マーケティング初心者向け・おすすめ書籍案内 第6弾 「究極のマーケティングプラン ダン・S・ケネディ・著」

本書は古い書籍だ。アメリカで書かれたのは1990年代、日本で出版されたのも2007年である。しかし、その内容は実践的なマーケティングの本質を捉えたもののように私には感じられる。

結局、お客様は「人間」であり、その本質(=欲望)はそんなに変わらないものなのだろう。たしかに小道具や世の中の空気は多少変わったかもしれない。しかし、それはあくまで表層的なものであり、やはり深層のところで私たち人間を動かしているのは、本書に描かれているようなマーケティングのコツなのではないだろうか。

それでは、内容を紹介していこう。

本の内容を説明する上では、私がどのように本の内容を自分のビジネスに置き換えて読んでいったかを追っていく。私のビジネスは簡単に言えば、「自分史作成サービス」だ。顧客となるのは75歳以上の高齢者。彼らに2時間ほどのインタビューを2回行い、自分史を代筆して、書籍にする(もちろん書店に並ぶわけではない。あくまで個人レベルで配布する自費出版だ)。価格帯は大体30万円〜50万円と言うところである。

ステップ1:適切なメッセージを組み立てる

ここで述べられるのは、「私の売り物(=自分史作成サービス・自分史ライター養成講座)を掛け値なしに伝えられる一番いい宣伝文句を練り上げること」だ。

まず、電話帳(今ならグーグルの検索結果か?)で自社のサービス・商品の同業者の宣伝をチェックすることをオススメされている。すると驚くべきことに、どこも同じようなことしか言っていない。そこから抜きん出るためには、自社のサービス・商品をライバルから際立たせる、メッセージを作り上げねばならない。

それが、「USP(ユニーク・セリング・プロポジション)」だ。

本書で紹介されているUSPには、次のようなものがある。

・最安値のリーダー
・サイドエアバッグを装備している唯一の車
・自生種豆のコーヒー
・ロッキー山脈のひんやりとした清水を使ったビール
・価格、原材料、ポジショニング、色、サイズ、香り、CMに起用している有名人、所在地、営業時間などなど

常日頃から、「このビジネスにUSPはあるか?」「なければ思いつけるか?」「あればさらにいいものを思いつけるか?」「自分のビジネスにもらえるアイデアはないか?」と目についたサービスについて自問するクセをつけたほうがいい、と本書はアドバイスしている。

USPをすぐに思いつくことは難しく、何年もかかることもある。しかし、それを思いつく努力は、おおいに報われるそうだ。

USPを思いつくための質問
「他にも色々選択肢があるのに、どうしてあなたの商品・サービスを選ばなくてはいけないのか?」

ノーと言えないオファーで商品を売り込もう
「プレゼント攻勢」

時代の空気に合わせたサービス展開(不況時には……)
「ローコストな高級(っぽく見える)住宅」
「高級(店っぽく見える)レストラン」
「(お金をかけない)引退者用キャンピングトレーラー」

メッセージの作り方
→たくさんのカードを用意し、事実、特徴、利点、保証内容、オファーの内容、アイデアを一枚に1つずつ書いていく。自分のビジネスと競争相手について知っていることを全て書く。次に優先順位を考える。お客にとって重要と思われる順。うちをよそと差別化するのに役立つ順。これで最適のUSP、それを裏付ける販売構想、さらなる関連オファーを思いつける。

ステップ2:メッセージを伝える

広告でよくある例は「思わせぶりでおしゃれなイメージコマーシャル」←まったく役に立たない

広告では、お客は必ず次の5つのステップを踏む。

1:ニーズと欲求に気づく
2:そのニーズ・欲求を満たすものを選ぶ
3:それをどこで入手するか選ぶ
4:その価格で納得する
5:今すぐ行動しなくてはならない理由を見つける

「自分史作成サービス」で考えられるニーズ

・痴呆症の防止(言い換えると、脳トレ?)
・(子どもからは言い出しにくい)終活のきっかけ
・オレオレ詐欺防止
・配偶者がなくなって1年以内の危険な時期の父や祖父を持つ子や孫

「自分史ライター」は、一般の人がなんの説明もなくても「自分史」に興味を持ってくれるだろう、などと考えてはいけない。まず、ファーストステップで「ニーズ」と「欲求」に気づかせるのだ。

そのステップを踏んで初めて、「自分史」がどういうものかを紹介する。

さらにその次のステップで、自分史ライターは個々のUSPメッセージとオファーをアピールする。

さらにその次のステップで、費用や時間に触れる。

最終ステップでは、今すぐ行動してもらうように見込み客を追い込む。

このステップは順番にやらなければならない!!

「自分史作成サービス・自分史ライター養成講座」を注文する人の興味を、理屈か感情の両方でそそる必要がある。「秘密」という言葉は感情を強く揺すぶる。

そのほかのコツは次の通り。
・使用前/使用後の写真
・喜んでいるお客の体験談
・びっくりするようなデータ
・印象に残るキャッチフレーズ、タイトル、説明
・実演する

メッセージのほとんどは押しが足りない。なんらかの行動を起こしてもらうこと! 「この新車、素敵でしょう」では終わらせず、「週末、試乗に来てください。試運転していただくだけで、コーラを1ダース無料で差し上げます」と言う。「今すぐフリーダイヤルにお電話ください、無料サンプルと5ドル分の割引券をすぐお送りします」、まで言うべきなのだ。→「毎回常に、行動を起こしてもらうように頼む」

ステップ3:ふさわしいターゲットを選ぶ

ターゲット・マーケティングその1
「地理で絞る」

アポを取って営業マンを派遣するビジネスなら、地理的に限られる。(自分史作成サービスも地理的な制限がある。自分史ライター養成講座はない)
→「グーグル広告」は地理で絞って表示できるか?

ターゲット・マーケティングその2
「顧客の属性で絞る」

既存顧客の属性を収集・分析して、偏りや共通点を見つけよう。

ターゲット・マーケティングその3
「親近感・繋がりを利用する」

自分史活用推進協議会で活動する。イベントに積極的に参加する。週8時間くらいは仕事を離れて、人脈を広げよう。すると、その仲間が私のビジネスを宣伝してくれる。

自社のサービスにふさわしいターゲットに合わせて仕立てたメッセージを伝える。下記のピザチェーンのテレビCMのメッセージは全然違う(ピストル・ピザはCMで「うちのピザは美味しいよ!」とは一切言わないらしい……)。

ドミノ・ピザ →腹をすかせた大学生
ピストル・ピザ →小さい子供がいるファミリー層

ステップ4:売り物の良さを証明する

米国民(=日本人)は誰も信用しない。誰もが疑い深くなっている時代。

そんな時代に信用してもらうには……
・満足している顧客の声を大量に使う(=良い証言)

「良い証言」のポイント
・売り物に関するあらゆる宣伝文句、特徴、利点、事実
・見込み客が抱きそうなあらゆる疑念、不安、疑問
→これら「アピールしたいことを具体的に言っている証言」と、「疑念を払拭する証言」を集めて使う!

有名人の証言も有効。自社サービスではなく、「業界全体」に触れているのでもいい。

例:アメフトのジョー・モンタナは健康管理について、「カイロプラクター」の指導に従っている。→カイロプラクターは、この事実をお客に絶対伝えるべき!

例2:自分史(または自分史作成サービス)なら、誰か著名人が証言していないか……?

ステップ5:できるだけいいところを見せる

サービスには一貫性が必要。サービスのイメージを統一する。「繁盛」しているイメージは大切。お客のことを考えたホームページの構造に。どうすればもっとお客が買いやすくなるだろうか?

地域社会でのイメージアップのため、差し障りがなく、政治とも無関係な信頼できる非営利団体や慈善活動との提携が効果的。それをホームページでアピールしよう。自分史作成サービス「わたしの物語」は○○を支援しています、みたいな?

有名人を広告に使うなら、シニア層に受ける人を。今、人気のある人よりも、往年(再放送ドラマなど)のスターの方がシニア層には見覚えがある。

ステップ6:タダで宣伝する

良い宣伝の第一のルールは、不都合な宣伝を避けること。広告、プレスリリース、発行物、発言、商品名などを全て入念に調べ、会社の面目丸つぶれになるようなことがないか、自問する必要がある(顧客を敵に回すような内容はないか?)。

マスコミに好意的に取り上げてもらう方法その1
「慈善団体と協力する」→慈善団体は慎重に選ぼう!

マスコミに好意的に取り上げてもらう方法その2
「派手な行動をする」→これは却下

マスコミに好意的に取り上げてもらう方法その3
「その道の専門家になる」→「(自分史に関する)世論調査・統計、アンケート結果」をまとめてプレスリリースにし、雑誌、新聞、トーク番組に送る。「(自分史に関する)予測の発表」も注目を吸い寄せる。

マスコミに好意的に取り上げてもらう方法その4、5
「ユニークなキャンペーンをする」「ラジオのトーク番組にゲスト出演する」

タダで宣伝してもらうために、「プレスキット」を用意し、カバーレターを添えて、ラジオ局、テレビ局、新聞社、雑誌、フリーの番組司会者、プロデューサー、コラムニスト(最近ならブロガー?)に送る。

ステップ7:話題になる

「年間行事(ひな祭り、敬老の日など)」に絡めたキャンペーンをやる。
「その時に流行っているもの(ニンジャタートルズ!?)」に絡めたキャンペーンをやる。

ステップ8:お金をかけないマーケティング戦略

・自社における電話応対のスクリプトを作る(自分史作成サービスの場合:長電話を上手に切り上げ、アポを取るには?)
・関連はあるが競合しないビジネスと、マーケティングプランを共有する(p168)

ステップ9:トータルカスタマーバリューを最大限引き出す

「感謝の気持ちと敬意でお客をもてなす」=「お客さまは神様です」ではなく、「お客があなたの(私の)給料を払っている」と考えよう。

外交術は「古風な礼儀正しさ」。
・お客は名誉ある重要なゲストとして喜んで迎える
・お客からの質問に詳しく答えられる
・ポリシー(自社の方針)を振りかざしてお客を追い払わない
・苦情に対処する手順を用意する

既存顧客とコンタクトを保つ。(自分史の増刷。家系図の作成。動画の作成、いろいろ……)

ステップ10:口コミを促進する

「紹介で来てくれたお客はあまり疑ってかからないし、値段にもうるさくなく、話が早くて、買ってくれやすいし、満足しやすい」

紹介してもらうには、まず「震えるくらい感激したお客」を作らねばならない。

「紹介を期待していることを見せて伝える」
「紹介キャンペーンを行う」
「紹介イベントを行う」
「ただお願いする」
「紹介してもらったら、大いに感謝する(お礼の電話や手紙、プレゼントを贈る)」

ステップ11:短期間で売り上げを急増させる

→ユニークなキャンペーンのアイデア集が紹介されている

ステップ12:マーケティングの新技術

・電話の録音案内メッセージ
・ウェブサイトをカスタマーサービス、顧客教育、情報提供の場とすること。Eメールアドレスの収集と管理を行うこと。マスコミにニュースリリースを送ること。
・オーディオテープを用意する(今ならユーチューブか?)→人は読むより聞くものを好む
・インフォマーシャルを作る(動画を作る)
・DTPを使い、自分で広告印刷物や宣伝物を作る
・Faxを送る(自分史作成サービスは、あえてFaxを導入する?)
→とにかく、なんでも受け入れてやってみよう!!

ステップ13:マーケティングのプロの使い方

・まず、「自分のビジネスを一番よく理解しているプロは、自分自身である」ことを自覚しよう。雇ったプロに言われても、おかしいと思うことは絶対にしてはいけない。
・自分でやるより頼んだ方がうまくいくことにプロを使おう。ただし、自分でもできるように理解しておく必要がある(広告、マーケティング、販促活動)。
・「成果報酬型のプロ」に依頼する。
・長いコピーを嫌い、余白を取りたがるプロは避ける。

それにしても、海外のこの手の実用書籍は日本の書籍に比べて非常に内容が濃いような気がする。まあ、海を越えるほど優れた本だから、内容が濃いのは当たり前かもしれないが……。

                                                                                                                         終わり


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