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外部経済性、ドメスティックのメリット、文脈依存性。『ディープテック』を読んで

学生時代の頃から尾原さんの本は好きで読んでいて、『モチベーション革命』で偏愛を起点とした頑張り方にはとても感銘を受けました。もちろん、2019年は『アフターデジタル』のOMOの事例もかなり勉強になっています。今回、尾原さんが新著を出されたとのことで早速手にとってみました。

要約すると

社会的、環境的な地球規模の複雑な課題に対して、テクノロジーを駆使して長期的な課題解決に向けて取り組んでいる海外・日本企業の事例紹介の本。

面白かったポイント

話の流れとしては、最終的に日本企業だからこそこれから勝てるよ!といった論調に落ち着いていて、それはそれで良しとして、中で書いてあった事例やキーワードで面白かったものを3点紹介します。

①外部不経済

経済学用語で「ある当事者の意思決定が他の経済主体の意思決定にも影響を及ぼすこと」だそうです。わかりやすい例でいうと高度成長期のイタイイタイ病や水俣病など。環境に配慮しない時代の負の副産物による影響でした。

これは環境問題に限らないと思います。短期的な売上利益を追求するあまり長期的な視野での整備や従業員、社内環境のケアを行わない企業も多く存在するでしょう。しかしそれは、Going Concernである営利企業の自己矛盾を物語っています。

短期と長期のバランスを取ることが揺るぎない正解だと自分は考えていますが、渦中にいるといろんな変数によって短期的なところばかりを見てしまいます。これも外部不経済の概念の範疇かなと思いました。

②ドメスティックのメリット

本書の中では、日本が伸びている市場である東南アジアに物理的に近く、かついくつかの要素から知識製造拠点として好立地であると述べられています。その要素のひとつとして、ドメスティックな言語によって新しい知識が社会実装されるまで守られて競争環境に目をつむれることが記述されていました。

どういうことか。例えば、「旨味」というキーワードがあります。今では「UMAMI」として一部の人からは認知されるグローバルな言葉になっているそうですが、かつて欧米では旨味に関する議論や研究は起きていなかったそうです。一方日本ではいち早く旨味という視点で味覚を研究・分析を重ね、グルタミン酸の合成にたどり着く東大発ベンチャー、いまの味の素が生まれたんだとか。

つまり、機会を発見したとしてもドメスティックな言語で研究が進み、外国が容易に参入できないがゆえに先行者になり得る。ぼくはそう解釈しました。Global First is Justiceだと思っていたので、逆転の発想が優位性になるという観点はおもしろかったです。

③文脈依存性の高い課題と、当事者だからこその気づき

この本の醍醐味はなかなか知ることのない東南アジアのディープテックベンチャーのいくつもの事例を知れることで、その一つが興味深かったです。

Tech Prom Labというインドネシア・バンドゥン工科大学の研究生が立ち上げた企業が開発している廃棄物を使った建築素材です。起点となったディープイシューは、アスファルトが高額のため未舗装の部分が多いこと、そして雨が一気に降ってしまうと川のような洪水状態となってしまうこと。そういった課題を解決するために、ポリマー技術が加工されている建築素材を開発したそうです。

良さとして、製造工程がシンプルだし浸透性が高いということ。本書では言及されていませんが、おそらく価格もアスファルトよりは安価なのでしょう。しかも、原材料は産業廃棄物である石炭燃料から作られているため、一義的な洪水という課題も解決しながら、環境にも優しい一石二鳥のプロダクトなんです。

自分自身もベトナムのハノイに住んでいたとき、同様に道が川になってしまい、車も渋滞して動かなくなってしまったため、裸足で川となった道を歩いてオフィスに出社した経験があります。あとから聞くと感染症の危険性もあるそうで、背筋の凍るような感覚を覚えました。

建築素材の事例を見て感じたのは、現地で生まれ育った人だからこそ持ちうる文脈と課題感があるんだなということでした。ハノイでの経験はたしかに不快でしたが、現地では毎年起こることらしくしょうがないなと半ば諦めていました(なんなら、イベント的にちょっと楽しんでいる自分もいました...)。一方でTech Prom Labは洪水は解決すべき課題だと捉えて果敢にチャレンジしています。これは、現地で生まれ育ったという大きな文脈に乗っているか否かによって課題の捉え方も違うんだろうと感じました。

さいごに

ローカルでの課題解決は、その国にいる人だからこそ気付けること。特定の文脈に乗った循環をうまく作れることができたら、他の地にある似ている文脈に対して転用できるのでは、といったことにも思考が及びましたが、抽象度が高すぎるので一つのテーマとして自分の頭の引き出しにしまっておきたいと思います。

いろいろな事例が乗っていてすぐに日常に転用できる何かが書かれている類の本ではないですが、ディープテックという概念を獲得できたことだけでもポジティブでした。また、早い段階で海外で戦いたいと思っている自分にとって、現地のディープテック企業で戦略×体験を軸に入って、グローバルに挑戦する、という未来も選択肢としてわくわくするなと感じられたので、その点でもタメになる本でした。

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