マーケティング初心者向け・おすすめ書籍案内 第3弾 「ドリルを売るには穴を売れ 佐藤義典・著」

これまで2冊のマーケティングの本を紹介し、「なんだかマーケティングってすげー!」ということは感じたが、なんだかモヤモヤするところがあった。「……で、何から始めればいいの?」ということだ。

そんな超初心者に、本当に基本の基礎を教えてくれるのが、今回ご紹介する「ドリルを売るには穴を売れ」という本。マーケティングのさまざまな側面の中から、最も大切な「たった4つのポイント」に絞って、これでもかというほど懇切丁寧に教えてくれる。この本に比べると、少々「1000円コーラ」や「USJの逆向きコースター」はマーケティングを初歩から学びたい人には不親切だったかもしれない。とはいえ、先の2冊も「マーケティングって面白そう!」という興味を引き出す点では大成功しているので、先の2冊を読んでから、今回の「ドリル」を読めたのはラッキーだったかもしれない。

とにかくこの本は、「自分のビジネスだったらどうだろうか?」ということを考えさせまくってくれる本である。罫線とポストイットを貼り始めたらほとんどすべてのページに貼りそうになったので、ポストイットは諦めたほどだ。それほど、「自分のビジネスの場合ではこうなるのではないか……」という想像力を刺激してくれる本だった。

それでは、内容を紹介していこう。


「ドリルを売るには穴を売れ」 佐藤義典・著

この本はいわば、マーケティングを学ぶ人のためのガイドブックだ。それも、「ベネフィット」「セグメンテーション」「差別化」「4P」というたった4つだけに絞った、いわばマーケティング学校の幼稚園児か小学生向けの教科書であろう(良い意味で)。

本の内容を説明する上では、私がどのように本の内容を自分のビジネスに置き換えて読んでいったかを追っていく。私のビジネスは簡単に言えば、「自分史作成サービス」だ。顧客となるのは75歳以上の高齢者。彼らに2時間ほどのインタビューを2回行い、自分史を代筆して、書籍にする(もちろん書店に並ぶわけではない。あくまで個人レベルで配布する自費出版だ)。価格帯は大体30万円〜50万円と言うところである。

ドリルその1:ベネフィット

「ドリルを買う人は、ドリルが欲しいわけではない(ドリルのコレクターでもない限り)」

私たちがドリルを販売するメーカーの人間だとすると、「はぁ?」となってしまうところだ。「お客はドリルが欲しいからドリルを買いに来るんだろ! わけのわからんことを言うな!!」と単細胞な人間なら怒鳴ってしまうかもしれない(笑)。

しかし、この言葉の後にはこう続く。

「ドリルを買う人は、穴を開けたいのだ(だから、穴さえ開けばドリル以外の手段でも全然構わない)」

この「穴を開けたい人」に向けて、「穴が開けられる」と言う利益をもたらすこと。これがすなわち、「ベネフィット」である。ベネフィットとしては、次のようなものが考えられるだろう。

コカコーラが、喉が渇いている人の「喉を潤すこと」
ロブションが、恋人とデートする人に「良いムードを提供すること」
ロレックスが、それを持つ人の「自尊心を満足させること」

一方、

「コカコーラを売っています」
「美味しい料理を提供しています」
「高品質な時計を売っています」

と言うのは、お客のベネフィットをまるで理解していない考え方だ。

お客は、それぞれ固有のベネフィットを求めて、商品やサービスを買っているのであり、別にその商品やサービスそのものを求めてはいないのだ。

そして、「得られるベネフィットが支払う対価よりも大きい」と感じたとき、お客はそれを購入する。

著者は「自分で買い物するときのことを考えてみよう」と再三繰り返す。
自分たちもお客の立場になれば、「商品ではなく、その商品で得られる結果(=ベネフィット)」を求めて、お金を支払っていることがわかるはずだ。

また、本書ではベネフィットを2種類に分類している。

「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」だ。

それでは、私のサービス「自分史作成サービス」がもたらすベネフィットはなんだろうか? 

「自分史作成サービス」の機能的なベネフィットは、まずは備忘録だろうか。上製本なので、頑丈で見栄えがすることもあげられる。写真が散逸しないのも機能的メリットかもしれない。一方、情緒的ベネフィットになると色々ありそうだ。自分のプライドを満たしたい、家族に自分のことを知ってもらいたい。子供や孫が自分史作成サービスをプレゼントするパターンもあるから、その場合は、親や祖父に喜んでもらいたい、楽しい時間を過ごしてもらいたい、思い出を共有したい、昔話のきっかけにしたい……。お客様によって、求めているベネフィットは違うことがわかるだろう。

と言うわけで、まずは自分たちの商品のベネフィットを考えなければならない。
しかーし、お客さまによってベネフィットは異なる。
だから必要になるのが、次の「ドリル2:セグメンテーション」である。

……ちなみに、このベネフィット=価値を生み出しているのは、人間の欲求だと本書は語る。そして人間の欲求は、突き詰めれば次の3つになる。

・自己欲求(例:成長したい)
・社会欲求(例:認められたい)
・生存欲求(例:美味しいご飯が食べたい)

自分たちの商品・サービスのベネフィットを考える場合は、これら3つの人間の欲求の何を満たすかも考える必要があるだろう。

ドリルその2:セグメンテーション

お客様によって、求めるベネフィットは異なる。単純に考えても、10代の女子高校生の求めることと、80代の男性が求めていることは違いそうだ。だから、マーケティングではお客を分類する。これがセグメンテーションだ。

一番簡単で強力なのが、「年齢」と「性別」で分けることだ。あとは「子供の有無」「住んでいるところ」「年収」などだろうか。これを統計的なセグメンテーションと呼ぶ。

一方、心理的なセグメンテーションとして、「新商品に飛びつくタイプと、新商品を使わないタイプ」「機能重視と見た目重視」といったものもある。

本書では、年齢と性別など統計的なセグメンテーションをした後に、想像力を使って心理的なセグメンテーションをすることを推奨している。例えばこんな風だ。

「20台の男女は独身で働いていることが多いので、可処分所得が多くアクティブ」
「60台以降は定年しているため、可処分時間が多い」

そして、この分類されたセグメント(セグメンテーションされた個々の集団)から、どこを狙うか(ターゲット)を考える。

その際は、

「市場が十分に大きい(人数がある程度いる)」
「競合の激しさ(自社が勝てるか、強みはあるか)」
「そのターゲットは、どれくらい価値を求めているか(ちゃんとお金を払ってくれるか)」

の3つを考える。

ターゲットが決まれば、それにふさわしいベネフィットを提供するのだ。
ちなみにセグメント間のベネフィットは相反することが多いので、両方や全部のセグメントを狙うと、結局アブハチ取らずになる(誰も買ってくれない)。

ドリルその3:差別化

ターゲットを定めてベネフィットを提供しても、お客様があなたの商品・サービスを買うとは限らない。なぜなら、競合他社も同じような商品・サービスを提供しているからだ。なおかつ、ライバルは同じ業界だけではない。

たとえば、漫画喫茶を経営しているとしよう。ターゲットは20台男性、ベネフィットは「暇つぶし」とする。

そうすると同じ「漫画喫茶」だけでなく、「スマホゲーム」「ゲームセンター」なども競合するわけだ。

だから、あなたは自社の商品・サービスを選んでもらうために、さまざまな競合よりも高い価値を提供する必要がある。なお、本書では「提供する価値の競合との差」が差別化と定義されている。なんでも良いから違えばいいのではなく、それが競合以上の価値提供になっていなければならないのだ。

この差別化戦略は3つしかない(!)

「手軽軸」……早い、安い、うまい
「商品軸」……とにかく良いもの、ブランド品
「密着軸」……自分の好みに合わせてワガママを聞いてくれる

そして、これらを同時に満たすことはできないので、どれか1つを選んで集中しなければならない。マクドナルドは「手軽軸」で早く、安く、それなりの商品を提供しているから成功しているのである。「商品軸(モスやフレッシュネス、シェイクシャック)」や「密着軸(オリジナルサンドが作れるサブウェイ)」みたいなことは、現在のマックのようなシステムでは両立できないし、コストばかりかかるので、すべきではないことがわかるだろう。

もちろん、あまりにも他の軸のレベルが低すぎてはいけない。密着軸でワガママをきくからといって、手軽軸を無視してあまりにも手間がかかったり、商品の品質が箸にも棒にもかからなければ、それはやはり売れないのだ。

ポイントは、先ほどのセグメンテーションで絞ったターゲットと、差別化戦略は連動して決定されるということだ。私たちの狙うターゲットのお客様は、「手軽軸」「商品軸」「密着軸」のどれを求めているのか? それを考えなければならない。

ちなみに「自分史作成サービス」の場合、「手軽軸」は「親の雑誌」。全国にチェーン展開し、写真多めでインタビューは1回だけ。掲載されるのも数千文字。値段も8万円くらいだ。「高級軸」は「朝日新聞の自分史」。インタビューは元新聞記者が行い、じっくりとインタビューされた文章が製本される。値段は100万円以上。私がやっている「自分史作成サービス『わたしの物語』」は、空いている密着軸が良いだろう。たっぷりインタビューし、内容も製本もオーダーメイド。そして価格は30万〜50万円くらい。つまり、わたしは「密着軸」で差別化し、それに合わせたセグメンテーションとターゲティングをする必要があるというわけだ。

ドリルその4:4P

4Pといってもエロい意味ではない。「Product(製品・サービス)」「Promotion(広告・販促)」「Place(流通・チャンネル)」「Price(価格)」の4Pだ。

私たちがお客様に価値を届けるには、この4Pが必要となる。

まずはProduct、売るものが必要だ。
そしてPlace、売るための流通経路。店売りやネット販売などがある。
さらにPromotion、広告をしないとお客様に知ってもらえない。
最後にPrice、値段を決めて、お金を受け取るのがゴールだ。

このなかのProductを決めるには、自分の製品・サービスが、どんなお客様に、どんなシチュエーションで、どんな価値を提供するのかを想像してみる必要がある。

本書では、パン屋さんの「パン」が例に挙げられている。
あなたが売るのは、どちらの製品なのか?

日曜日の朝、マダムが優雅にカフェオレと一緒に食べるクロワッサンか?
月曜日の昼、サラリーマンが慌ただしく牛乳と流し込むサンドイッチか?

つまり、「何を売るか」は「どのような価値を提供するか」ということであり、
ビジネス領域を決める重大事であることが本書には示されている。

果たして、「わたしの物語」が提供する自分史は、どのような価値を、誰に提供するものなのだろうか? じっくり考える必要があるだろう。

続いて、Promotion。これは商品・サービスを知ってもらい、買ってもらうための活動だ。そこで必要なのは、「広告媒体(新聞、テレビ、ネット、商品パッケージ、店構え……)」と「メッセージ」だ。

メッセージでは、この商品であなたの欲求が満たせることを伝えなければならない。人間の欲求は「自己欲求」「社会欲求」「生存欲求」の3つしかないから、それらを刺激する広告をする必要があるというわけだ。

そして、Place。どこで買ってもらうかだ。「わたしの物語」はホームページで販売している。同業他社だけでなく、ネット通販をしているあらゆる業態の広告が参考になるだろう。

最後に、Price。低価格戦略は「客数重視」。高価格戦略は「客単価重視」。そして価格はお客様が感じる価値に見合ったものでなければならない。

この4Pの最大のポイントは、「全てに一貫性を持たせること」だ。4Pの中で一貫性がなければならないし、差別化戦略とも一貫性が必要だ。

例えば、こんな感じだろうか?

4P:「商品(高級オーディオ)」「広告(高級感のあるCM)」「流通(店頭で販売員が接客)」「価格(数十万円〜数百万円)」

差別化との一貫性:あらゆる側面から「商品軸」で差別化を図る

このように本書ではマーケティングの最重要要素がコンパクトかつ丁寧に説明されている。付属のイタリアン・レストランを再生するエピソードも面白く、各要素の理解に役立つだろう。参考になれば幸いである。

終わり


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