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日本人の食事摂取基準(2025年版)案 その3(策定の基本的事項)

「2 策定の基本的事項」の
「2-1 指標の概要」のみ書いていきます。
ページ数は5ページ分です。

ここは基本的には2020年版から変更はないと思います。(私の感覚です。見比べていません。)

2-1-1 エネルギーの指標

2015年版から18歳以上はBMI(body mass index)が用いられています。
※BMI=体重(kg)×(身長(m)×身長(m))

BMIは目標とする範囲が示されています。
範囲です。範囲。
一時期話題(?)となった「22」の一点ではありません。私は22が1番良いと思っていた時期がありました。しかし、範囲です。

留意点としては、健康の保持・増進、生活習慣病の発症予防等の要素の一つとして扱うことに留めるべきということです。

ある疾患(例えば、2型糖尿病)のリスクを上げたり、下げたりする要因はBMI以外にも複数あること(例えば、朝食欠食や運動など)を理解しておく必要があるかなと思います。

また、エネルギー必要量の概念もとても大切なので参考資料として記載されています。

ちなみに、
・参考資料の「推定エネルギー必要量」
    →  18ページ
・参考資料じゃない「エネルギー」の章
    →  10ページ

なんと、参考資料の「推定エネルギー必要量」の方がページ数が多いんです。しかも、この参考資料もめちゃくちゃ面白い!楽しみですね!

2-1-2 栄養素の指標

栄養素の各指標のそれぞれの目的は前回も扱った下記の図のとおりです。

そして、栄養素の指標の前提として、
「個人の「真の」望ましい栄養素の摂取量は分からない。だから、確率論的な考え方が必要」
ということを知っておく必要があります。

↑2005年版と2010年版には書かれていましたが、広く周知されたからなのか2015年版からは記載されていません。

●推定平均必要量(estimated average requirement:EAR)

50%の者が必要量を満たし、
50%の者が必要量を満たさない
と推定される摂取量です。

個人的に1番大切だと思う指標です。
なぜなら、「栄養素X」の摂取不足の回避は「栄養素X」でしか出来ないからです。
(栄養素Xの中に複数の栄養素が入ることもありますが、そこはスルーしてね。例えばビタミンAとか。)

メタボや生活習慣病等は、そのリスクを上げたり下げたりする要因が複数あります。
例えば、高血圧予防なら
①ナトリウムの摂取量を減らす
②カリウムの摂取量を増やす
③肥満なら体重を減らす
など複数の選択肢があります。

しかし、摂取不足の回避は選択肢が「栄養素Xの摂取量を増やす」の1択のみです。
だから、1番大切だと思っています。

次に、推定平均必要量は栄養素によって定義が異なります。2025年版では定義が変わった栄養素が複数あります。

推定平均必要量がどうやって算出されたのか、その背景を理解しているかしていないかで、実務も大きく変わってくるのではないかと思います。

●推奨量(recommended dietary allowance:RDA)


ほとんどの者(97~ 98%)が充足している量となります。
推定平均必要量を補助する目的で、推定平均必要量がある栄養素に対して算出されます。

算出方法は下記のとおりです。
推奨量=推定平均必要量×推奨量算定係数
別の機会に推奨量算定係数が出てくるのですが、栄養素や年齢によって結構バラバラです。

算出方法では個人間変動の標準偏差が用いられるのですが、いつも標準偏差と標準誤差がごっちゃになるので、ちゃんと勉強します。すいません。

●目安量(adequate intake:AI)

目安量は、推定平均必要量が算定できない場合に算定されます。

次の 3 つの概念のいずれかに基づく値で算定されています。

  1. 生体指標等と当該栄養素摂取量の調査をして、不足状態の者がほとんど存在しない値

  2. 生体指標等は調査はしないが、健康な日本人の集団が摂取している量

  3. 母乳で保育されている健康な乳児の摂取量

③は乳児のみになりますね。

●耐容上限量(tolerable upper intake level:UL)

耐容上限量は、健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限として定義されます。
「これ以上食べたら危ないよ」というラインです。

しかし、これらの根拠となる情報は限定的であるため、安全性の確保に配慮して、計算式の中に「不確実性因子」が入っています。

倫理的にも大量摂取の実験はできないので、根拠が少なくなるのも仕方がないよなーと思います。

●目標量(tentative dietary goal for preventing life-style related diseases:DG)

生活習慣病の発症予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量が設定されています。

当面の目標なので、理想値ではなく実現可能性が考慮された値となっています。

目標量は3種類あり、すごーく簡単に言うと

  1. 現在が摂取不足
    だから、ここまで増やそう

  2. 現在が食べすぎ
    だから、ここまで減らそう

  3. エネルギー産生栄養素バランス

となるかなと思います。

また、目標量で抑えておきたいポイントは、生活習慣病の「発症予防」ということです。
食事摂取基準では発症予防と重症化予防を区別して記載しています。

●発症予防は、健康な人が疾患にかからないようにすること。例えば、健康な人が糖尿病にならないようにする等。

●重症化予防は、疾患を有している人が重症化しないようにすること。例えば、糖尿病の人がHbA1cが高くならないようにする等。

参考1 食事摂取基準の各指標を理解するための概念

最後に、各指標を理解するための概念図。
この鍋みたいな形の曲線図がとても大切です。

実務でも、どれくらいの摂取量がこの図のどの位置にくるかが想像できると良いなーと思います。

●お疲れさまでした〜

食事摂取基準は数値を年齢別・性別・栄養素別に算出しています。
その数値の意味を理解していないと、数値を使うことができません。
今回は、数値の意味の基礎的な部分についてだったかなと思います。

「栄養素の必要量を確率論で考えよう」と思った人、本当にすごいよね。アメリカかカナダから始まったんやっけ?マジですごい。どういう過程でこういった考えに至ったんやろう。
あと「各指標を理解するための概念図」を作成した人、誰なんだろ。マジで天才。1つの図で4つの指標を理解できる。図は2005年版から変わってなくて、この先も変わらないものだろうから、世界遺産なんじゃないかな。

それでは、お疲れさまでした〜。

「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(案)

厚生労働省ホームページ

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