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イスラーム哲学を日本語で学ぶ

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慈悲あまねく慈愛深きアッラーの御名によって

イスラーム哲学の入門基礎としてアッラーマ・タバータバーイー師執筆の哲学書ビダーヤト・ル=ヒクマبدایة الحکمة があります。この中で師は自身の考えを述べると共に、イブン・スィーナーやモッラー・サドラーの考えを中心に紹介し批判検討しています。

なぜ入門書か?というと、幾つか特徴があります。
1.大変簡潔で能弁なアラビア語で執筆され、
2.体系付けられた議論が各々の章節に分類され、その分類が極めて優れる

ハウザ(ホウゼ) حوزه علمیه というイスラーム神学校で哲学を学ぶ際に必ず学ぶ書籍です。履修にあたり、イスラーム論理学とその用語の理解、イスラーム哲学で扱う話題とその基礎的理解を有することが条件です。入門書ですが、簡単だから入門書なのではありません。

ちなみに、このビダーヤト・ル=ヒクマですが、故・黒田 壽郎先生の日本語訳が出版されています。

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日本語で読めれば理解できるか?というと、正直この訳本ですが、ビダーヤト・ル=ヒクマを正確に理解した日本人ならば、心を砕けば理解できるのかなぁ?という仕上がりになっています。ですから、アラビア語やイスラーム神学・哲学・論理学を知らない、たとえば西洋哲学などの違う分野の哲学専攻者が読んだとしても、この日本語訳からは到底内容を理解出来ないと明言しておきます。

黒田先生には最大の敬意を払いますし、この業績は偉大だと思います。それだけビダーヤト・ル=ヒクマの書籍価値があり、日本人に知って欲しい気持ちが強く表れたのだと思います。また、黒田先生が翻訳したことで、様々な学者・研究者の関心を引き寄せることにもなった筈です。

ですが、

このビダーヤト・ル=ヒクマを、理解するために必要な内容をその都度説明し補いながら、日本人講師が分かりやすく、簡潔に講義したシリーズが全て無料で視聴出来ます。

本当にイスラーム哲学を知りたい、というのでしたら以下の第1課からご覧ください。もし、この内容を理解出来れば、ハウザ(ホウゼ)などのイスラーム神学校での試問で合格ライン程度には理解出来ていることになります。

是非、チャレンジしてみてください


当然、哲学専攻で長年経験を積んだ博士号持ちのイラン人教授らが教える水準では解説されていません。ですから、いまいち腑に落ちない点が出てくるかと思います。ですが、現時点で間違いなくこれが、一般の日本人がイスラーム哲学に手を伸ばした際に、一番分かりやすい授業・解説です。

今後、より詳しく本格的、そして何より分かりやすい授業が期待されます。


補足:
イラン人以外の外国人がイスラーム神学校で最初にイスラーム哲学を学ぶ際には、殉教者モタッハリー師の書籍をまず学びます。

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(121/203頁以降が哲学になります)

ペルシャ語の音声で学習できるサイトです

この本の哲学の章を最初に学びます。
この本は、哲学の歴史を西洋とイスラームを比較してその違いを明らかにするとともに、イスラーム哲学の話題を概説しています。


この次の段階で、実際にイスラーム哲学の内容について学びます。

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(ファイルは昔の版です。最新版が見つかり次第更新します。)

ペルシャ語の音声で学習できるサイトです

この本は、ホッジャト・ル=イスラーム・ワ・ル=ムスリミーンであるアリー・シルワーニー博士が執筆したイスラーム哲学を概説した書籍です。

この本は大変使い勝手が良い本で、西洋哲学のデカルトやライプニッツ、イマヌエル・カント、オーギュスト・コント、特にデイヴィッド・ヒュームの懐疑論などの話題とそれに対する回答を体系的に記している点や、今後ビダーヤト・ル=ヒクマを学ぶ際に絶対に必要になる、論理学の基礎的事項たとえば命題文の種類とその重要な違いについても詳細に解説している点、イスラーム哲学で扱う問題を的確に概説している点で、イスラーム哲学の基礎力を養成してくれます。

そして、神学校の女性部ではイスラーム哲学をこの本で学びます。

本来はこの本をしっかりと勉強すべきだと思いますが、残念ながらイラン人以外の外国人相手の神学校では十分に単位を割いて勉強できるプログラムに未だなっていません。一週間に90分×2コマの4単位ありますが、大抵のクラスでこの教科書の半分も消化することが出来ず、期末試験を迎えることになります。

もっとも、学生側の努力も絶対的に足りないのでしょうが、この本はボリュームがあります。一冊まるごと終えるには1ターム(4カ月)4単位では少なすぎます。

そして、この本に習熟せずビダーヤト・ル=ヒクマへ行くと苦労すると思います。勿論ビダーヤトから始めても問題ないですが、理解するスピードや詳細な議論(ナハ―ヤト・ル=ヒクマに繋がる話題)までを消化できるかは難しいと思います。

神学校では1タームに習得する範囲がカリキュラムで定められていますが、大抵最後まで届かず終了します。先生がつい詳細な話題を展開して時間オーバーするパターンも多いですが、学生側の理解が追い付かずに最後まで終えられない場合もあります。

理想はこの2冊を十分に学んで、アラビア語文法や語彙力の素養も備えた状態でビダーヤト・ル=ヒクマを始めることです。


次はビダーヤト・ル=ヒクマです

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上記はアラビア語のみ

ペルシャ語の翻訳付き

解説付きpdfは後日発見次第ここに置きます。

原典アラビア語版、翻訳付き版、解説付きのタイプがあり、有名な先生方が解説を附しています。やはり、シルワーニー博士の翻訳解説付きが使い勝手が良いように思います。

どうしても、神学校の授業で展開される重要な点や論点を掴むには解説が絶対に必要です。教授も単に翻訳と概説だけではなく、そこから派生する重要事項について言及しますが、それは本文や翻訳を読んでも読み取れないことが殆どです。予習や復習する際にも、解説付きのタイプを手元に置いておくことが望ましいです。


そして、
最後はナハ―ヤト・ル=ヒクマ نهایة الحکمة です。

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この本ですが神学校では修士課程から学習します。ビダーヤト・ル=ヒクマでの話題を更に掘り下げて議論が展開します。

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