久しぶりにすごく好きだった人の話 


 私は、人を好きになるときは決まって一目ぼれである。外見的なひとめぼれもあれば、1時間ほど話して惚れてしまうこともある。ただ、その1度会った印象で決まってしまうのだ。逆に言えば、その1度目でピンとこなかった人は、その後好きになる可能性はうんと低い。というか、経験がないため0パーセントかもしれない。そんな私が人生で2度目の一目ぼれをした。
 1年ほど前に彼と出会った。Tさんとする。彼はバイト先のお客さんだった。彼の話す一言一言に、彼自身が意の赴くままにだけ行動しており、そこに後悔や自慢が入る訳でなく結果を淡々と受け入れる性格、少しの暗さと冷淡さが感じられた。なんだこの人。が正直な彼の第1印象である。変わっている、変わっているよ。だが、そこが面白かったし、理想主義な私は人にも自分にも期待しない彼にあこがれを抱いたのだ。彼の方はどうだったのだろう。20近く離れた女が簡単に懐いた姿は、不思議でラッキーだったとでも思っているのだろうか。仲良くなるのに時間はかからなかった。私はもう彼が話す言葉はなんだって興味がわいたし、自分の知らない、今までしたことのない話が多かった。
少し話が変わるが、私は考えることが嫌いだった。いや、中学生くらいまではすごく好きだった。いろんな妄想をし、こうしたらこうなるだろうな、みんなはどう思うだろう。きっと喜ぶ、私を受け入れてくれる。都合のいい妄想が大好きで毎日ぼーっとしては悲劇のヒロインや恋する乙女になっていた。だが、年齢を重ねるにつれ社会の厳しさや自身の様々な技能不足、自身と他人の感性の違いを知り、理想との差に落ち込むことばかりだった。妄想モンスターは理想とプライドだけを高くし、それが叶う順序を学ぶことはなかった。だから、考えるのをやめた。理想や自分の考えがあるから傷つくんだ、何も考えなければ理想との差に気づき、自身の愚かさを把握することなんてない。そう考えたのだ。

だが、彼と出会い、話し、彼の経験ととった選択の話を聞き私自身ならどうするだろう、私は彼の行動に賛成か、など聞かれた時に、自分の考える力の低さに驚いた。何も!言葉が!出てこない!! 大人になるって、何も言えなくなることだったのか?いっぱい空想して、自分はこうでありたいとしっかり思っていた小学生の私にれでは顔向けできない、、
彼といると、考える機会をもらえる。私はどう考えるのか自分でも試せる。空想がまたできる!のも楽しかったし、彼が話す優しさと、少しの冷たさがある話が好きだった。そんな日々がすごく楽しかった。
 そうして1年。週に一度は都合を合わせ会いに来てくれていた彼は今、月に1度用があれば会ってくれている。人の気持ちはこわい。急速に熱された石はすぐに冷め、時間をかけて熱された石は冷めるのにも時間をかけるという話があるが、まさにそれだ。彼の気持ちは急速に冷めてしまったようなのだ。うううう。受け入れられずにいるが、この文書を彼へのお礼として残しておきたい。
 彼は私と同じ目線で話してくれる。年が離れているから、私の話をないがしろにしたことはない。若いから何したってかわいいし、特別扱いなど甘いことはしてくれない。それが嬉しかったのだ。薄っぺらい好意では体験できない、心地よさが続いた。
 彼の考えが好きだ。人気のラーメン屋に二人で行った後日、彼がまたその店を訪れたとき、あの時食べたラーメンのほうがおいしかったと言った。お腹がすいてたもんね。と返すと、あなただよ。楽しさはおいしさに変るんだよ。と教えてくれた。えー!?そうだよなあ、美味しかったもんなあ。どうしてだろうと考えて、私のおかげだったことなんて今まであっただろうか。こんな私でも何かをプラスにする効果があって、しかもそれが大好きな人に効果があったと思うと、私ってばやるじゃんなんて馬鹿なことを思った。彼は、私に自信を与えてくれるのだ。彼といるときの私が、私は好きになった。
 ただ、最近の彼といる私はどうにもこうにも彼に嫌われたくないアンド語彙力のない会話(上記然り、考えるのを放棄して何年も過ごしてしまい、考える力と自分の思いを伝える力が格段に落ちてしまった。)によりうじうじうじうじ、なんの面白みのない時間を彼に与える、そのくせ愛情表現だけは求める色欲モンスターと化している。私が大の苦手とする薄っぺらい好意を押し付ける人間と化している。嫌いだ…おえー。いつの間にこんなことになってしまったのか。出会ったときのほうがもっとたくさん話したくて、自分の考えを素直に話せていたはずなのに。
 そんな私に嫌気をさした彼に今どう接すればよいのか到底わからない。彼がいいと思う人間を演じるのにも限界が来たのだろう。ありのままを見せられない関係性が、楽しかったのに、これが恋というものだと思っていたのに、つらくなってしまった。今更どうしろというのだ…。彼のような人間になりたいと思う反面、なれないことを悟っているからあこがれ続けられるのだろう。なんせこのうじうじから脱却したいため、離れるのが正解なのだろうか。恋愛は生もので賞味期限があるというが、はやすぎはしないだろうか。おーいTさん。今離れたら私は、以前遊んだ女の一人となるのですか?新しい女に言うのだろう。お店の女の子と遊んでた時にさ、って。くやしいくやしい。むきー。あなたと過ごす時間が好きだった。車を止めて、レモンティーを一緒に飲むのが好きだった。夜の大阪で手をつないで歩いたあの夜は私にしかわからない、ずっと覚えておきたいもので、あの時の気持ちが今でも私を照らす。たくさん楽しい時間をくれて、一緒にいる時間だけは、自分のことを好きになれた。理想の私にしてくれた。とっても好きだったよ、残念だな。
ありがとう

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