタビューを2回行い、自分史を代筆して、書籍にする(もちろん書店に並ぶわけではない。あくまで個人レベルで配布する自費出版だ)。価格帯は大体30万円〜50万円と言うところである。

では、内容を紹介していこう。

序章

マーケティングの世界では、顧客の属性が重視される。「40代・男性・既婚・子持ち・マンション住まい・自営業etc」……そんな人物はこんなサービスを求めている!というノリだ。しかし、本書では「そんなことは顧客が商品やサービスを購入する行為と関係がない」と、次のように切り捨てる。

「ある状況下で私がなぜその商品を選んだのかを企業がわかっていなければ、私についてのデータも、私に似た人たちのデータも、私について新しいイノベーションを生み出す時の役には立たない」

これについて本書では面白いたとえ話が使われている。

「アイスクリームの売り上げと森林火災は、どちらも夏に増える。両者に相関関係はあるが、因果関係はない」

相関関係を見て、私たちはそれが「因果関係」だと考えてしまいがちだ。しかし、それらは顧客が求める商品を開発するのには役立たないのだ。なぜなら、それは「顧客がその商品を買う理由ではないから」である。

ジョブ理論は、従来無視されてきた因果関係、すなわち「お客が商品を買う原因(理由・背景・状況)」を追求して、それに基づいて商品やサービスを作り出すべきだ、という理論だ。

ここで使われる質問は次の通り。

「どんなジョブ(用事、仕事)を片付けたくて、顧客はそのプロダクト(サービス)を雇用するのか?」

著者はこれまでのイノベーション(商品開発と言ってもいい)は、すべて運頼みだったと言う。だが、このジョブ理論という「顧客がプロダクト(サービス)を購入する因果関係のメカニズム」を踏まえたイノベーション(商品開発)を行うようにすれば、成功する確率は飛躍的に高まると主張する。

なお、本書は各章の章末にある原注も結構面白い。たとえば序章の原注にはこんな一節がある。

「かつてアメリカ空軍のシートは平均的なサイズで作られていた。しかし、パイロットたちからは不平が続出。調べた結果、平均的なサイズに合致するパイロットなど1人も存在しなかった。そこでアメリカ空軍は、『調整可能なシート』を生み出したのである」

ここからわかる教訓は、「平均的な人物は存在しない。平均に向かってイノベーションを進めることは、失敗する運命にある」ということだ。

第1章 ミルクシェイクのジレンマ

あなたが、あるファストフードチェーンの商品開発担当者で、ミルクシェイクを改良せよと言われたとしよう。普通に考えれば顧客アンケートを取り、容量を増やす? 味を調整する? 新しい材料を投入する? などの質問をして、その結果に即した改良を施すだろう。しかし、それは全く結果に繋がらない。必要なのは、まず、以下の問いの答えを見つけ出すことだった。

「顧客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを雇用させたのか?」

客は単にミルクシェイクを買っているのではなく、彼らの生活に発生した具体的なジョブを、ミルクシェイクを雇用(本書では購入、すなわち商品やサービスを顧客の人生に引き入れることを、このように表現する)して片付けているのだ。

実際にこの調査をした結果、顧客に人口統計学的な共通点はなかった(年齢、性別など)。

朝9時頃にミルクシェイクを購入する顧客に共通していたのは、彼らは皆、車を運転して通勤途中だったこと。その間、目を覚まさせておいてほしい。午前中の会議でお腹が空かないようにしたい。しかし運転中なので、バナナやドーナツでは食べにくい。こんな理由でミルクシェイクは多数の候補の中から選ばれ、雇用されていたのだ。

上記の事情から、ミルクシェイクに本当に求められていた改良は、「より飲みにくする(長時間、暇を潰せる)ために、もっと濃厚にする」ことだった。またフルーツやチョコレートを入れ、ストローで吸うたびにちょっとした驚きを与え、通勤時間を退屈させないことも良かっただろう。

一方、夕方にミルクシェイクを購入する顧客に共通していたのは、父親が子供に買ってあげる例が多かった。だから求められる改良は、「半分のサイズ」にして、夕食前に、さっと飲み終えられることだった。

ここからわかることは、ミルクシェイクが買われる理由は、時と場合によって異なるということだ。だから、「一つで全てを満たす万能の解決策は、結果的に何一つ満たさない」のだ。

このような物の見方・考え方を、著者は「顧客が片付けようとしているジョブ」というレンズで見る、と表現している。

このレンズを使うと、マーガリンの改良についても大きな知見が得られる。
顧客がマーガリンを使うとき、片付けているジョブは、実はパンを食べる時だけではない。フライパンが焦げ付かないようにすることもある。

私たちは自社商品に関する様々なデータ(売り上げ、経費、購入した顧客の属性)に注目するが、そのデータは商品が顧客のジョブをどんな風に解決しているかは教えてくれない。顧客満足度をいくら調べても、顧客のジョブをよりうまく片付ける方法の手がかりは得られない。

素晴らしいイノベーション(商品やサービスの開発)は、片付けるべきジョブの特定が行われていたはずであり、成功した企業はそのジョブを極めてうまく遂行できる商品やサービスを提供した、と著者は主張する。

このように「ジョブ」に注目することで、新しいイノベーションの成功の種はどこにあるか、どの方向性なのかを予測することができる。それがジョブ理論だ。

第2章 プロダクトではなくプログレス(進歩)

ジョブ理論とは、「相関と推測」をもとにイノベーションの答えを求めるのではなく、根本的な因果関係のメカニズムへと目を向けること。「ターゲット顧客の属性」に基づいて商品やサービスの開発・改良を行うのではなく、「ターゲット顧客の解決したいジョブ」に基づいて行うことである。

これは「雨乞いをすると雨が降る(偶然の相関関係)」という世界から、「雨が降るメカニズムに基づいて、雨を降らせる(科学的な因果関係)」という世界への飛躍に近いだろう。

*ここで少し脱線するが、欠陥や失敗、不良品が生まれるのは、避けられない偶然ではなく、プロセスの不具合だ。だから必ず原因を特定することができ、プロセスを改善することで欠陥や失敗、不良品を減らすことができる(自動車製造ラインの教訓)。

「ジョブの定義」
ある特定の状況で人が遂げようとする進歩。苦労や問題を伴わない場合もある。

「状況」
ジョブ理論の根幹。商品やサービスの購入は、顧客が置かれている状況に大きく左右される。商品やサービスの開発者は、顧客が置かれている状況を細かく見なければならない。その切り口には、「機能面」「社会的及び感情的な側面」がある。

「ジョブでないもの」
ジョブはニーズとは異なる。ニーズは漠然としている(例:私は飲み物を必要としている)。一方、ジョブは状況も含めた複雑な事情の背景で規定される。顧客がミルクシェイクを選ぶのは、機能面(のどの乾きを癒す)というニーズだけではく、社会的・感情的なニーズ(通勤中の退屈を紛らわす)もある。

従って、ジョブ理論で重点が置かれるのは、「誰が」「何を」ではない。「なぜ」である。ジョブを理解する際は、顧客を中心にした短編映画で、次の5つのポイントをイメージするのが良い。

1:その人が成し遂げようとしている進歩は何か
2:苦心している状況は何か
3:進歩を成し遂げるのを阻む障害物は何か
4:不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか
5:その人にとって、より良い解決策をもたらす品質の定義は何か。また、その解決策のために引き換えにしても良いと思う物は何か

大切なポイント「ジョブは作りだすものではなく、見つけだすもの」

<自分史のイノベーションで使いたいポイント>
顧客が片付けたいジョブを深く理解するほど、より良いイノベーションが生まれる。新しい技術がジョブの解決方法を向上させることは多いが、ジョブそのものの理解を深めることの方がより大切であり、解決策の方に夢中になるべきではない。このジョブの理解とは、消費者が進歩しようとするときに、何を最も気にかけるかを理解すること。このジョブ理論を用いれば、イノベーションにどのメリットが不可欠で、どの部分が余計なものかを評価できる。

<自分史市場についての示唆>
ジョブ理論のレンズを通すと、市場で同じカテゴリに括られているプロダクトだけに競争相手(マーケット)を限定する必要はない。
例:「ネットフリックス」の競争相手は、リラックスすることなら何でも。「ビデオゲーム」「ボードゲーム」「ワイン」

現在のビジネスは、顧客の片付けたいジョブを最もよく理解しているのはどの会社なのか、それを決めるレース(自分史業界では? 「夢をうる男」も参考になる)。ジョブを理解し、最良の解決策をもたらす者を目指そう。

第3章 埋もれているジョブ

平均的な顧客に対して商品やサービスを開発しても、誰にも刺さらない。
(例:働きながら大学に通う35歳と、高校から進学する18歳が大学に求めることは違う)

もっと重要で手強い競争相手は、無消費。現時点で、「自分史を作らない」ことを選択している人。他社で自分史を作ろうとしている人だけがターゲットではない。

問い合わせをしてきたとき、その人にとって機は熟している。購入を決断する瞬間に極めて近い。すぐに電話で連絡を取ろう。電話なら、相手の心配事を表に引き出せる。顧客がどのような問題に直面していても、その手助けができるよう、訓練を積んだカウンセラーが必要な情報を全て手元に揃えた上で電話する。

ジョブ理論に基づきやるべきことは、まずジョブを発見すること。次にそのジョブを解決する最高のプロセスを構築すること。そのためには、問い合わせから購入(自分史作成サービスなら、最初のインタビュー?)までのプロセスを紙に書き、点検すること。そして、顧客のジョブの機能的、社会的、感情的側面に着目しつつ、「自分史作成サービス わたしの物語」が放置している(乗り越える手助けをしていない)障害物を丸で囲う。そして障害物を消し、ジョブを完全に満たすような体験で置き換える。

本書で取り上げられている「通信教育課程を持つ大学」の場合、代表的な見直しは次の3つ。

・問い合わせには10分以内に折り返し電話
・奨学金(自分史なら料金)、過去に取得した単位の適用など、顧客が一番心配している内容について、可能な限りすぐに回答
・広告を見直した(機能面だけでなく、学位取得による誇りや愛する者への約束の成就など、感情的・社会的側面も重視した広告にした)→自分史の広告も、このやり方を参考にして見直す
・ジョブを満たすために、常に顧客に寄り添い、進行を確認し続ける担当者をつけた(自分史でも同じニーズはありそう。こまめにこちらから連絡を入れるなど)

「ジョブ」に注目することで、消費者がなぜその商品を購入したか、理由を明らかにする。満足に片付けられていなかったジョブをすくい取って解決すれば、素晴らしい商品・サービスになる。

顧客のジョブはさまざま。企業の研修担当者は、上司に研修の必要性を気づかせたいというジョブを持っていた。自分史も、顧客は周囲に自分史が必要であることを納得させる必要(ジョブ)がある?→例:子どもや孫が、親に自分史を作るよう説得する方法を教える必要がある?

顧客が求めるジョブを解決する体験を毎回提供できるプロセスを構築できれば、他社との大きな差別化になる(商品は真似できるが、プロセスに裏打ちされたサービス=体験は簡単に真似できない)

最高の商品を作ろうとするより、顧客が片付けようとしているジョブに注目しよう。顧客のジョブを見極めれば、「機能をつけすぎない」ことも必要になる。言い換えれば「顧客の苦労を自社で引き受ける」ことに集中する。

期待されたプロダクトが期待外れに終わるのは、真に片付けるべき顧客のジョブに関係のない部分の改善に注力するから。

不満足な解決策しか与えられていないジョブを見つけ出し、それをイノベーション(新商品・サービスの開発、改良)に結びつける。その際は、顧客の発見・購入・利用という一連の行為の全てで適切な体験ができるように、企業側はプロセスを構築・統合しなければならない。

*顧客は「属性」ではなく「ジョブ」でセグメンテーションするべき。そこには「無消費者」も含まれる(ここの可能性は大きい)。それぞれのセグメンテーションのジョブの解決するにあたり、一つのプロダクト(サービス)で全てのセグメントを満足させようと考えてはならない。

第4章 ジョブ・ハンティング

家を購入した顧客に人口統計学的、心理学的に共通した特徴は見られなかった(自分史も?)

顧客に「私たちは、あなたのことをわかっていますよ」と伝わるような体験をさせる。そのような商品・サービスを提供する。あなたがどんな風に進歩したいのか、そのために何に困っているのか、当社は理解しています、というような。

<ジョブのありか>
1:生活に身近なところ(自分の周囲、既存顧客や見込み顧客を観察する)
2:無消費と競争する(商品やサービスを購入していない人を観察する。たとえば、「自分史」を作らない人。その理由は自分史に対するネガティブなイメージ? それを払拭するには……)
3:間に合わせの対処策(販売されている商品・サービスがなく、自分なりの解決策で間に合わせている人たちを観察する)
4:顧客が、できれば避けたいと思っていることは何か?(例:薬は欲しいが、医者には行きたくない。自分史なら、自分史は作りたいが、自宅には来て欲しくない? 名前は出したくない?)
5:プロダクトの意外な使われ方(重曹はパンを焼く以外に、洗剤や脱臭剤として使われており、それを発見した企業はそれらを新商品として売り出し、ヒットさせた)

<ジョブのありかを探す上で注意!>
感情面に配慮せよ!
「間違ったターゲット」が買わないよう、「この商品はあなた向けではない」、ということも打ち出さなければならない。

<思いついたジョブ>
自分を魅力的に見せるプロフィール作りに困っている人がいるのでは?
→出会い系アプリの利用者、とか?

・「無消費者」のジョブを考える。「無消費者」が私のプロダクトを使うことを妨げている障害について考える。

第5章 顧客が言わないことを聞き取る

よく言われることだが、顧客は自分の要求を正確に表明できることは滅多にない。この章では、顧客の行動をストーリーとして見ることが勧められている。

マーケティングデータではわからないジョブがある(例:マーケティングリサーチの結果では、「7歳〜12歳の少女は人形遊びをしない」はずだった。→ところが、アメリカンドールは歳〜12歳の少女に大ヒット)

プロダクトを買う瞬間(ビッグハイア)とプロダクトを使う瞬間(リトルハイア)のどちらにも注目する必要がある。(ちゃんと使われているかどうかを調べなければ、プロダクトが顧客を満足させているかどうかはわからない)

当社の商品が雇用されるために必要なのは、何を解雇させることか。
例:時計を解雇→スマホを雇用、スポーツ専門チャンネル→スポーツ雑誌
自分史を雇用すると、解雇されるものとは?

顧客が新しいプロダクトを雇用する際、反対方向に働く二つの力がある。それぞれの二つの力は、さらに二つに分類できる。

1. 状況を押す力は「解決したい問題への不満の大きさ」「プロダクトやサービスの引き付ける力の大きさ」
2. 変化に反対する力は「現行の習慣への慣れ親しみ」「変わることへの不安(もし変えて失敗したり、今より酷くなったらどうしよう)」

新しいプロダクトを雇用してもらうためには、顧客の1を大きくするか、2を減らさなければならない。(例:顧客の「変わることへの不安」や「プロダクト採用への不安」を和らげる)そのために、ネット銀行は実店舗を設けたり、通信教育過程を持つ大学は実キャンパスを持っている。自費出版ビジネスをモデルにした小説、「夢をうる男」の舞台となる丸栄社は、立派な自社ビルと応接室をもち、美人の受付嬢を雇っている。

<重要な質問>
プロダクトを開発する上で、「十分に良いものか?」という質問には答えられないが、「この種の状況でこの種の進歩を遂げようとする顧客にとって十分に役立つか?」という質問には答えられる。

顧客のジョブの本質を掴むためには、ストーリーボードを作る。
「昔はどうだったか」「毎日どうなのか」「ある時どうなのか」「ああだったから、こうした」「こうだったから、ああした」「とうとう、私は……することにした」

例:エアービーアンドビーはサービスの立ち上げに先立ち、顧客(ホストとゲスト)の感情の動きを45種類のストーリーボードにして検討した。

このような検討に標本の数は多くなくても良い。物語を膨らませること、深く考えることが大事。インタビューやストーリーをカテゴライズする必要はない。顧客の意思決定プロセスを「初心者(業界に染まっていない素人?)のような気持ち」でたどり、顧客が苦労している場面の全体像を描いてみよう。重要なのは「なぜ、その時、買おうと思ったのか」ということと、「決断に導くきっかけとなったことを、時系列に並べる」ことである。

本書では、「マットレスをコストコで買った男」のインタビューが紹介されている。非常に長いインタビューだが、マットレス販売会社における新商品の開発や接客方法について、さまざまなヒントが隠されている。自分史についても、このような決断までの心の動きを描いたインタビューや、ストーリーボードを作ってみよう。そして、顧客にとって「理想的な体験」はどのようなものか、考えるのだ。

例:地元の引越し業社と組んで、古いマットレスを引き取る
例:地元の司法書士と組んで、遺言書を作る?

自分たちのプロダクト・サービスを雇用してもらうには、顧客の生活のストーリーを細かく理解し、顧客自身が言葉にして要求できるものよりはるかに優れた解決策をデザインする必要がある。

第6章 レジュメを書く

・明確に定義されたジョブに沿った体験を構築し、その体験を顧客に供給することを中心に企業を組織することは、他社との絶対的な差別化になる。

・ジョブに沿った体験は、細かいところを大事にする必要がある(例:高級な人形は包み紙を使う。自分史ならば?)

・ジョブをイノベーションにつなげるために、ジョブを発見したら、次にジョブスペックを作る必要がある。ジョブスペックとは、「顧客のジョブを適切に解決するための要件を定義した文書」である。

ジョブスペックには「機能的、感情的、社会的側面から見た顧客が求める進歩」「顧客が受け入れるトレードオフ」「打ち負かすべき競合」「乗り越えるべき障害物」が記述される。これがないと、イノベーションは始まらない。

本書ではジョブ理論に基づくイノベーションを3段階で説明している。

1:ジョブの特定
2:ジョブに求められる体験の構築
3:ジョブ中心の組織作り

(例:イケア=その日のうちに家具を揃えたい、というジョブを解決することに会社の全てを統合している。全てとは、買い物体験、店舗レイアウト、商品デザイン、包装や梱包方法などイケアのビジネスモデルそのもの)

本書で突然出てくる「先祖から続く家族の歴史を子どもに語り継ぎたい」というジョブ。このジョブに取り組む会社がアメリカにはあるのだろうか……?

この章ではさらに、顧客が望むジョブにおける障害を取り除く大切さが述べられる。ある医療機器メーカーが、インドで心臓の「ペースメーカー」を売るために必要だったのは、ペースメーカーの普及を阻むインドの諸事情を解決することだった。つまり、その障害によってペースメーカーを買わないことを選択する無消費者が大量にいたのだ。やるべきことはペースメーカーを改良して、他社のペースメーカーとスペック競争をすることではなく、その障害を顧客が乗り越える手助けをして、無消費者を自社の顧客にすることだった。→自分史を作る上でのさまざまな障害を乗り越える手助けをする人……自分史活用アドバイザー? どういう風に組み込めるか検討しよう。

顧客の片付けるべきジョブを解決するときに、プロダクトからもたらされる体験が、最も優れているものが選ばれる(例:タクシーとレンタカーとウーバー)。

自社製品を「購入するとき」だけでなく、「使用するとき」に、顧客はどのような体験を求めているのか?を考えねばならない(自分史では?)

ジョブを解決するのに最適なプロダクトであることを顧客に伝えるために、最も強力な手段は「利用者の声」(例:アマゾンのレビュー)良いレビューをもらい、悪いレビューをネットに書かれないように、企業は努力する必要がある。なお、悪いレビューは自社製品を雇用すべきでない人が、自社製品を雇用したときに起きる。自社製品を雇用すべきでないのはどういう状況か、消費者に伝達しなければならない。

自社製品がジョブと同義語になれば(これをパーパスブランドと呼ぶ)最強だ。広告も不要になる。
(例:ウーバー、ディズニー、グーグル=「ググれ」など)
→「自分史」と言えば「わたしの物語」にするには……

第7章 ジョブ中心の統合

企業(組織)が顧客のジョブに常にフォーカスしていくためには、プロセスを整えるのが最良の手法。

最良のプロセスを作るために、他社のベストプラクティスを借りたり真似たりして良い。それらを利用し、ジョブに最適な対応をすることに集中する。(常に顧客の片付けるべきジョブの解決を最重要視する)→厄介ごとを顧客から企業に移し、代わりに顧客には楽しく望ましい顧客体験と進歩を残す

ジョブ理論に基づき、顧客の片付けるべきジョブを完璧に解決するプロダクト(サービス)を組織が体系的に提供できるように、組織を形作る。評価指標もジョブの解決を最重要視する(例:アマゾンは注文品が「いつ出荷されたか」ではなく、「いつ顧客に届いたか」を重視している)常に問おう。自分たちの組織・プロセスは顧客が当社を雇用して片付けたいジョブの助けになっているか? 自社のサービス品質を評価する基準も、常にジョブ中心とする。(例:アマゾンは自社の最も重視すべきサービス品質を、同社を雇用する顧客のジョブに基づき、「豊富な品揃え」「低価格」「迅速な配送」としている。そして、この3つの品質を分単位で測定し、その結果を受けて常に改良を続けている。同社の全てが顧客のジョブを片付けることから逆算して、設計されているのだ)

<本書の名言>
「利益の出るビジネスを生みたいなら、自分たちが実際に何を売っているのか、そして顧客は実際に何を買っているのかを理解する必要がある」
→顧客が欲しいのはドリルではなく、穴である。

例:オンスター社(自動車メーカーGMが開発したナビゲーションサービス。同社のジョブは「運転者に心の平安をもたらすこと」だった。その結果、サービス内容も顧客へのアプローチ方法も、全てが変わった。ユーザーの気持ちを察し、どんな言葉を聞きたがっているか? 「運転中の心の平安」というジョブと整合する体験を届けられるように、プロセスを丸ごと作り変えた(←自分史の顧客なら?)。

プロセスをジョブに即して作り込む理由:プロセスの力によって、社員は各自のタスクを一貫した方法で繰り返し実行できるようになる。(自分史フランチャイズなど、「わたしの物語」に関連する組織作りは、ジョブにフォーカスしたものにしよう!)

ジョブはイノベーションの道筋を明快に教えてくれる。今後10年、どのようにプロダクト・サービスを改良しなければならないかもわかる。

<名言>
「軽い気持ちで体操クラブに申し込んだのに、いざその場に行ってみたら、エベレストに登ってもらうと言い渡されたような気持ちを味わってほしくない」←自分史作成サービスでそんな気持ちを味わわせていないか?

顧客のジョブに沿っていない状態でプロセスを最適化すると、間違った方向にどんどん進む(自社の都合を最優先する組織……)

マネージャー(経営者)は、顧客が求める体験のどの要素が最も重要かを問い、そのパフォーマンスを追跡できる測定基準を定めておくべき。

第8章 ジョブから目を離さない

せっかくジョブを発見し、会社がうまく行っても、次の3つの間違いを企業はしてしまいがち。

1:能動的データと受動的データの誤謬

受動的データとは、ジョブを教えてくれる顧客のストーリーだ。目と耳をそばだてなければ、発見できない。一方、能動的データとは、プロダクトやサービスをリリースすると、自動的に取得できるデータだ。売上高、経費、顧客満足度、などなど。これら目を引く能動的データに経営方針が引っ張られると、会社のプロダクトやサービスはジョブから乖離し始め、最終的に顧客に見捨てられる。

2:見かけ上の成長の誤謬

売上高を上げるために、ジョブに即していない新商品や新サービスを開発してしまうこと。見かけ上の売上高はアップしたように感じるが、顧客は混乱し、あなたのプロダクトを解雇してしまうだろう。

3:確証データの誤謬

さまざまな数値データを、人間は自分が信じたいように解釈してしまう。それは、真実(顧客のジョブ)から目を背ける行為だ。最終的には、「きっとこのプロダクト(サービス)は売れるはずだ」という思い込みにつながる(もちろん、売れない)。

私たちは、これら3つの誤謬に陥らないよう、常に能動的に「顧客のジョブ」を捉えにいかねばならない。

第9章 ジョブを中心とした組織

「明確に定義されたジョブ」があれば、マイクロマネジメントをしなくても、全てのスタッフがジョブの解決に向かって動き出す。

例:顧客は納税業務を行うにあたり、インタビューを通して作業などしたくない。データ入力もしたくない。ただ、納税業務を解決したいから会計ソフトを雇用している→会計ソフト会社は、会計ソフトの改良方針を、「より高度なインタビュー機能を開発」することから、「インタビューを排除する」方針にした。
→ゴール(=顧客のジョブ)を全員が理解すれば、皆が同じ方向に走る
→「わたしの物語」の組織もそのように運営したい

<名言>
ジョブに整合しないことは「やらない」ことを選択する

・自分史で解決したいジョブとは? なんのために自分史を雇用する?
・自分史を雇用しようとする人はそれを使い、どんな状況で、どんなジョブを解決しようとしている?

顧客の最も重要なジョブは、イノベーションの北極星(決してぶれることのない目指すべき方向)となる

第10章 ジョブ理論のこれから

ジョブは、「動詞」と「名詞」で表現できる。形容詞や副詞が使われている場合、有効なジョブではない。

ジョブには適切な抽象度が必要。具体的には、そのジョブには複数の解決策が存在しなければならない。

ジョブ理論は、個人の生活(家族での役割)を考える場合にも使える。あなたは妻や娘のジョブを解決するために、妻や娘に父親として家族に雇われているが、その役割を十分に果たせているか?

幸運に頼らないイノベーションのコツは、「ジョブが存在し、それを解決できる可能性があるプロダクト(サービス)」にのみ、資源を投入することだ。

この本は、自分の仕事にイノベーションを起こしたい人すべてにオススメだ。しかも、豊富な実例やストーリーでジョブ理論が解説され、グイグイと読み進めることができた。日本の学者・研究者でこれほど理路整然と、面白い本が書ける人は少ないのではないだろうか……。私はこの本をヒントに、自分史業界にイノベーションを起こしたい。まさにこの本は、そんな風に人を行動へと駆り立てる良書だった。それにつけても、翻訳されるビジネス書は日本のビジネス書に比べて中身が濃いように思われる……。ちなみに蛇足だが、謝辞の長さには驚いた。

終わり


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