現在あるオタク・7 赤いコートと白パーカーと

 愛する仮面ライダードライブのVシネ、しかも2本立ての上映会に、キャストの舞台挨拶がある! 
 いきり立った私と旦那は意地でもチケットをとって行こうと決めた。
 チケット運の女神のお情けにすがろうじゃないか。ここで火を噴いてくれ、私のチケット運、と申込んだら、九州の友人が私たち夫婦の分まで申し込んでくれていた。
 しかも彼女は東映ファンクラブの会員様である。有り難い。修羅場で水戸黄門、ウルトラセブンが苦戦時のカプセル怪獣ミクラス並みに有り難い。

 かくして私たちオタク夫婦と友人は、それぞれに3枚を申込んだ。

 ダブったら外れた人にお譲りすればいいよね、そんな風にお気楽に考えていられるのは、『大チケット争奪戦』が予想されているからだ。
 多少の差はあるが、人気特撮関係イベントのチケットは大変倍率が高い。大激戦になり瞬殺されることも少なくない。
 予約・販売サイトで何時から受け付け開始、と告知があると、事前にログインし必用条項を入力のうえ、その時刻に代わる瞬間に「実行」をクリックする。
 一瞬でも乗り遅れると撃墜される、巨大ロボットのビームのスイッチと同じだ。

 私と旦那は二人して自分のパソコンの前に陣取り、全ての条項を入力して申し込み開始時刻になるのを待った。そして時間とともにクリック!
 だが、あえなく撃沈だ。画面には無情の

『ただいま大変繋がり難くなっております。しばらくたってからアクセスしてください』

 オーノー!私と旦那の絶望の声が響き渡る。

「また『ただいま大変システムが込み合っています』だよ ! 旦那」
「こっちもだ。無念」

 あきらめずに何度も連打。いつかひょっとしたタイミングで繋がるかもしれぬ。
だが、ようやくつながったかと思うと

「残念、全席占領された後であります」
「そちらもか。こっちもであります」
「天は我らを見放した ! 」

 繋がった途端に画面上には「全席売り切れ」の文字が。この絶望感たるや。 

「そっちどうでした?」

 特撮友達からメッセージが入る。

「全滅でした。夫婦そろって枕を並べて討ち死にです」
「こちらは確保できました」
「えっ」
「えっ」
「チケットとれました」
「やたー」

 まさにビオランテに沢〇靖子、アイアンキングに水、ハクション大魔王にマルシンハンバーグである。
 友よ、ありがとう。
 池田秀一さんの声で「私はよい友を持った」と言いたくなるぞ。
 友よ、あなたには「やめてくれ、兵が見ている」と返してほしい。

 そんなこんなで2016年10月9日。まだ残暑厳しい午前と言うかお昼間。
 私と旦那は車で品川に向かった。
 場所はよく知っている。品川インターシティーと言えば駅から直結のビル群の一つ。
 休日で、いつもはぎっちり詰まる湾岸道路も空いていたので、家から正味20分前後で着いてしまった。
 しまった、早く着きすぎた。私と旦那は早めの昼飯をとることにした。
 同じ建物のマックでバリューセット。ドリンクはМサイズのアイスコーヒー。
 これってVシネチェーサーや本編で、詩島剛ちゃんがすずーっと飲んでた形状だよなあと、受けまくりながら、氷ギンギン冷たいアイスコーヒーでこれからの上映会の興奮を鎮めようとした。

 後々これがいけなかった。

 早めに上映会場に行くと、もうみっしりと人の波。常日頃静かなオフィス街のコンペホールが若い女性の熱気と香りとエネルギーで満たされている。
 ビッグマックセットよりお腹がいっぱいになるぞこれ。
 あさイチの飛行機で上京した友と合流し、疲れながらもテンションは上がる。
 旦那に至っては、相手は初対面の女性なのににこにこ愛想よく挨拶し、特撮話で和んでいる。
 そんな特撮オタク度も年齢もぶっちぎりで高いであろう私たちは、また別の面でも人目を引いていた気がする。
 それは後述するが、着ているものが原因だったと思う。そしてこの年齢だ。
 50歳オーバーは、ファンイベにはなかなかいないぜ、オウイエ。

 応援上映会であるから、好きなキャラクターのコスチューム(プレミアムバンダイの公式通販で売っている) のをお召しになっている方は当然多い。 特に稲葉友君演じる「仮面ライダーマッハ」の主人公・詩島剛の衣装はこの会場でも他のイベントでもよく拝見した。
 純白に赤いラインが入り、裏地も赤のパーカー、本編から2年経過したVシネ版らしく落ち着いた色味にアメリカの州のロゴが入ったTシャッ。
 本編では白のコンバースに靴紐までTシャツのカラフルな色と統一され、ダークな色合いの衣装が多かった仮面ライダードライブ本編中では一際鮮やかだった。
 その衣装姿で記念写真を撮る少女たちのお姿に、わしら夫婦は微笑ましくなった。

 また「仮面ライダーハート」の主人公、長身美形な蕨野友也氏扮するハート様(様は必須である。北斗の拳の敵キャラの方が先では、という異論は認めない) の、赤と黒のレザーの切り換えロングコートのコスチュームの方もまた見かけた。
 襟元に盛大にファーが付き、防寒の意味ではばっちりだが風を通さず夏場はきつい。
 そんなロングコート姿が、会場にも他のイベントにもいらした。
 まことに、推しへの愛は暑さ寒さを凌駕し、キャラへの一体感で陶然とさせるのである。
 私たちのように近所に野菜を買いに行くときや、コンビニや郵便局に行くときに、ジャージ代わりに引っ掛けている手合いとは、初めから気合が違う。
 讃えるべし、愛のコスチューマー様達である。

 開演時間までは余裕があるが、もういい加減、お客様の列がヤバげになってきたのと、会場内物販の準備が整ったのとで(多分) 思ったより早めに入場が始まった。
 まずは役者たちのサインが入った壁紙の前で記念写メ。そして物販に突である。

「旦那も参戦する?」
「俺はいいわ。作品鑑賞に命燃やすために体力温存するわ」

 ライダーセリフをさりげなく絡ませるとは良いセンスだ、旦那。

「んじゃあたし達は戦って来るわ」
「御武運を祈る」

 さっさと席に着いて寛ぐ旦那を置いて、私と、朝一の飛行機で上京した友人は、コミケの如く賑わう物販に突入した。 
 グッズがあるなら購入するのが人間のルールではないのか。
 イエス。それが制作側への課金となり、制作資金となって行くのだと思えば。
 レッツゆるめろ財布のひも、である。

(インターミッションも本編とつかず離れず続く)

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