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磯森照美のエッセイ集

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投稿したエッセイをまとめています。
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2023年9月の記事一覧

エッセイ | 流れを渡れる人

「社交的な性格のため誰とでも仲良くなれます」 人生の中で自己紹介を聞く場面は多い。その中でもこういった内容を言う人がいる。 この言葉を言える人は性別に関係なく目立つ顔立ちをしているし、爽やかだ。主人公みたいな人であって、引き立て役には回らない。 誰にでも分け隔てなく話しかけ、笑顔も絶やさない。他人から嫌われるなんてことはないのだろうなと思ってしまうが、きっとそうでもないだろう。 大学を卒業すれば、こういったことを言う人にも出会うことはなくなるだろうと思うとなんだか安心

エッセイ | TOKYO JUNGLE

10年前の話になるが『まほろ駅前番外地』というドラマが放送されていた。これは三浦しをん原作の同名小説をドラマ化して放送していたのだが、当時の私は「瑛太が主演だ!」という簡単な理由で喜び見ていた。 幸運なことにほとんど内容を覚えておらず、再びドラマを見ても初見のように楽しめるだろう。また、当時の私は『最高の離婚』に夢中だったため、そちらの記憶の方が色濃く残っている。 唯一『まほろ駅前番外地』で覚えていることがある。第3話にてキャバクラ嬢役の川村ゆきえが遊んでいたゲームだ。

エッセイ | 分からないままでも

においに敏感で、自分の部屋に居る時でも香水を付けることがある。嫌なにおいは身の回りから排除したくなるが、消し去る方法が分からないために良いにおいを身にまとう。 嫌いなにおいはあまり多くない。好きなにおいの方が多いと思っている。街中を歩いている時も飲食店からこぼれるにおいは食欲をそそるし、スーパーマーケットのようにいろいろな商品が売られている場所なのに、無機質で冷たいにおいも良い。 その場所でさまざまなにおいが存在していることは当然なのだが、どのにおいにもなじみがある。

エッセイ | 緊張に気付かないで

毎月1回は美容院へ行くようにしている。月はじめの日曜日に行くことにしていたのだが、人気店のため予約を失敗すると1週や2週後になってしまうのはよくあることだった。それが積もりに積もって、今ではその月最後の日曜日に行っている。 私にしては長く通い詰めている美容院で、記憶は曖昧だが6年ほど変わらず利用している。ずっと同じお店というわけではないが、主要都市に何店か支店を出店しているため、その時期に使いやすい店舗を利用していた。 以前利用していた店舗での担当美容師は、その人が別の店

エッセイ | 周りになじむ

スマートフォンのシステムアップデートをするために駅前のカフェへやって来た。私は自宅でWi-Fiを使えるよう契約していないため、Wi-Fi接続の場合しか更新ができないシステムアップデートは困り種だ。 意外にも駅前のカフェは混雑しており、全席が使用中というわけではないが、数える程度にしか空席はない。 ロングソファに等間隔で机が並んでいる席の1つが空いていたため、そこにカバンを置いて席を確保する。 以前から気になっていたアイスドリンクを飲みたかったのだが、あいにくその時は涼し

エッセイ | 2時間いっしょにいてほしい

最近はお風呂で過ごす時間が長くなってきている。正確には浴槽で過ごす時間が長くなった。 以前までは1時間半ほど入浴してからシャワーを浴びていたのだが、今は2時間も入浴している。 入浴時間が延びた要因としては飲み物を持ち込み始めたことにある。以前までもお茶をコップに入れて持ち込んでいたのだが、それでは足りない。今はペットボトルと水筒に水を入れ、それを持って入浴している。 入浴する間に1リットル近く飲む。汗をかき、喉が渇いたらゴクゴクと飲んでいく。なんだか部活終わりを思い出す

エッセイ | 雨の日は理性を失う

昨夜から降り続いている雨はやむ気配がない。最近はニュースに触れていなかったため、この雨が何を原因に勢いづいているのかが分からない。 カーテンを開ければ雨の線が見えるほどだ。こんな日は外に出たくないと思ってしまう。 幸運にも、昨日中に買い物を済ませていた私の家にはたくさん食材があった。これならゆっくりと過ごせるため安心できる。 お昼頃になるとおなかが空いてくる。作り置きをしている副菜や冷凍保存のごはんを解凍すれば、すぐにでも食べられる。 しかし、こんな日に限って私は普段

エッセイ | 近くて遠い

身近な存在になっているものほど、その存在に気付けないことがよくある。その逆で、身近にあるがために、自分が意識しすぎているものもある。 私だとコンビニエンスストアがその代表的存在にあたる。 私は以前からコンビニエンスストアを使用してきた。外出時に飲み物を購入したり、昼食を買ったり。夜遅くに家へ帰っている時は夜食を買っていた。 新商品が出れば気になり、用もないのに店内へ入っていくこともあった。私の生活はコンビニエンスストアを中心に動いていると言っても過言ではなかった。 ど

エッセイ | 昇格

自分の家で部屋着を着て過ごすことは誰もが行っていることだと思っている。私もそうやって過ごしてきた。 中学生や高校生時代は学校指定のジャージや、部活のジャージを着て過ごしており、ちょっとそこまでといった感じで外に出ると、近所の人には私がどこの学校に通っているのかがすぐにバレてしまっていた。 大学生になると部屋着はスウェットに変わった。学校指定のジャージはなかったため、動きやすい服装といえば締め付けの少ないスウェットになる。 大学生の頃は家で過ごす時間が長かったため、スウェ

エッセイ | 大丈夫にしました

終電を逃してしまった。ここからタクシーで帰れば1万円くらいかかるため、それだけは避けたい。 自宅がある駅までに2つのターミナル駅を経由する。最寄り駅から1つ目のターミナル駅まで行くための終電は異常に早い。ターミナル駅からの終電はもう少し遅くに設定されている。だが、そこまで行けなければ意味がない。 であればそのターミナル駅までタクシーで向かえばよいではないかと思うところだが、それは愚策だ。ターミナル駅付近の繁華街を抜ける時間を考えると終電にギリギリ間に合わない可能性がある。

エッセイ | 束の間に桜

タクシーを待つ間だけお花見でもしようと思い、コンビニエンスストアでビールを買う。近くの川沿いには桜並木があり、そこにはベンチや机などが整備されている。今年はお花見もできていなかったからちょうどいいなと自分を納得させる。 今日も今日とて深夜までの残業が続き、私が会社で優雅にコーヒーを飲んでいる間に終電の時間が去っていった。 タクシーを探してフラフラと歩いていたが、なかなか見つからない。大抵の場合は最寄駅に着くまでの間でタクシーと出会えるのだが、今日みたいに全く見つからないこ

エッセイ | 偶然が当然

「奇遇だね、何しているの?」私の目の前に、そんなことを言っている友人が立っている。 「待ち合わせ場所なんだから当然でしょ。それよりも遅れたことの謝罪を聞こうか」私はなるべく表情を変えずに口を動かした。 「それがさ、偶然乗っていた電車が一つ前の駅止まりでさ、まいっちゃったよ」友人はまだヘラヘラとしている。 「電車は決まったダイヤで動くんだから偶然ってわけはないでしょ」まったく困ったものだ。 別の日に出かけていると、バッタリと友人に出くわした。 「こんなところで会うなん

エッセイ | 赤信号の徳

しくじった。今日はどこの会社も忘年会のようで、タクシーは西にある飲み屋街の方へ行ってしまっている。私のいるオフィス街へ走ってくるタクシーなんて1台もいないことが、アプリの画面上にありありと映し出されていた。 忘年会なんて羨ましいなと思いながら、今日も私は自分の暮らすマンションがある方角へと歩みを進める。 工事用車両や大型トラックが通り過ぎていくことはあるが、見事なほど1台もタクシーは通らない。 大きな交差点で立ち止まる。進行方向は赤表示だが目の前を通過していく車はいない

エッセイ | 好かれづらく嫌われにくい私は、熱しやすく冷めやすい

「なんで付き合えないんだろうね」食事に行くたびに友人はこう言ってくる。 一足先をいく友人は地に足をつけた生活を送っているため、浮いた話を提供してほしいのだろう。しかし、私に浮いた話などないため友人の発言は迷宮入りしてしまう。 そもそも交際できない理由がわかっているのであれば、どうにかして対応している。 「こっちはずっと考えているんだよ。既婚者の視点で俯瞰して見たときの意見をちょうだいよ」私は少しだけ友人にあたる。 「人に無関心なところがダメなんじゃない? もっと能動的