マニュアル作成初心者向け・おすすめ書籍案内(第5弾・「老人の取扱説明書」・平松 類著)

自分史作成サービスの顧客となるのは、大部分がシニア層である。そうすると、当然、シニア層に特化したコミュニケーション技術を身につける必要がある。本書のタイトルは聞こえが悪いが、それでも自分史ライターにとっては必須のスキルが多数掲載されていた。

本稿の目的はすでに「マニュアル作成方法の調査」から、「自分史ライター向けのマニュアルに掲載すべきノウハウを集めること」になっており、一般的なマニュアル作成のノウハウ本は選ばれない。あくまで「自分史ライターのマニュアルを作成するための参考書」を取り上げていくことになる。

それでは、早速紹介してみよう!


本書は「老人の取扱説明書」だけあって、コミュニケーションだけでなく身体的な問題についても取り扱っている。自分史ライターにとって必要なのは「コミュニケーション術」だけなので、本稿で紹介するのも、その部分だけである。

・老人の困った行動その1「都合の悪いことは聞こえないふりをする」

この原因は、歳をとると「高い音」と「若い女性の声」が聞き取りにくくなることだ。つまり、自分史ライターには「低い声」と「男性の声」が向いている。「中年以上の女性(=声の低い女性)」も有利だろう。声が高い人は、意図的に声を低くしなければならない。

さらに、老人に対して自分の声を聞き取りやすくする方法は次の3つ。

「低い声」
「ゆっくり」
「正面から」

やたらと大きな声を出すのではなく、「低い声で、ゆっくりと、正面から」話しかけるのが大切なのである。

また、音をゆっくり区切ることや、相手と同じスピードで話すことを意識するといいだろう。ただし、赤ちゃん言葉は厳禁。相手を敬った上で、聞こえやすいように区切るのだ。

また、相手は口の動きを見ているので、必ずマスクは外すこと。

「サ行」と「タ行」の言葉は聞き取りにくいので、他の言葉に言い換えること。

例:四十七士(しじゅうしちし)→赤穂浪士、忠臣蔵に言い換える

参考になるのは、19時〜20時のテレビニュースの喋り方。

数字を連続して言わない。

同音異義語は言い換える(発酵、発行、発光など)。

・老人の困った行動その4「ネガティブな発言ばかりする」

伴侶に先立たれた高齢者は自殺する可能性が高いので、特に死別後の一年間はこまめに連絡を取って様子を確認した方がいい。

具体的な対策の一例として、伴侶に先立たれ元気を無くした高齢者に自分史作成を親族が勧め、それにより元気を取り戻した例がある。

・老人の困った行動その6「無口で無愛想」

老人が無口で無愛想になる原因の1つは、「声が出しづらい」から。

自分史ライターは相手の声が聞きづらい場合、近づいて聞くのが良い(何度も聞き返すのは厳禁。相手の話す気を失わせてしまう)。メモをする手も止め、相手に向き直り、聞くことに集中する。

・老人の困った行動その7「あれ・これ・それが多くて説明がわかりにくい」

「あれ」「これ」「それ」が出たら、「それは何?」と責め立てない。結論を急がず、話を聞く。

また、老人には覚えていないのに話を合わせてしまう「取り繕い現象」があることを念頭に置いておく。

・老人の困った行動その10「約束したのに『そんなこと言ったっけ?』と言う」

この現象は、話を忘れているのではなく、もともと話が聞こえていなかった場合に多い。「うん、うん」と言っていても、聞こえていない場合がある。

そうならないために、自分史インタビューは周囲に「雑音」がない、静かな環境で行うこと。

複数の人(親族など)がいるインタビューの場合、誰に話しているかわかりにくくなることがあるので、高齢者に話しかけるときは、まっすぐに相手を向いたり、名前を呼んだりして、「話しかけられている」と認識てもらってから、話をする。

例:
「○○さん、体調はどうですか?」
「○○さん、手術が終わりましたよ」
「(目の前に回り込む・肩を叩く)手術が終わりましたよ」

「横文字・略語・業界用語を使わない(別の言葉に言い換える)」のも大切。

例:
ガラケー → 携帯電話
ポジティブ → 前向き
ジャケット → 上着
オペ → 手術

実際、新聞では「モチベーション」とか「コンセンサス」と言った横文字は使われていない。

文章は短く区切って話す。

例:
(誤)明日は一緒に蕎麦を食べに行くから、新宿西口に10時集合ね。
(正)明日は蕎麦を食べにいきましょう。待ち合わせ場所は新宿の西口でいい? 待ち合わせ時間は10時でいい?

いざとなったら、「筆談」も有効。高齢者は「聞こえたふりをする」から要注意。

高齢者には、「方言」を使うと伝わりやすくなることもある(方言が使えるライターに伝えるべきノウハウ)。

・老人の困った行動その12「お金がないと言う割に無駄遣いが激しい」

商品の選択肢は3つくらいに絞る。

高齢者を相手にするために、「老人喰い(鈴木大介/筑摩書房)」と「シニア向け雑誌のサライ、一個人」を読むこと。

こうしてまとめてみるとわかるが、自分史ライターというビジネスは本気で取り組めば、もっともっと体系化できるノウハウがありそうだ。「オレオレ詐欺」のような詐欺師集団に負けないよう、さらに技術を高めていこう。

(終わり)

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