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磯森照美のエッセイ集

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投稿したエッセイをまとめています。
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#スキしてみて

エッセイ | 食べたいもの

毎月の28日はフライドチキンを食べたいと思ってしまう。ケンタッキーフライドチキンが「とりの日パック」と称して普段よりも安めに販売しているからだ。これが毎月の楽しみなのだ。 以前住んでいた場所では、最寄駅へ向かう途中にケンタッキーの店舗があったために食べる機会は頻繁にあった。引っ越してからは近所に店舗がなかったために諦めていたのだが、数年前に「以前からここにありましたけど?」といった具合に店舗が誕生していた。私は知らなかったため、Uber Eats の店舗一覧を眺めている時に

エッセイ | オム大陸

日々の生活を送っている中で「たくさん食べたい」と思うことがよくある。テレビ番組では大盛りの料理を提供するお店を特集しており、ネット記事でもそれに似た内容が見られる。しまいにはYouTubeでも大盛りの料理を食べる動画がアップされ、私の頭の中には大盛り料理だけになっていた。 大盛りの料理を食べたいと考えても、私がそれを食べられるかどうかが問題だ。普段の食事ではあまり食べていないのだから、急にたくさんの食事を食べられるわけがない。だが、すごくおなかが空いている朝なら食べられるか

エッセイ | 気まずいエントランス

マンションのエントランスは気まずい空間だ。 私は家に帰る時に「目の前を歩く人が同じマンションの住人ではないように」と祈りながら歩いている。マンションの敷地へ入っていかないでくれ、ポケットに手を突っ込み鍵を取り出さないでくれ、などと考えてしまう。エントランスに一緒に入りたくないからだ。 私の住んでいるマンションのエントランスは狭い。お茶を立てるくらいであれば十分な広さではあるが、見ず知らずの住人同士が一緒に入るには狭い。その上、エントランスにはポストとオートロックキーがある

エッセイ | 祝うの不得手

友人とLINEでメッセージのやり取りをしていた時に「今日誕生日なんだ」とメッセージが届いた。大学時代からの付き合いであるが、友人の誕生日をこの時初めて知った。 2月や3月、8月や9月のように、長期休暇中に誕生日がある人はお祝いをする機会がないために知らないこともあるのだが、その友人は長期休暇に当たらない月の生まれだった。 「初めて知った! おめでとう!」とメッセージを送ると、喜んでいるスタンプが返ってきた。 メッセージのやり取りがひと段落ついた時に、「これでいいのだろう

エッセイ | 信じてしまう

インターホンの音が部屋に鳴り響く。繰り返し音が続くため、早く止めなければと思い親機に駆け寄ると、画面には作業服を着た若い男性が立っていた。 ここ最近私が住んでいるマンションでは改修工事をしているため、その件で何かあるのかもしれないと思い「通話」のボタンを押す。 「どうかしましたか?」私がそう尋ねると作業服の男性がカメラを見た。 「こんにちは。実は不動産投資の件でこの地域を回っておりまして、良ければお話しできないでしょうか」男性は爽やかな笑顔で話しかけてくるが、私の頭には話

エッセイ | 丸かじり

子どもの頃はリンゴを丸かじりするのが夢だった。片手ではちょうど持てないくらいの大きさで、両手で持っていたくらいの歳だ。 まるまる1つはおなかがいっぱいになってしまうからダメだと言われ、切ってもらったリンゴを2切れほど食べていた。 リンゴを片手で持てるようになった頃、ついに丸かじりするチャンスが訪れた。家にたくさんのリンゴがあり、消費するスピードが痛んでいくスピードに追いついていなかった。そのため、おやつとしてリンゴが出てきたのだ。 丸かじりした感想は「思ったよりもおいし

エッセイ | いつのまにカーネーション

実家に住んでいた頃に、道を挟んだ向かいに花農家の住む家があった。今もそこには花農家の方が暮らしているのだけれど、以前はそこにおばあさんも住んでいた。 そのおばあさんは何歳なのかは分からず、腰が曲がっていてもシルバーカーを押しながら元気に歩いている姿をよく見かけた。 家の前にある道をシルバーカーを押しながら行ったり来たりし、たまに疲れたのかシルバーカーに座って休憩していることもあった。 そんなおばあさんだが、年に何度かシルバーカーにどっさりと花を積んで歩いている時があった

エッセイ | シワを伸ばす

気温が低くなってきたため秋冬に着ているシャツを出すことにした。前回着てから半年ほどがたっており、その間は引き出しの中で眠っていたのだが、キレイに仕舞っていたおかげですぐに着られた。 シャツは私個人の好き嫌いが激しく、あれは嫌だ、これは嫌いだ、色は白がいいなどと選別していった結果、着ることができるシャツはほんのわずかしかない。 そのわずかなシャツをさまざまなショップから探すのが面倒で、今ではずっと同じブランドのシャツを着ている。 引き出しから取り出したシャツが2着と、全く

エッセイ | 川魚

北海道北見市にある『北の大地の水族館』には「館長が出てくるボタン」があるそうだ。だが「ボタンを押しても館長が出てきません」や「本当に館長はいるのですか?」といったクレームが来てしまっているようで、この件をまとめたネットニュースが面白くてついつい見てしまった。 この水族館へ行ったことはないのだが、何度かテレビで紹介されているのを見たことがある。水族館プロデューサーの中村元がプロデュースしており、「マツコの知らない世界」では「水族館の世界」でたびたび登場している。 私が『北の

エッセイ | 予定通り予定外

予約している10分前に病院へ着き受付を済ませる。階を移動して待合のベンチに腰を下ろす。今日は普段よりも混雑しているようで、3人掛けベンチのほとんどに2人ずつ座っている状況だ。 各部門の診察状況が画面に表示されている。予定通りであるとか、何分遅れであるとかが表示される。私が受診予定の医師については「予定通り」と表示されているが、私の前に待っている人が3人いるため予定通りではない。 診察室内で予想外のことが起きているのだろうかとも思うが、予約通りに進まないのが当然なのだろう。

エッセイ | ねぇ 、 じょし きいている?

天然な人は「天然だね」と言われると否定する。逆に、天然キャラの人は「天然だね」と言われるとうれしそうにする。 こういった認識のせいで私は確固たる天然として生きてきた。 「天然だね」と笑いながら言う人を前にすると、「魔女狩りと一緒だな」と思いながらも天然キャラにはなりたくないため、やんわりと否定する。 そうすると相手はうれしそうに「天然な人は否定するんだよ」と言う。 「天然な人」に明確な根拠がないために、今日もどこかで魔女狩りが行われている。 goo辞書で「天然」につ

エッセイ | マキネッタのサイズが変わるということ

朝日新聞の「天声人語」に掲載されたコラムにステキな一文があった。 そのコラムは『コーヒーと人生』というタイトルで、イタリアで暮らす友人からの手紙に「コンロに新品の小さなマキネッタを置いたときに涙が出た」という一文が冒頭に登場する。 この記事については朝日新聞を購読している母から存在を聞いたのだが、この一文の力はすさまじい。 私はこの記事をまだ読めていないが、この一文は朝日新聞デジタルにてギリギリ無料で読めた。ここから先は実家に戻ってから読みたいと思っている。 マキネッ

エッセイ | 子羊をおびき寄せる

今さらながらインターネットは便利だ。知りたいことが何でも載っている。おいしいコーヒーのいれ方や、おすすめの器具まで分かる。 いつも出かける時はお店を検索して探してしまうし、ふらっと入ったお店があれば帰ってから評価を気にして検索をする。 何から何までインターネット上に書かれている内容を信じ込み、振り回されている。自分でもバカみたいだなとあきれてしまうが、こればかりはやめられないのだ。 よく私が検索してしまう内容は、私と同じような職種の人がどのように恋愛し結婚していくのかを

エッセイ | 知らなかった景色

私が高校生の頃まで暮らしていた地元は自然が豊かな地域だった。自然が豊かと言えば聞こえは良いが、自然しかないの裏返しでもある。 ほとんどの建物は2階建でたまに3階建の建物があるくらいだ。そのため空はよく見えるし、どこにいても視線の先には山がある。 街灯もないため夜は月明かりを頼りに家へ帰ることもあれば、雨の日は側溝に落ちないよう気を付けて夜道を歩いたものだ。 夏休み前などになれば地元がニュース番組のちょっとしたコーナーに取り上げられ、「夏におすすめ」と言われながら特集され